夢か現実か
おかしいな。
僕、眼鏡なしでも見えてる?
額にかかる前髪をかきあげてケンジはふとその事実に気がついた。よく見ると体のあちこちに違和感があった。
手に数箇所傷があり、手の平には何かを長く握ってためか、たこができていた。そして腕が鍛えたようにたくましくなっていた。
おかしい……
何かがおかしい。
確か僕たちの主任は植山ではなかった。
女性、女性だった。
名前は上杉……
不意に光が現れた。そして手元に龍の笛が現れる。
そうか!
これが幻なんだ!
ケンジは慌てて部屋を抜け、エスカレータに乗る。
ユリは?武田係長は?
ロビーにつくと昼食から帰ってきたのか、ユリが友人と話している姿を見つけた。
「ユリ!」
ケンジがそう呼ぶとユリは訝しげな視線を向けた。
「ユリ、目を覚まして!」
ケンジはそう言ってユリに肩を掴んだ。
「ケンジ、なれなれしいわよ!」
ユリはケンジの手を払いのけようとして、その胸元に光る龍の笛を見た。
あれは銀の精霊からもらった笛?
「ユリ、思い出して。僕達の旅を」
ケンジはユリを見つめた。
優しい瞳。
私を裏切らない優しい瞳だわ。
そう、だから私は彼を選んだ。
ぱあと光が現れる。そしてユリの手元に銀の精霊がくれた絹の小さな袋が現れた。
「ケンジ!」
ユリはケンジを見つめた。
「行こう、ここから出るんだ。武田係長を探そう!」
「ユリ?」
「山元!」
作られた人々がユリとケンジの名前を呼ぶ。二人はそれを無視して建物の外にでた。
タカオは季節外れ桜並木の中にいた。
「武田係長!」
「武田さん!」
二人が駆け寄るとタカオは穏やかな微笑を見せた。
「戻りましょう!上杉主任とガルレンの魂を探しましょう」
ケンジはそう言った。
「上杉?ガルレン?」
タカオがケンジから発せられた名前をつぶやく。
上杉……
ああ、そうか。
上杉か……
あの母に似た、僕を魅了して離さない女は上杉だったのか。
僕のために死んでしまった。
美しい、僕の大切な人……
桜が散り、すべて風で巻き上げられる。
そして視界がすべて桜の花びらで覆われた。