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南国の魔法  作者: ありま氷炎
後日談
151/151

南国のクリスマス7

「上杉!着いたよ。起きて」


 タカオの声でカナエは目を覚ました。

 数日間の疲労がたまっていたのか、緊張が解けたせいか飛行機の中でカナエがぐっすり寝ていた。


 近代的な美しい空港に降り立ち、タクシーを拾ってホテルに向かう。


 街の中心はクリスマス一色だった。通りの木々に照明や飾りがつけられ、街のいたるところでクリスマスツリーを見ることができた。多民族国家あり国際都市として名を馳せるこの国ではクリスマスは盛大に祝われていた。南国でありながら雪を模倣した飾りなどがあり、クリスマス気分を味わえた。


「びっくりしないでね」


 ホテルの部屋を開けるとベッドには若い女性が倒れていた。いや、熟睡していたというのは正しいだろう。

 昨日の朝、タカオが取引先に会う前に富の噴水を見に行ったら、銀の精霊が現れカナエのことを知らせた。そしてその場に偶然居合わせたメイリンが騒ぐので、銀の精霊が眠らせてしまったのだ。この世界では基本的に魔法は使えないが富の噴水の周りでは微量な魔法が使えるようだった。


「美琳。早安!起来。起来啊!(メイリン、おはよう。起きて、起きて!)」


 タカオがベッドの上のメイリンに呼び掛けるとその目をゆっくりと開いた。


「シャオシェン!」


 メイリンはタカオの顔を見ると抱きついた。タカオはメイリンの体をゆっくりと引き離すとベッドに座らせた。


「她是我的情人。 她是UESUGI」


 タカオの言葉を聞き、メイリンはその大きな瞳をじっとカナエに向けた。


「ワタシ。シャオシェン。アイシテル。シャオシェン ワタサナイ」


 そしてそう声に出した。カナエはそんなメイリンを見つめ返す。


「武田、今から私が話すことを訳してくれ」


 カナエがそう言うとタカオはうなずいた。


「私は武田が好きだ。愛してる。あなたには渡さない。死んでもだ」


 タカオは一瞬目を細めてカナエを見た後、メイリンに視線を向け中国語に訳した。

 するとメイリンはカナエをじっと見つめ、その後タカオに目を向けた。そして口を開く。

 タカオはメイリンの言葉を聞いた後、少し考え、日本語に訳した。


「最初からわかっていた。でも諦めたくなかった。シャオシェンだけが私の理解者だった。香港は冷たい。私はさびしかった」


 カナエはタカオの訳をじっと聞いていた。


「对不起。但是我爱孝生。(ごめんなさい。でも私は武田シャオシェンを愛してる)」


 カナエが拙い中国語でそう言うと、メイリンは下を向いた。

 タカオはじっとカナエの顔を見つめていた。本当であればカナエを今すぐ抱きしめたかった。こんな風に思いを口にするカナエをタカオはあの世界から帰ってきて見たことがなかった。


「ワカッタ。ワタシ アキラメル。而且他年龄大,我想找一个年轻的。(だってあなたは年取ってるし、私は若い人を探すわ)」


 メイリンの言葉にタカオは苦笑した。カナエは意味がわからずタカオの顔を見つめる。


「わかったって。諦めるみたいだよ。美琳。因为你可爱,所以你一定能找到好的男人(メイリン、君はかわいいから、きっといい人が見つかるよ)」


 タカオの言葉にメイリンは火の精霊カーナに似た勝気な笑みを浮かべた。


「当然了(当たり前よ)」


 窓にかかるカーテンの隙間から外の光が入ってきた。雨季にしてはめずらしく太陽が出ているようでまぶしい光だった。



「富の噴水にいかなくてもいいのか?」


 街を歩きながらカナエはそう聞いた。タカオはカナエの背中に手を回すとその頬にキスをする。


「行かない。今日はクリスマスイブだよ。誰にも邪魔されたくない」

「武田、ちょっと」


 街中でキスをするタカオにカナエは眉をひそめた。


「久々に会ったんだ。二人っきりになりたい。あの男とキスはしたんだろう?僕が全部消してやる」


 タカオはケルビンの唇が切れて血が少し出ているのに気がついていた。多分カナエが噛んだということは容易に想像できた。


「他の男と寝たら君を殺して、僕も死ぬ。わかったね。上杉」


 タカオはカナエをじっと見つめた。その黒い瞳に困ったような自分の顔が見える。


「……わかったよ。もう馬鹿なことはしない」

「当然だ」


 タカオはカナエの抱きしめ、その髪に顔をうずめた。


「煙草の匂いだ。あの男の……。上杉、今日は絶対に僕と一緒に風呂に入ってもらう。いいね」

「……わかった」


 カナエは真っ赤になりながらタカオの腕の中でしぶしぶうなずいた。

 逆らうことはできなかった。


 南国のクリスマスイブの夜が始まろうとしていた。

 夕暮れが過ぎ去り、薄暗くなる中、街のイルミネーションに明かりがつき始めていく。

 大勢の人が行き交う中、タカオとカナエはイルミネーションが輝く街の通りを二人で歩いていた。



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