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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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元の世界へ

「銀、ここにいたのですね」


 金の精霊は神殿から少し離れた草原で空を見ている銀の精霊に声をかけた。


「あなたは少し変りましたね。人間のこと、少しでも好きになりましたか?」

「私は人間などに興味はありません。ただ借りを返したまでのこと」


 銀の精霊は空に目を向けたまま、そう答えた。


「相変わらず素直じゃありませんわね」


 金の精霊はそう言って弟の頭を撫でた。


「何をするんですか?!姉君?!」

「こうすると「ほっとする」らしいですわ。ベノイがよくケンジ達にそうしてましたわ」


 銀の精霊はため息をつくと乱れた髪を整えた。しかし金の精霊は弟が人間に肩入れし始めているのがわかっていた。


「タカオは元の世界に戻ることになるでしょう。シュエはどうするのかしら……」


 金の精霊の言葉に銀の精霊はただ視線を神殿の方に向けただけで何も言わなかった。



 タカオは部屋の扉を軽く叩いた。


「入れ」


 シュエの短い答えがあって、タカオとカナエは中に入った。部屋の中には椅子に座るシュエとその隣で絵をかくシャオシェンの姿があった。


「カナエ!」


 シャオシェンはカナエを見ると跳んできた。カナエはシャオシェンを抱きかかえたまま倒れこむ。


「生き返ったんだね!!」

「うん。」

「よかった!」


 シャオシェンは天真爛漫な笑顔を見せ、カナエに抱きついた。


「うまくいったようだな」


 シュエは部屋の入り口付近で立つタカオにそう声をかけた。


「はい」


 タカオは短く答えると真っ白な長椅子に腰掛けた。カナエはシャオシェンに手を引かれ、机の側の椅子に座らさせられ、お絵かきの手伝いをさせられている。

 シュエはタカオの隣に腰掛けた。


「帰るのだな」

「はい」


 タカオは何を言っていいかわからず、ただうなずいた。24年前に自分を愛して、そして今も自分を愛し続けてくれるシュエ。しかしタカオはここに留まるつもりはなかった。そしてシュエが元の世界に戻るつもりがないこともわかっていた。

 日本はシュエにとって異世界だった。ここは異世界だけどもシュエを愛する人がいる。シュエにとってこの世界の方が過ごしやすいのはわかっていた。


「シャオシェン。いや、タカオ。すまなかったな。色々」


 シュエはタカオの横顔を見ながらそう呟いた。

 何か言わないといけないと思いつつ、タカオは言葉が告げられなかった。


「でもお前を愛する気持ちは変わらない。元の世界に戻ってもそれだけは覚えておいてくれ」


 シュエはそう言って立ち上がった。そして永遠に枯れない薔薇の花びらに触れる。


「ナイナイ。ありがとう。僕もナイナイが大好きだ。忘れない」


 タカオはシュエを後ろから包み込むように抱きしめてそう言った。シュエはタカオの腕に触れた。涙が自然にこぼれおちる。


「ねぇ。カナエ。なんでナイナイは泣いているの?」


 手元の紙から顔をあげ、シュエの様子を見ながらシャオシェンはそう聞いた。


「悲しみと嬉しさ、両方かな。きっと」

「?」


 シャオシェンはカナエの答えに眉をひそめたが、シェエが笑顔になったのを見て視線を再び机の上の紙に戻した。


「タカオ。そろそろお別れだ。私はこれで十分だ。この世界で楽しく暮らすよ」


 シュエは涙を拭うとタカオから離れた。


「カナエ、お前にも悪いことをしたな。お前のタカオへの気持ちは十分にわかった。私もお前になら安心してタカオを任せられる」


 シュエの言葉にカナエはシュエのタカオに似た目を見つめ返した。

 その瞳からタカオへの深い愛情が感じられる。


「さあ、行け。天神が心配して待っているだろう」


 シュエはいたずらな笑みを浮かべた。そしてその声と同時に部屋の扉が開く。


「カナエ、行っちゃうの?」


 椅子から腰を上げ、部屋を出ようとするカナエにシャオシェンはそう聞いた。


「うん。ごめんな」


 カナエは悲しそうなシャオシェンの顔を見ながらもそう答えた。


「また来てくれる?」


 シャオシェンの言葉にカナエは答えられなかった。代わり答えたのはタカオだった。


「ああ、多分また来るよ」


 タカオがそう言うとシャオシェンは笑顔になった。


「僕、待ってるから」

「ああ」


 広間を抜け、神殿の外に出るとケンジ達が白い竜の姿に戻った天神と待っていた。

精霊達は少し離れたところにいた。

 タカオはふてくされた表情の火の精霊を見つけ、苦笑した。


「カーナ!」


 タカオはそう呼ぶと火の精霊はただ手を振った。その表情が悲しげなのがタカオにはわかっていた。


「カナエ、言おうか言わないか迷っていたんだけど、俺は言っておくぜ。俺はお前が好きだった」


 ベノイは目線をそらしながら頬をかき、少し照れた様子でそう口にした。カナエはベノイに微笑みかけた後、答えた。


「知っていたよ。でもだめなんだ」

「わかってたよ。最初から。ただ少しだけ期待していた」


 カナエはその言葉に苦笑した。

「なあ、一度だけキスしてもいいか?」

「だめだ!」


 カナエよりも先に答えたのはタカオだった。


「僕が許さない」

「ちぇ、元気になりやがって。期待してねぇよ。じゃあな。元気でな」


 ベノイは口をへの字に曲げた後、精霊達やガルレンが待っている場所へ戻った。


 ケンジ達が天神―白い竜の背に乗る。


「さあ、人間よ。しっかり掴まるのだ。振り落とすぞ」


 竜はそう言うと翼を大きく広げ、飛び上がった。ケンジ達は上空からガルレン、ベノイそして精霊達に手を振った。竜がスピードを増す。白い雲が見えた。そして虹色の光の中に竜は飛び込んだ。



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