占い師ナトゥ
「と、いうことなんですよ。上杉さん、どう思います?」
ユリはベッドに座ってるハンサムな上司の横に腰掛けて、先ほど聞いた男たちの話をしていた。
「火の石か。奇跡の星となんらかの関係があるかもしれないね。奇跡の星も石らしいし。」
カナエはそう言ってベッドから腰を上げる。そして机の上の食べ物に手をつけようとせず、窓の外に視線を向けた。
「その殺人者って武田さんのことでしょうか」
ユリの質問にカナエは一瞬目を見開いた後、視線を外に向けたまま口を開く。
「……そうかもしれないね」
その様子はユリに二人の間で以前何かがあったのではと感じさせた。
「橘さん、上杉主任!」
ケンジが二人を呼びながら慌てて部屋に入ってくる。
「さっき、マーラから聞いたんですが、奇跡の星について知ってる人がいるらしいんです」
ケンジがマーラから聞いた話によると、ジャランの街の一角で占い師をしてるナトゥという老人が、奇跡の星の話をよく子供たちに聞かせているというものだった。
子供のお伽話かと思ったが、自分たちの境遇自体がすでに夢のような話なので、とりあえず一行はナトゥのところへ行くことに決めた。
街に出たケンジは感動で目を輝かせていた。
踊り子に、魔法使いに戦士に武器屋……
ああ、まさに冒険ファンタジーの世界……
「あー誰のせいでこんなとこにいるのかしらね~」
うっとりしてるケンジを睨みながら、ユリはそう言う。その言葉にケンジがびくっと肩を揺らせる。
「あんたが変なこと願うから私たちはこんな目にあってるんだからね!」
「わ、わかってるよ」
本当怖いんだからさ。橘さんは……
あの会社でみた、か弱さそうなイメージはなんだったんだろう。
そういえば上杉主任もこんなカッコイイ人とは思わなかったな。
ただ仕事ができて、頼れる上司だったことしか……
「!」
ケンジがそうやって考えごとしてると、ふいに前を歩くカナエにぶつかる。
見上げるとカナエは何かを見て立ち止まったようだった。
隣を歩いていたユリも顔を引きつらせて前を見ている。
「?!」
ケンジも同様に前を見ると、ターバンを巻いた老人が道の真ん中に座り、笛を吹いていた。
そしてその音色に合わせて壺から子供と思われる小さめのコブラが出てきて、クネクネと老人の周りを踊るように動く。
子供たちは見慣れてるのか、怖がった様子を見せることもなく、その子供コブラに触ったりしてる。
「山元くん……。ナトゥって確か占い師をしてるんだよね」
カナエがケンジにそう尋ねる。
「マーラがそう言ってましたけど」
「じゃあ、あれはなんなのよ!」
ユリはケンジの答えに噛みつくように言って、コブラ使いの老人の前に立ててある小さな看板を指した。
そこには『占い師ナトゥ。1回占うごとに1コイン』と書かれていた。
え??
ケンジは自分の目を疑って再度看板を確認した。
やはりそこにはきちんと「占い師ナトゥ」と書かれていた。
胡散臭い……
3人はあまりにも胡散臭い雰囲気を醸し出す老人に、奇跡の星について聞くか聞かないかとお互いの顔を見比べる。
「ヒントがこれしかないんだから。聞くしかないね」
カナエはため息をつくとコブラ使いもとい、占い師ナトゥのところへ歩いていった。