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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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五つの精霊の石

「何百年前の話じゃ…」

 そういってナトゥは語り始めた。


 ジャランの街から少し離れた西の村でバルーとティマは仲良く暮らしていた。

 バルーは村一番働き者で、ティマは村一番の優しい妻だった。

 しかしある日、ティマが流行の病で突然死んでしまった。

 バルーはあまりの悲しみのあまり、死んでしまうのではないかと思うほど痩せ、家の中に閉じこもってしまった。


 そんなバルーを哀れに思い、神はバルーにティマを生き返らせる方法を教えた。


 それは水金土火木の5つ精霊が宿る石を集め、失ったものの泉を出現させ、ティマの魂と肉体をこの世界に戻すというものだった。


 バルーはティマを生き返らせるために、5つの街に散らばってる石を探す旅に出かけた。


 1年後、バルーは火の石を手に入れた。


 するとバルーは人が変わったようになってしまった。

 石に宿る火の精霊の力を使って自分の欲を満たすため、破壊行動を繰り返すようになった。


 そして2年後、今度は水の石を手に入れた。


 火と水の石の巨大な力を得たバルーは自分が神と同等の力を得たと思い、世界を支配しようと思い始めた。


 そして妻のティマのことなどとっくに忘れてしまい、他の3つの石などどうでもよくなってしまった。


 神はそのバルーの変わりように、愚かな生き物だと人間の世界を見放した。


 神に見放された世界はバルーの水と火の力によって支配されようとした。

 しかし、金、土、木の石の力を持った勇者によって、バルーは倒され、世界は平和を取り戻した。


 石は勇者の元に5つそろい、奇跡の星となり、失ったものの泉を出現させた。

 そして勇者は泉の力を使い、バルーによって殺されたものを復活させた。


 その後、勇者はこの奇跡の星の力が悪い者に利用されるのを恐れ、石を再び5つ分けた。


 そして、特に力のある石、火と水の石にはそれぞれに巫女をつけ、誰にもわからないように結界を張って守るようにと言い伝えた。

 

 それから今まで5つの石を集めようとするものはいなく、石の存在も幻と思われていた。


「しかしじゃ、昨日西の村が襲われてから、人々の中には伝説を思い出したものもいるようじゃ」


 そう話し終わったナトゥは紙にタバコの草を入れ丸く巻くと、蝋燭に近づけ火をつけた。

 紙タバコから独特な香りが醸し出される。


「お前さんたちの仲間の一人も石を集めてようとしてるようじゃな」

 ナトゥは口から煙を出してそう言った。

「それはどういうことですか?」

 カナエはナトゥを見つめた。

「彼は力を欲しているようじゃ。すべての石を集め、世界を破壊したいようじゃの」

 ナトゥの言葉に3人は眼を見開いた。


 武田係長……

 なんてことを考えてるんだ……


 ケンジは愕然としてナトゥの顔を見つめる。

 カナエは息を吐くと口を開いた。


「止めることが可能ですか?」

「できないことはない。彼よりも先に石を見つけることじゃ」


 武田係長より早く石を見つける……

 そんなの可能なのか。

 地図は僕達が持ってるから有利としても、あの武田係長に勝てるのか……


「こんにちは~。皆さん。お元気ですか?」

 ふいにこの緊迫した雰囲気を壊す、緩やかな声がしてガイドが部屋の中に現れた。

「わあ、皆さん。現地の衣装を着てますね。似合ってます」

 ガイドはそう言っていつもの笑顔を向けた。

 ナトゥは突然現れた男を茫然と見つめて、たずねる。

「なんじゃ、お主は??」

「私はツアーガイドです。はじめまして。ああ、あなたが有名な占い師ナトゥですね」

 ガイドは唖然とするナトゥに握手をしながらそう言う。


「お前が武田に石のことを教えたのか?」

 そんなガイドの後ろ姿を見ながらカナエが怒りを押し殺した声で静かに聞いた。


 そうか……そういうことか。

 多分そうなんだろうな。

 武田係長は僕達よりこの世界について知っている。

 こいつが教えたとしか思えない……


 カナエを始め、ケンジ、ユリ、ナトゥが刺すような視線を向ける中、ガイドは営業スマイルを浮かべて口を開く。

「そうですよ。この世界で力を得たいとおっしゃったので」

 ガイドが微笑みを浮かべてそう答えると、カナエは怒りをこらえきれず掴みかかった。

「そのせいで大勢の人が殺された。わかってるのか?」

 カナエはガイドの首元を掴んだままそう言った。

「離してください。まったく乱暴ですね」

 ガイドはその身にそぐわない力でカナエの手を首元から引き離した。

「この世界で何人死のうが私には関係ないことです。私はあくまでもガイドですので、ただお客様が喜ばれるようにサービスしたまでです」

 ひょうひょうとそう言うガイドをカナエは睨みつける。


「サービスって、なんなのよ。武田さんは喜んでも私たちには大迷惑なの!」

 それまで黙っていたユリが口を開いた。

「そうだ。僕達にはなんにもメリットになっていない。だいたい、なんで武田係長はあんたに強いんだ。普通の人のはずなのに」

 ケンジの言葉にガイドは奇妙な笑みを浮かべた。

「ああ、あれですね。風の剣の力ですよ」

「風の剣じゃと??」

 ナトゥがその言葉に反応した。

「皆さまにもそれぞれ、土のグローブ、火の弓矢、水の剣をお渡ししたはずです。それらを使えば武田様と同じような力を得ることができるでしょう」


 ケンジの脳裏に茶色の袋に入っていた装備のリストが浮かぶ。


 そういえばそんなものがあったような……


「土のグローブに、火の弓矢、水の剣じゃと??お主いったい」

 ナトゥが訝しげにガイドを見つめる。しかしその問いに男が答えることなく、ただいつもの営業スマイルを浮かべるだけであった。

「これで皆様にもご満足いただけましたか?私の契約期間は本日正午までですので、あとは皆様をお手伝いすることができません。今回は弊社のライオンツアーをご利用いただきありがとうございました。後は皆様の力と勇気で乗り切ってくださいね。それでは~」

「え??」

「うそ?」

「!」

 ケンジ、ユリ、カナエが驚いてガイドの顔を見つめる中、ガイドはいつもの笑顔を浮かべたまま、手を振っている。

「待て!この無責任野郎!」

「待ちなさいよ!」

「ふざけんな!この馬鹿ガイド!」

 そして3人が罵声を浴びせる中、ガイドは空気に溶けるようにしていなくなった。


 信じられない……

 なんでだよ。


 ケンジは放心状態でガイドが消えた空間を見つめ、ユリはへたりとその場に座り込む。

 カナエはケンジと同じ方向を睨みつけていた。


 ガイドがいるからと半ばゲームの感覚でいたケンジは一気にこの世界が現実身を帯びてきて、放心するしかなかった。



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