水の石の結界を解く条件
木陰でタカオはけだるそうに横たわり、その隣で人体化した火の精霊カーナが目を閉じて神経を集中させていた。
「だめだわ。クランに行ったのはわかったんだけど、気配が途切れたわ」
カーナはそう言って、タカオの唇にキスをする。精気は十分に満ち足りてるはずなのだが、火の精霊は事あるごとに契約主に口づけた。
「多分、結界の中にいるのね」
カーナはタカオから離れるとぺろりと舌で唇を舐めた。
奇跡の星のかけらから、カーナはケンジ達がどの辺にいるのか気配を探ることができたのだが、水の結界に入った時から気配がまったく感じられなくなっていた。
「アタシ、水の奴嫌いなのよね。本当に行くの?」
カーナは立ち上がりタカオにそう聞く。
ふいに葉が揺れ、木々の隙間からの光が差し込む。それはスレンダーなカーナの体を照らし、タカオの記憶をフラッシュバックさせた。
そう、あの日だ。
上杉は僕に別れを告げた。
「武田。私はもうこんな関係は嫌だ……。終わらせよう」
逆光で上杉の表情は見えなかった。
多分、いつものようにかたくな表情なんだろう。
上杉は僕と一緒にいるときはいつもつらそうな顔をしていた。
「タカオ?どうしたの?」
ぼんやりと自分を見つめるタカオを訝しがってカーナが聞く。
「くだらない記憶だ……」
タカオはそう言って立ち上がる。
光の噴水は本当仕事ができない。
いまだに武田タカオの心は僕の中にあるようだ。
早く石を集めて、すべてを破壊するんだ。
この弱い武田の心も一緒に。
ケンジ、ユリ、カナエの3人は着替えを済ませるとベノイと共に神殿のある池に向かった。
神殿では巫女ダリンが待っており、その横にはめずらしく難しい顔をしたナトゥが座っていた。
「お前たちに水の石を渡すのは早すぎる……しかし、ある条件を満たせば考えてやってもいい」
巫女ダリンはベノイと同じ鋭い目つきで、3人を見ると言った。
「その条件となんですか?」
カナエがダリンの視線を受け止めてそう聞く。
「お前達が所有している土のグローブ、火の弓矢、水の剣を使えるようになったら、水の石の結界を解いてやろう」
ダリンはカナエの問いに不遜な態度で答えると、もう話すことはないというように背を向ける。
「使えるってどういう意味ですか?」
カナエがその背中に向かって質問を投げかけても、返事が返ってくるはなく、その姿は神殿の奥へ消えた。
「わしが教えてやろう」
それまで黙って様子を見ていたナトゥが、椅子から立ち上がると口を開く。
「3つの武器にはそれぞれ微量であるが、精霊の力が宿ってある。その力を解放し、操ることができたらなら、水の石が解放されてもその力に惑わされることはないということじゃ」
なるほど……そういうことか。
そういえばバルーって人は石の力が強大すぎて、おかしくなったって言っていたよな。
でも、どうやって使えるようになるんだろう……
ケンジは小さいころからスポーツや格闘技というものを習ったことがないので、不安でいっぱいだった。