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南国の魔法  作者: ありま氷炎
後日談
150/151

南国のクリスマス6

「どうぞ、こちらへ」


 カナエの姿を確認して嬉しそうにケルビンは微笑むと座敷の中に案内した。

 座敷は以前来たときと同じように煙草の臭いが鼻についた。

 履物を脱ぎ、中に入る。


「まずはご飯でも食べましょう。私の横に座ってください。そのつもりで来てますよね?」


 カナエはため息をつくと、ケルビンの隣に座った。


「こんな無理強いして楽しいか?」


 ケルビンの腕に抱かれ、その顔を睨みつける。そして芸者のように徳利に入った酒を盃に注いだ。できることであればこの前のように回し蹴りでも食らわせたかった。しかしできないことはわかっていた。


「無理強い?楽しいですよ。私にこびる女など山ほどいますから。こうやって嫌がるあなたを抱いていると征服欲っていうものですか?かきたてられて、ぞくそくします。さあ、そろそろ上に行きましょう。部屋をとってあります。」


 部屋は最上階だった。

 香港の夜景が一望できた。


(こんな夜じゃなければ美しく感じただろうな)


 カナエはそんなことを思いながら窓から外を見た。


「カナエさん」


 ぞっとするような甘い声が耳元で囁かれ羽織っていたジャケットが剥ぎ取れられた。

 カナエは眼を閉じた。


「あなたの彼氏は武田タカオさんでしたよね?彼女がこんなことをしていると知ったらどう思いますかね?軽蔑?」

「なんでそんなことを知ってるんだ!」


 カナエは窓に背を向けると至近距離でケルビンを睨んだ。


「この香港で私が知りたいと思えばなんでも知ることができるのですよ」


 そう言って笑うケルビンの背中越しに香港の美しい夜景が見えた。


(日本という国と飛び出して自分の力を試したかった。でも結局女という壁に阻まれたか…)


「あなたは美しいですよね。日本であなたのような美しい女性に会えることを楽しみにしたのですが…でもここであなたに会えてよかったです」


 ケルビンは嬉しそうに笑い、カナエに口づけようとした。


「口だけは嫌だ」


 カナエは唇を噛むと顔を背ける。

 ケルビンは眼鏡を取ると頬を掴み強引に口づけた。

 彼女はケルビンの唇を噛むとその体を力いっぱい押しのける。

 ケルビンの体がベッドの側に飛ばされた。


「抵抗されるのも楽しいですね」


 ケルビンは唇についた血を真っ赤な舌で舐めると立ち上がった。


(やっぱりだめだ。嫌だ、こんなの。ごめん、ジュディ)


 カナエは床に落ちたジャケットを拾うと部屋を出て行こうとする。


「どこにいくのですか?」


 ケルビンはカナエの腕を掴んだ。すごい力だった。


「やっぱりできない。こんなの嫌だ。お願いだ。ジュディの会社をつぶすのは止めてくれないか」

「だめです。あなたが私のものになってくれなければ会社は私の力を使って潰します。武田さんには黙ってあげましょう。何も結婚してくれと言っているわけではないのです。私のベッドの相手になってくれればいいだけの話です」


 ケルビンはカナエの両腕を掴み、その体を引き寄せた。


「美しいカナエさん、あなたがベッドの上でどうなるか見せてください」


 ケルビンの整った顔が近づく。


(嫌だ。こんなの死んだほうがましだ!)


 カナエがそう思った瞬間、部屋のドアは乱暴に開かれた。

 そして警官の制服を着た男達とジュディ、そしてタカオの姿が見えた。


「カナエ、本当あんたって不器用ね。わたしを誰だと思ってるの。ジュディ・チュアよ。私のコネを使えばこんな男どうにだってできるんだから」


 ジュディは男たちに広東語で指示を飛ばしながらカナエにそう言った。


「上杉、ジュディは政府の上層部に親戚がいるんだよ。だからこの男より権力が上ってことだよ。金よりやはり権力が先だからね」


 タカオはあきれた笑みを浮かべながら呆然とするカナエを抱きしめた。


「本当、君に何かあったら僕は生きていけない。わかっていないんだから」


 カナエはタカオの腕の中でただその言葉を聞いていた。



「じゃあ、クリスマス楽しんでね!」


 警官たちがケルビンを連れて行くのを確認し、ジュディは別の車に乗る。

 ケルビンはパトカー乗ってからも広東語でジュディをののしる言葉を叫んでいた。


「これで解決ってわけ?」

「そう、これからジュディの親戚の人がいろいろがんばってくれるみたいだよ」


 カナエの肩を抱きながらタカオはそう答えた。タカオの温かさを感じ、カナエはコートを座敷に忘れてきたことを思い出した。タカオは両手を温めるようにしているカナエを自分のコートで包み込む。


「さ、上杉。シンガポールに行こうか」

「そうだ、お前……。確かシンガポールにいたはずだ。なんでここに?」


 思い出したようにそう言うカナエにタカオは微笑んだ。


「マオに教えてもらったんだ。飛行機が間に合ってよかった。あと少し遅れていたら危なかったよね」

「マオ?銀の精霊?」

「そうだよ」

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