ホワイトクリスマス3
「やっぱりね。思った通り」
エミはブラックコーヒーの入ったカップを手に持って窓の外を見ながらそう言った。
そしてコーヒーを一口飲み、ソーサーにカップを戻す。
「ケンジくんは私の亡くなった弟に似てるの。だから構いたくなっちゃうのよね。ケンジくんもそれを知ってるから私に優しいの。他意はないのよ」
彼女はユリの顔を見た後、再び窓の外を見つめた。
ユリは何も言えなかった。嫉妬していた自分が馬鹿みたいだった。
「そうそう。クリスマスパーティ、私の実家がやっている喫茶店で開こうと思ってるの。うちの両親にケンジくんを見せたいなあと思って……。変な誤解与えてごめんね」
エミは苦笑しながらテーブルの上のコーヒーカップを手に持った。
(ああ、本当、私って馬鹿だわ。ケンジのことをわかってない)
ユリは浅はかな自分が嫌だった。
「エミさん。そのパーティ。私もぜひケンジと参加したいです。いいですか?」
「ええ。もちろんよ」
エミは彼女の言葉を聞くとパッと笑顔を浮かべる。その笑顔はなんだかケンジに似ていた。
「メグミさん。私、色々すみませんでした」
「ああ、いいのよ。私があなたの立場だったら多分同じ行動とっていたはずだし。ケンジくんもかわいい彼女持って幸せね」
エミはコーヒーを一気に飲みして、その顔が熱さで真っ赤になる。ユリは思わず噴き出した。
「咽喉が痛い。熱い物を一気に飲むものじゃないわね」
水を慌てて飲む彼女を見ながらユリは笑いが止まらなかった。
ドアフォンのボタンを押すと、呼び鈴の音がしてケンジの顔が小さい画面に映し出された。
「ユリ?!」
ケンジはびっくりした顔を見せるとドアを開ける。
「どうしたの?忘れ物?」
「ケンジ、ごめん!」
ユリは頭を下げてそう言った。
「なに?どうしたの?とりあえず中に入って」
ケンジは眉をひそめながらもとりあえずユリの背中を抱き、家に招き入れる。
「ユリ、どうしたの?」
ケンジは俯いたままのユリの顔を見ようとしゃがみこみ、尋ねた。
「本当、私って馬鹿だわ」
「意味わからないけど、ユリはユリだろう。なんか最近おかしいよ。何かあったの?」
ケンジはしゃがみこんだままの姿勢でユリの顔を覗き込む。泣いているのがわかった。
「言わないとわからないよ。僕また何かした?」
ケンジは立ちあがるとユリを抱きしめる。甘い香りがした。
「いつも1人で怒ってごめん。誤解ばかりして」
「そんなの。いまさら……わかってるよ」
ケンジはユリの背中をさすりながら苦笑した。ユリの性格は分かっていた。そういうわかりやすいユリだからケンジは好きだった。自分と違って自己主張をはっきりとするユリ。対極の存在だからこそ惹かれたに違いなかった。