不利になっていく戦いの中で……
水の巫女ダリンは神殿から外の戦いを見ていた。
エンタル……
水の剣を持つものも覚醒したようだ。
あの子に水の石を託してもいいだろうか……
火の精霊とあの男……
今のままではいずれ負けてしまう……
エンタル……
いいだろうか……
ダリンは神殿の中央に設置された丸い小さな噴水を見ながら、今は亡き先代のエンタルに話しかけていた。
「ふん。水の剣があるからってこのアタシに勝てると思ってるの?精霊の力なしにこのアタシに勝とうなんて思わないことね!」
火の精霊カーナは休むことなく、火の鞭をケンジに振り下ろしていた。
ケンジは水の剣の力を使って、辛うじてはね返してるが、すでにぜいぜいと肩で息をしていた。
やっぱりゲームやアニメとは違う……
いくら剣が強くても僕がこれじゃあ……
「ほら、よそ見してないで!」
カーナは剣を構えているケンジに火の鞭を振り下ろし、空いた手で火の塊を作った。
「ケンジ!!」
ユリはもうだめだと思って目を閉じ、べノイは力なき体を起こし、ケンジの元へ走ろうとした。
まぶしい光が辺りに充満する。
「あらあ?まだ生きていたの?」
カーナの残念そうな言葉があり、煙の中からケンジが水の剣を構えた姿のまま現れた。どうにか水の剣で防いだもの、ケンジは体力限界だった。
ユリとべノイはケンジが無事でほっとしていたが、彼の体力が限界にきていることに気づいていた。
ユリは再び弓を構え、べノイも剣を支えに立ち上がり、剣をカーナに向ける。
「ふうん。まだやる気。いいわ。まとめて片付けてあげる」
二人の様子をみてカーナはその口元に笑みを浮かべ、火の塊を作るため両手を宙に掲げた。
大きいものを作る気だ!
今度はべノイでも防御しきれないかもしれない。
僕の水の剣を使えばなんとかできるかもしれない。
ケンジは重い体に鞭を打って、ユリ達のもとに走った。
「水の剣で防ぐ気?いいわ、できるならやってみなさいよ」
そう言ってカーナは火の塊をケンジ達に放った。
「?!」
大爆発があり、熱風がカナエのもとに届いた。
「勝負あったみたいだね」
タカオは淡々とそう言った。
「ほら、人のこと気にしてる場合じゃないよ。」
タカオはカナエに剣を向けた。
しかしその剣先はカナエの首元の直前と止められていた。
「そうだ、いっそうのこと、上杉も僕と一緒に行かないかい?楽しいよ。昔みたいに仲良くしようよ」
タカオは目を猫のように細くして笑う。それは高校生の時に見た彼の表情と似ていた。
しかし、カナエはそれが昔のタカオとは同じではないことを知っていた。
「誰が!」
カナエは首元の剣先は右手で弾き、左手の拳でタカオの顔を狙った。
タカオはその拳から体を後退させて、避ける。
「今の僕には勝てないよ。今の僕には力だけでなく、迷いってものが存在しないんだ」
タカオはそう言って剣をカナエに振り切った。
すると剣から風が放たれる。
カナエはとっさに地面を突き、土の壁を出現させて防いだ。
「甘いねぇ」
しかし気がつくとすぐ側にタカオが来ていた。
「上杉、君は僕に絶対に勝てない」
タカオは迷わず、その剣を振り下ろした。
「っつ」
避けたが間に合わず、その右腕から血が吹き出る。カナエは左手で傷口を押さえ、出血を少しでも抑えようとした。
「血まみれだね。上杉」
タカオはカナエの頬を左手で包むように触った。
「どうして、君はいつも強情なんだ」
その右手には風の剣が握られている。
「もういい。お前になら殺されても……」
カナエはその目をタカオに向けて言った。
別れを切り出した高校3年の時から、今まで10年間、
カナエはこうやってタカオを近くで見ることはなかった。
カナエはタカオを好きだった。
でもカナエは耐えられなかった。
好きだから、体だけの関係を続けるのが耐えられなかった。
「上杉……」
タカオはカナエの目にとらわれて動けなかった。
心がないはずなのに、体が軋んで動きがとれなかった。