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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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水の精霊アクア

 エンタル……

 私は私達の子を見殺しにすることはできない。


 あの子達ならきっと水の石の力にとらわれることはないだろう……


 水の巫女ダリンは深呼吸すると、額についている青い石を噴水に投げ込む。


「水の精霊よ。このダリンの名の下に結界を解く。我の言葉に従い、いでよ」


 ダリンがそう言うと、噴水が四方に弾け飛ぶ。そして霧のような水滴が舞う中、噴水のあった場所に青い石、結界を守る石とは異なる輝きを持つ石が現れる。

 それは眩しい光を放つと人型に変化する。


「アナタがワタシを開放したの?」

 人型になった水の精霊はそう問いかける。その姿は青い髪、目を持つ美少女だった。

「そうだ。私は水の巫女のダリン。火の精霊と戦っている者たちを助けてくれ」

 ダリンの言葉に水の精霊は少し間をおいた。その力を使って外の様子をみているようだ。

「巫女の指図は受けないの。でも。ワタシ好みの男の子がいたから助けてあげる。」

 水の精霊はそれだけ言い残すとダリンの前から姿を消した。



 森の中にぽっかり空いたクレータの中に、ケンジ、ユリ、べノイの3人は立っていた。ケンジとべノイはそれぞれの剣で火の塊を防ぎ、二人の影に隠れていたユリはどうにか無事だった。


「限界だ……」

「ケンジ!!」

 水の剣を持ったまま、倒れこんだケンジにユリが駆け寄る。

「へっ、俺も限界らしいぜ」

 べノイは皮肉げな笑みを口元に浮かべた。ケンジ同様よれよれで、倒れそうになる体を剣で支えている。

「やっと、おとなしく殺されてくれるみたいね。今回はちょっと疲れちゃったわ」

 火の精霊カーナは地面に降り立つとそう言う。その表情は喜び満ち溢れていた。

「さあて、どうやって止めを刺そうかしら。火の鞭か、火の球か……」

 カーナは迷いながらケンジ達の元に近づいてくる。ケンジは辛うじて意識を保っているもの、立つことができなかった。ユリはケンジをかばうようにして立ちあがった。ベノイは杖にしていた剣をよろよろと持ち直し、構えを取る。

「きっめた~。火の鞭にするわ」

 カーナはその赤い瞳を輝かせると火の鞭を両手で握った。


「ちょっと、待って!」

 声がして、カーナの目の前に突如として水の塊が現れる。その塊は徐々に人型に変化した。

「悪いけど、ワタシの彼に手を出さないでくれる?」

 現れた青色の色彩の美少女、水の精霊は艶美な笑みをたたえてカーナに言う。

「げっ、水。いつの間に自由になったのよ。邪魔しないでくれる?アンタはまだ誰とも契約結んでないでしょ」

 水の精霊の言葉にカーナは明らかに不機嫌そうな顔をした。

「契約はしてないけど、契約主はこの子って決めたの」

 水の精霊は倒れているケンジの側に飛んでいくとそう言った。


 ど、どういうこと?

 この人が水の精霊??


 ケンジは状況がわからぬまま顔に巨大なクエスチョンマークをつけて水の精霊を見上げた。


「ワタシは水の精霊よ。アナタはケンジっていう名前でしょ。ワタシに名前を付けてちょうだい。そうしたらアナタはワタシの力を手に入れることができるわ」

 水の精霊はそう言うとケンジににっこりと微笑む。

「そんなことさせないから!水とアンタ達を契約させるわけにはいかないの!」

 カーナはその手から火の槍を作り出すと、ケンジ達に向かって放つ。

「火、邪魔しないでちょうだい!」

 水の精霊は左手を掲げる。すると水の壁がケンジ達を庇うように現れ、火の槍を防いだ。

「ほら、早く。ワタシはアナタが気にいったの。契約してちょうだい」

 戸惑うケンジに水の精霊はせかせるように微笑む。


 うわあ、かわいい。


 ケンジは状況も忘れ、美しい笑顔に見とれる。しかし、同時にユリがなにやら仏頂面をしているのも視界に入った


 なんだ?

 なんで、橘さんが?

 いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃない。

 このままじゃ、僕たちはあの火の精霊に殺されてしまう。

 橘さんの顔は怖いけど、契約しなきゃ!


「ワタシに名前をつけるだけでいいの。それで契約終了よ。ときどきアナタの精力をいただくけど」

 ケンジの決心が伝わったのか、水の精霊はそう言うとその可愛い唇をケンジのものに重ねる。

「ね、簡単でしょ」

 重ねた唇から何かが吸い出されたような気がしたが、何も体には変化がなかった。そのことにほっとするが、さっきしたキスがファーストキスだと気がつき複雑な心境になる。

 ケンジが戸惑っているとユリが口を開いた。


「ケンジ、死ぬよりもましよ。早くそいつに名前をつけて契約してよ」

 橘さん……

 今ケンジって言った??

「ほら、ケンジ!」

「ケンジ、まずいぞ。火の精霊が!」

 ベノイが焦った声で呼ぶ先に、カーナの火の鞭が迫っていた。

 あれを今度食らうとまずい!

「えーと、えーと、じゃあ、アクア!」

「了解~」

 水の精霊、アクアはそう言うと水の塊に一度なった後、再び姿を現した。その姿はふわふわな青い髪に青い大きな瞳をもつ美少女だった。

「気にいったわ。この姿!」

 アクアは満足そうに微笑むとカーナの火の鞭を水の槍で防いだ。

「間に合わなくて、残念だったわね」

 水の精霊アクアがそう言ってカーナの目の前に立ちふさがった。その後ろにケンジ、ユリ、ベノイが控える。

「これで一機に形勢逆転って奴だなあ」

 ベノイが嫌味な笑みを浮かべてそう言った。

 

 精霊同士の戦いはほぼ互角、それに加わって弱っていると言え、精霊の力を持つ武器を持つ人間が3人。

 カーナは自分が不利になったことがわかっていた。


「カーナ」

 タカオがカーナを呼んだ。

「水の精霊があちらについたなら用はない。僕らはここで失礼しようか」

 タカオはいつもと違う強い口調でそう言った。

「そうね。時間の無駄だわ。」

 カーナはケンジ達に背を向けるとタカオの側に飛んでいった。

「それじゃ、僕らはここで。また会おうね」

 タカオはいつもの微笑みと浮かべるとカーナと共に炎の塊になり、空に消える。


 完全に消えたのを確認して、ケンジ、ユリ、ベノイはその場に座りこんだ。

 アクアは久々の外の世界が楽しいのかうろうろと飛びまわっている。


「え、あ、タケダが無事だったってことは、カナエは?!」

 ベノイが急に思い出して叫ぶ。

「私はここだ」

 そう答える声がしてカナエが姿を現した。

 右腕からだらだらと血を流し、その顔は青白くなっていた。

「お前大丈夫かよ」

 ベノイがカナエの体を支えるようにして掴んだ。

「武田……」

 しかしカナエはベノイのその問いに答えることなく、微かなつぶやきを漏らすと気を失った。




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