決戦1
「べノイ様!」
緊迫した声がして男が家に飛び込んできた。
「コモン!」
べノイはその男と顔見知りらしく、扉近くでぜいぜいと肩で息をしているコモンに近づいた。
「べノイ様、助けてください。村が、俺の女房が!」
コモンはべノイの両腕を力いっぱい掴んでそう叫んだ。
その両目は赤く充血し、体からは何かが焦げたような匂いと血に匂いがした。
「落ち着け、コモン。何があったんだ?!」
べノイは腕を掴むコモンの右手を掴み、落ち着かせるために肩を抱きながらそう聞いた。
「あらあ。爺じゃない」
男、コモンが洞窟の中に入ってから、数分後、洞窟から出てきたのはナトゥだった。
火の精霊――カーナは心底がっかりして顔をすると、右手には火の塊が作り、いつでも攻撃できるように構えた。
「火の精霊に、タケダという男か……」
ナトゥはそうつぶやく。
「なんとおじいさん。僕の名前をご存知で。上杉からでも聞きました?」
タカオは会った事もないナトゥが自分の名前を知ってるのが意外で、目を猫のように細めた。
「タカオ、役に立ちそうもない爺だから、燃やしてもいい?」
カーナは右手にある火の塊をくるくる回しながらそう聞く。
「そうだねぇ。そうしようかな」
タカオは軽くそう答えると風の剣を握る手に力をこめた。
「ふん。お前らに簡単にやられるようなナトゥ様じゃないわい」
ナトゥはタカオ達の会話に肩をすくめると、首元に巻いてある子供コブラに触れた。
「いでよ。金の剣!」
そう言うと、子供コブラが光を放ち、金色の剣に姿を変えた。
「あらあ。金の剣じゃない。懐かしいわ」
カーナはそう言いながら目を細める。
「でもアタシ、その剣が大嫌いなのよ。今回は木も、土も、金もいない。アンタ一人でアタシに勝てるかしら??」
カーナは宙に体を浮かせ、右手の火の塊をさらに大きくさせる。
「タカオはそこで見物していて。面白いものを見せてあげる」
そう言ってカーナは手の中の火の塊をナトゥに投げつけた。
「これくらいで」
ナトゥは気合を入れると、向かってくる火の塊を金の剣で両断した。両断された火の塊は燃え上がり、消える。
「ふうん。やるわね。でもこれはどうかしら?」
カーナを両手いっぱいに火の塊を作るとと次々と投げ始めた。
しかしナトゥはそれを避けながら金の剣を巧みに使い、すべてを消滅させる。
火の精霊は勇者の末裔を睨み付けた。
「おじいさん、なかなかやるね。これはどうかな」
それらを見物していたタカオがそう言うとナトゥに向かって、切りかかる。
刃先がナトゥに首元ぎりぎりをかすみ、皮膚が少し切れた。
「おしかったな。あと少しで首が飛んだのに」
タカオは残念そうに風の剣をくるくると振り回す。
「タカオ、手伝いはいらないわ。精霊の力を持っていない人間ごときに、このアタシが負けるなんてありえないんだから」
カーナを火の鞭を作ると、ナトゥに攻撃を仕掛けた。
ナトゥは最初の攻撃を避けることができたが、体力の限界か、次第にその火の鞭が体に触れるようになっていった。
「その金の剣はアンタには不釣合いのようね。魔法使いのようだし、無理かしら」
カーナは火の鞭を先端を手で絡みとり、余裕の笑みを浮かべる。
「時間がもったいないわ。タカオ、片付けちゃうわよ」
「いいよ。どうぞ」
タカオは風の剣を腰にしまいながらそう答えた。
「じゃ、爺。これで終わりにしてあげる」
カーナは火の鞭を手にナトゥに向かって飛び掛った。
「マジュラ!」
ナトゥは左手をカーナに向けて、そう呪文を唱えた。するとその手の平から氷の槍が発生し、カーナに放たれた。
「ちっ」
カーナは慌てて、火の鞭でその槍を打ち落とす。
「小ざかしいわね。じじい」
その攻撃はカーナの怒りを買い、カーナは巨大な火の塊をナトゥに向かって放った。
「ふん」
ナトゥは金の剣でそれを両断したが、すぐ側にカーナの火の鞭が来てることに気づかなかった。
「ぐはっつ」
火の鞭はナトゥの腹の部分に当たり、その体が吹き飛ばされた。
「あら、ごめんねぇ。手加減するの忘れていたわ」
カーナは笑いながらナトゥの吹き飛ばされた場所に降り立った。
「これでおしまいね。さよなら!」
そして火の鞭をナトゥに振り下ろそうとした瞬間、手に痛みが走る。見ると手にナイフが刺さっていた。
「誰?!」
般若のような形相で振り向くと、そこにはべノイを筆頭にカナエ、ユリ、そして泣きそうな顔をしたケンジが立っていた。
「おや。皆さん、お揃いで。お久しぶり」
木に寄りかかってカーナとナトゥの戦いを見物していたタカオは4人の姿を見るとうれしそうに体を起こした。
「こいつらがアンタの仲間?」
「そう、正しくいうと元同僚ってことになるけどね」
カーナの問いにタカオは楽しげな笑みを浮かべて答えた。