ケンジ、男を見せる!
「ナトゥさん、大丈夫ですか?」
ケンジがナトゥのところへ行くと、満身創痍のナトゥが倒れていた。
ベノイに金の剣を投げ渡して力を使い果たしたらしい。
「行きますよ」
ケンジはナトゥの体の下に潜り込むと、肩を貸し、足を引きずる形で背負うと洞窟に向かって歩き出した。
ケンジは目の前で繰り広げられる戦いから背を向けることしかできなかった。
だめだ。
僕は、やっぱり……
「小ざかしいわね」
カーナは横から飛んできた火の矢をうるさそうに火の鞭で打ち落とす。
「この火の精霊に、火の武器で対抗しようだなんて。」
そう言ってカーナはその火の鞭でユリを襲った。
「危ない!」
べノイがユリの目の前に立ち、金の剣で鞭を弾き飛ばす。
先ほどからの戦闘でべノイの体力が落ちているらしく、その吐く息は荒かった。また体のあちらこちらから出血しているのも見てとれた。
「ユリはあいつの気を引いてくれ。その間に俺が奴をたった切る!」
ユリはうなずくと火の弓を構え、カーナに向け矢を次々と放った。
「小ざかしいわね!言ってるでしょ」
カーナは火の鞭を振り回しながら、矢を打ち落とす。
「俺の剣をうけてみやがれ!」
「っつ」
横から襲い掛かったべノイの金の剣でカーナの腕が切り落とされる。
「このぉ。火の精霊カーナ様を舐めるんじゃないわよ!」
カーナは一瞬で腕を再生させるとべノイに向かって火の塊を放った。
べノイは至近距離から火の塊を受け、弾き飛ばされる。
金の剣で防御していたため、その体が燃え上がることはなかったが、
体が地面にぶつかりダメージを負った。
「べノイ!」
ユリはべノイの元に走り、助け起こした。
「惜しかったわね。人間にしては上出来だわ」
カーナは再生した腕を振り回してそう言った。
「でも、もうこれで終わりね。もう少し遊ぼうと思ったけど疲れちゃったわ」
カーナは両手を宙に掲げ、火の塊を作り始める。
べノイは立ち上がろうとするが、思ったよりダメージが大きく立ち上がれなかった。
「じゃあね!」
轟音が洞窟内に響き、熱風が入ってきた。
橘さん!?
ケンジは洞窟内で立ち止まり、ナトゥに肩を貸した状態で後ろを振り返った。
「ケンジや。行ってやるのじゃ。お前の水の剣ならばどうにか対抗できるかもしれん」
ケンジの肩の上で意識を取り戻したナトゥがそう言った。
怖い……。
でもこのままじゃ、橘さんが、みんなが殺されるかもしれない。
今の武田係長は普通じゃない。
ケンジはナトゥをその背中から降ろすと震える手で腰の水の剣を触った。
そして恐怖ですくむ足を無理やり、元来た道に向ける。
「ナトゥさん。僕、行ってきます」
今やらなきゃ。
僕しかいないんだ。
「頼んじゃぞ、ケンジ」
ナトゥは走り去るケンジの背中をじっと見つめた後、神殿に向かって歩きだした。
洞窟から出ると辛うじて金の剣を構えているベノイ、
その背中に隠れてるユリの姿が見えた。
よかった無事だったんだ。
「あら。逃げたと思ったねずみがまた戻ってきたみたいね。人間が何人いようと一緒だけどね。まあ、さっきの火のボールを受け止めたのはすごいわね。人間にしてはなかなかやるわ。」
カーナは火の鞭を指に絡ませ、金の剣を構えるベノイに歌うようにそう言った。
「やっぱりこれを使わないとだめみたいね!」
カーナは両手で火の鞭を掴むとベノイとユリに襲いかかった。
神様、僕に力を。
橘さんを守れる力を!
ケンジは水の剣の柄を握り、鞘から引き抜いた。
そして再度祈った。
神様、僕に力を!
祈りが神に届いたのか。
水の剣が輝き始める。
ケンジは、ベノイの前に立ち火の鞭を受け止めると、カーナに向かって剣を振り切った。
「くっ」
剣から多量の水の発生し、カーナに襲いかかる。
「水の剣もあったのね!」
カーナはその水に火の塊をぶつけ蒸発させた。
「今度は僕が相手だ」
ケンジは水の剣を構えると、カーナに切りかかった。
「ほら、よそ見してたら危ないよ」
タカオは風の剣を振り下ろした。
寸前でカナエが避け、その拳をタカオに向ける。
「上杉、相変わらず、いい腕してるね」
拳を避けて、タカオはカナエの耳元で囁いた。
「武田。なんでお前は心を失うことを望んだんだ?」
カナエの問いにタカオは意味深な笑みを浮かべる。
「そういう上杉はなんで、男になりたかったの?」
「お前には関係ない……」
「じゃあ、僕も君にいう必要はないよね。心がないって最高だよ。楽しいことしか感じられないし」
タカオは本当に楽しそうにそう言って風の剣を振り回す。
「こうやって、君と戦うのも楽しいね。ぞくぞくする」
「目を覚まさせてやる。」
カナエはそう言うとタカオに向かって再び拳を向けた。