ホワイトクリスマス4
クリスマスイブは雪が降った。
今年は降らないと思っていた雪だった。
エミの実家の喫茶店はこじんまりしたところであったが、クリスマスパーティということで、エミの近所の人や剣道仲間が集まっていた。店内にはクリスマスデコレーションがされていて、窓にはサンラクロースやトナカイが雪のような白いスプレーで描かれており、クリスマスリースが壁に飾られ色とりどりのリボンや飾りが付けられていた。そして少し小さめなクリスマスツリーが可愛らしく飾られていた。
「ユリちゃん!こっちこっち!」
クリスマス定番のケーキのブッシュ・ド・ノエルを抱えたユリをエミが呼んだ。
ユリの提案もありケンジ達はパーティの始まる少し前に喫茶店に行き、準備を手伝っていた。
毎年恋人と祝うものと決めていたクリスマスなのでこうやってワイワイとするクリスマスも楽しかった。
「ああ、俺も来年はユリちゃんのような彼女を作るぞ!」
「失礼ね。私はどうなのよ!」
剣道仲間のじゃれ合いが店の中に響き渡る。
「あ、ごめーん!お酒がなくなった。ケンジくん、ごめーん。お店すぐ近くだから適当に買ってきてくれない?」
「いいですよ」
エミにお願いされ、ケンジがソファーから立ち上がる。
「あ、私も一緒にいく」
ユリはエプロンを脱ぐとそう言った。その手にはバッグが抱えられている。
「エミ~。酒まだあるぞ。ワインも。なんで?」
二人が出て行った後、村野タダシが訝しげにメグミに聞いた。
「あ、あったのね。ああーいいわ。いっぱいあったほうがいいし」
エミは笑いながらタダシにそう答え、雪がちらつく窓の外に思いをはせる。
「あの店だ!」
酒屋を見つけ、行こうとするケンジをユリは手を引いて呼びとめた。
「これ、プレゼント」
「え、ありがとう」
渡されたのは透明な袋に包まれた手袋だった。
「手編み?ユリが編んだの?」
「うん、まあね」
ケンジは嬉しくなって袋を開けた。赤と黒の模様が入った温かそうな手袋だった。
「今つけていい?」
ユリが頷くとケンジはつけていた手袋をはずし、ユリの編んでくれたものを両手につけた。
「あったかい。ありがとう!」
ケンジはユリを抱きしめた。すると持っていた透明な袋が落ちる。そして風に乗って雪とともに飛ばされた。
「あーあ、ラッピングペーパー……。高かったのに」
ユリは照れを誤魔化すようにそう言う。
すぐ近くにケンジの顔があった。半年前とは違う男らしい顔だった。この半年で彼はすっかり男になっていた。
今ではユリのほうが彼にドキドキすることが多くなっており、悔しがっているのは秘密だ。
「ユリ、好きだ」
ケンジはユリを見つめるとその頬を両手で包み、キスをした。それは今までのキスとは種類の違うキスだった。
「け、ケンジ?!」
びっくりするユリにケンジはもう一度キスをした。頭がぼうっとするようなキスだった。
(すっかり男になっちゃって。まあ、いいわ。ケンジは今までの男とは違う。私自身を好きでいてくれるから……)
街はクリスマス一色だった。
家族づれや、恋人達が思い思いに通りを歩き、クリスマスソングが店の中から聞こえてきた。
少しだけ照れたようなケンジの腕を掴み、ユリはお酒を買うべく酒屋に入っていった。
次はタカオとカナエの話です。