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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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生き返る人々

 金と銀の美しい龍が失ったものの泉から飛び出した。その背中にはケンジ達と精霊達が乗っている。


「お前たちが契約なしで人間を助けるとは……」


 天神は龍を眩しそうに見つめるとそうつぶやいた。


「ケンジ!ユリ!」


 ベノイが腰掛けていた神殿の階段から立ち上がり、駆け寄る。神殿の側の森にいたルドゥルとナジブもケンジ達が戻ってきたことに気づき、神殿の方へ歩いてくるのが見えた。


「よく戻ってきたな!」


 ケンジとユリの顔を見て笑顔を見せるとベノイは二人の頭に手を乗せ、髪をくしゃくしゃにした。


 タカオは火の精霊と風の精霊と共に銀の龍から飛び降りた。銀の龍が銀の精霊に変化する。


「ありがとう」


 タカオがそう言うと銀の精霊は何も言わず、天神の側へ歩いていく。


「銀ってやっぱり何考えてるか、わからないわね」


 火の精霊がその後ろ姿を見てつぶやいた。


「まあ、ヤツにはヤツの考えがあるんだろう」


 風の精霊はそう答えながらも金の龍から降りた木の精霊の姿を見るとその側に飛んだ。


「魂は入手できたのか?」

「うん、この通り」


 ケンジは誇らしげに絹の袋を掲げてベノイに見せた。


「じゃあ、早速生き返らせようぜ」


 ベノイの言葉にうなずくとケンジは絹の袋を持って、天神に願い出る。


「さあ、天神様。魂はこの中です。みんなを生き返らせてください」

「いいだろう。約束だ」


 天神はケンジから絹の袋を受け取ると中身を取り出した。沢山の淡い光の球が蛍のように浮かび、天神の周りを囲む。

 天神は目を閉じると呪文を唱え始めた。すると淡い光の球が強烈は光を放ち始めた。


「!」


 あまりのまぶしさにケンジ達は目を閉じた。


「上杉……?」


 ケンジが再び目を開くのと、タカオのつぶやきはほぼ同時だった。タカオの視線の先には上杉カナエがいた。そして周りにはガルレンや街、村の人の姿見えた。


「武田!」


 カナエはタカオの姿を確認すると人目を構わずその胸に飛び込んだ。普段のカナエでは考えられない行動だった。タカオはぎゅっとカナエの感触を確かめるようにその体を抱きしめた。そしてその髪に顔を寄せる。


「会いたかった……」


「ガルレン!!」


 ケンジがそう呼ぶよりも早く、ガルレンの名前を読んだのは木の精霊だった。


「シティ!」


 ガルレンは木の精霊に抱きしめられ苦しそうにそう呼んだ。


「すみません。嬉しくて」


 木の精霊は涙を流すのではないかと思うくらい泣きそうな顔でガルレンを見つめていた。ずっと後悔していた。契約したために守るどころかタカオの標的にされ、殺されてしまった。


「ケンジさん!ユリさん!」


 ガルレンはケンジとユリの姿をみて無邪気な笑顔を向けた。ケンジはあの血まみれで「生きたい」と願って死んだガルレンがこうして生き返ったことに嬉しく泣きそうだった。


 僕達のせいで殺されたしまったガルレン。でもこうして生き返った……


「ケンジさん!?」


 ケンジは思わずガルレンを抱きしめていた。元気な姿を確認したかった。ガルレンは木の精霊に続き、強く抱きしめられ苦しそうにうめいた。


「ベノイ様!」


 ベノイの住んでいた水の石の神殿近くでタカオと火の精霊に殺されたパレドの村の人々がベノイの姿を見つけた。


「ベノイ様!本当にありがとうございました」


 パレドの人々は口々に感謝の言葉をベノイに述べた。

 生き返った人々は互いの顔を確かめ合い、抱きしめあったりしている。パレドの村以外でも火の石を奪うためにタカオが襲ったジュネの村やジャランの西の村の人々も生き返り喜びを分かち合っていた。その中には子供や女性の姿、老人の姿もあった。


「武田……」


 カナエはタカオの顔を見上げた。タカオの顔が苦痛でゆがんでるのが見えた。カナエはそっとタカオを包み込むようにその背中に手を回した。タカオはカナエのやさしさに気づき、その顔を見つめた。

 二人の様子を見て、火の精霊はタカオをもう一度だけ見ると空気のようにその場から消えた。


 タカオはカナエの頬に触れた。

 ずっと触れたかったカナエの顔…… 

 そしてずっと抱きしめたかったカナエの体。


 もう、僕はこれで十分だ。

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