奇跡の星
「あの少しお伺いしたいことがあるんですが……」
そうやって蛇使い、もとい占い師ナトゥに話しかけるカナエを、ケンジとユリは少し離れたところから見ていた。
「上杉さん、あのコブラにかまれたりしないわよね」
「た、多分大丈夫だと思うけど……」
二人が心配な様子で見守る中、カナエは奇跡の星について聞きたいとナトゥにたずねていた。
ナトゥは突然話しかけてきた、美青年をじっと見つめた後、子供コブラを壺の中に戻す。
「いいじゃろう。話してやろう。話がちと長くなりそうだから、わしの家に来なさい」
ナトゥはそう言うと座っていた小汚い絨毯を丸め始めた。
「ちょっと、家って言ってるわよ。行かないわよね?だって、絶対に変な家に住んでるに違いないし」
「橘さん、ヒントはあのナトゥしか今のところしかないんだから、行くしかないと思うよ」
ケンジがそう答えると案の定、カナエはナトゥの小さな看板を持って歩き出そうとしていた。
「すまないな。若者よ」
看板を持つカナエにそう言うと、ナトゥは足取り軽く、街の中に入っていく。その足取りは老人にしては早いほうだった。
「二人とも、どうする?私は話を聞きたいから先に行くね」
カナエは二人に向かってそう言うと、ナトゥの後を追う。
「待ってください。私も行きます!」
「僕も!」
二人は慌ててそう言うとカナエの後を追っかけた。
「……」
家の前でユリとケンジは立ち止まっていた。
家は予想以上に汚かった。
壺や地図、置物が家の外まで置かれており、家の中は薄暗く外からはよく見えなかった。
極めつけはその匂いでいろんな香料の匂いが家の中からした。
ケンジは鼻をつまみ、ユリは服の袖で鼻と口を覆っていた。
「行くしかないわよね?」
「うん……」
カナエはすでにナトゥの後を追って中に入っていた。
ユリは深呼吸をするとケンジの手を掴み、家の中に入った。
突然手を握られたケンジは心臓がどきどきしながらも顔の筋肉が緩むのがわかった。
家の中は薄暗かったが案外広かった。
家の外までにおっていた匂いも中ではそれほど不快な匂いではなかった。
「離してくれる?」
ユリはケンジを睨みつけて言う。
自分から握ってきてくせに……
ケンジはそう言い返したかったが、何十倍になって返事が返ってくるので何も言わず手を離す。
家の中の薄暗さに目慣れてくるとナトゥとカナエの姿が見えた。
ナトゥは部屋の一番奥の水晶の置いてあるテーブルの後ろの椅子に腰掛けており、カナエはその近くに立っていた。
「信じられない話じゃな……だか、昨日の西の村のことといえ、信じたほうがよさそうじゃな」
カナエがこれまでの事情をすでに話したのだろう、ナトゥはそう言って頷いた。
「それで、奇跡の星はどこにあるんですか?」
カナエが身を乗り出すように机に両手をついてそうたずねる。
その声が少し焦っているようにケンジには思えた。
やっぱり武田係長のことが気になってるんだ。
まあ、あのおかしな様子じゃ気にするなっていうのが難しいけど……
「まあ、焦るなよ。若者よ。その場所よりもまず奇跡の星について知っていたほうがいいじゃろう」
ナトゥはカナエに笑いかけると奇跡の星について語り始めた。