ユリの真価
精霊の力が宿る武器はそれぞれ、
カナエが空手部出身ということで土のグローブ、
ユリが弓道部出身ということで火の弓矢を取り、
残った水の剣がケンジ担当ということになった。
そして地下の森の中の、ベノイが普段使っている稽古場で、ケンジ達は武器を使いこなす訓練をすることになった。
「さあて、俺がバシバシしごいてやるぜ」
ベノイは嬉しそうにそう言って剣を振り回す。
しごくって……
ケンジは冷や汗がでるのを止められなかった。
こういうノリが嫌でずっと帰宅部だったのに。
ここに来てこういう目に会うなんて……
「さあて、ウエスギから教えてあげようか」
ベノイは剣を腰の鞘に戻すと、カナエに近づく。
カナエは嫌そうな顔をベノイに向けるが、土のグローブを手にはめる。すると大きかったグローブがカナエの手に合わせるように小さくなった。
「すごいな。」
カナエは感心すると、すぐにベノイに拳を向けた。
ベノイは紙一重でその攻撃をよけたが、拳から発せられた気によって頬が少し切れる。
「やるなあ。ウエスギ」
ベノイは頬から流れる血を手の甲で拭って笑った。
「ベノイ、私を上杉と呼ぶのはやめてくれないか。カナエでいい」
カナエはベノイを睨みながらそう言った。
「なんで?ケンジもユリもそう呼んでるだろう?」
「理由はない。ただ嫌なだけだ」
カナエはそれだけ答えるとベノイに背を向ける。
やっぱり上杉主任と武田係長の間には何かあったんだ……。
上杉って呼ぶのは武田係長だけだったし……
「ちょっと触らないでよ」
ケンジがぼーとそんなことを思ってるとユリの声がした。
ベノイがユリに密着して、弓の使い方を教えようとしてる姿が見えた。
この色ボケ戦士……
橘さんにべたべた触りやがって。
うらやましい……
「私は悪いけど弓道9段なの。あんたの手助けなんて必要ないわ」
ユリはベノイの手を振り払うと、弓を構える。
姿勢がピンと伸びたのがわかった
視線は目標の木の的しか向いてなかった。
時間がゆっくりと感じられる。
ケンジはこんなユリの姿を見たのは初めてだった。
すごい、きれいだ。
ケンジがユリの姿から目が離せなかった。
ユリが矢を弦に掛ける。
シュッ
音がして的を見ると、矢は的の真ん中を射抜いていた。
「すごいなあ……ユリ。俺が教えることはなさそうだ。あとは武器と心を一つにすることだな」
ベノイは腕を組んでユリの技能を褒めると、今度はケンジのところへ歩いてきた。
「さあて、ケンジ。お前の番だな。しごきがいありそうだよなあ」
ベノイは腰から剣を抜くと、ぶんぶん振り回してそう言った。
ああ、嫌だ。
こういう体を動かすことって僕が一番苦手な分野だもんな。
パソコン上でレベルUPとか技習得できればいいのに……
ケンジが心の中で嘆く中、ベノイは楽しそうに剣を手で玩んでいた。