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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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解放された精霊たち

「お前がカナエを殺したんだな!」


 話をすべて聞き終わったベノイは銀の精霊に殴りかかった。めずらしく考え事をしていた銀の精霊に拳が当たる。しかし銀の精霊は微動だにしなかった。


「ただの人間が私に敵うわけがありません」


 銀の精霊はそう言うとベノイを拳ごと壁に叩きつけた。


「私がそうしなければ武田様が亡者に殺されていました」


 銀の精霊は壁に叩きつけられたべノイを冷たい目で見ながらそう言った。


「畜生、タケダを助けるためなら誰が死んでもいいわけか!」


 ベノイは壁から起き上がりながらそう叫んだ。


「私は以前受けた恩を返すために動いてます。感情というものに振り回されているのではありません。これで武田様にもシェエにも借りはなくなりました。もう私があなた方の邪魔をすることはないでしょう。あなた方も天神の力によってそのうち元の世界へ戻れるはずです」


 銀の精霊はそれだけ言うと部屋を出て行った。


「畜生!」


 ベノイは銀の精霊が消えた扉にむけて花瓶を投げつけた。花瓶が扉に当たり割れ、床に落ちる。床に花瓶のかけらと花が散らばった。しかし花には一つも傷が付いていなかった。 


「ケンジ……」


 ユリはケンジの横に座りその手を掴んだ。ケンジはユリにぎこちなく微笑んだ。


 すべては銀の精霊の願いのために……


 ケンジは床に落ちた美しい形状を保つ色とりどりのガーベラの花を見つめた。何かの魔法がかかっているのか、ガーベラの花々は落ちたにも関わらず花びらひとつ落とすことなく床の上に散らばっていた。


 ユリは長椅子から立ち上がると床の上のガーベラの花を一輪、また一輪と拾っていった。そうすることで気分が少しでもまぎれるような気がした。そしてまとめるとテーブルの上に置いた。すると花瓶の破片が集まり始め、テーブルの上で元の形に復元されていった。そして最後に仕上げとばかりガーベラの花々が元通りにその中に戻った。


「不思議な魔法ね……」


 ユリはそう呟いた。


 魔法……魔法の世界。

 僕達の世界とまったく逆の世界だ。すべてが空想できた世界。

 でもその中に生きている人は僕らと同じだった。


 普通に感じ、傷つき生きていた。


 僕達がこの世界に来たせいで多くの人が亡くなった。そして僕達も上杉主任を失った。


 上杉主任は武田係長を本当に愛していたんだろう。


 自分の命と引き換えに武田係長を救った。


 そして武田係長も上杉主任を愛していた。彼女を救うつもりだった。


 僕達はどうしたらいいんだろう。

 ガルレン達も救えなかった。


 何もできなかった。


 ケンジは手を目の前で組み合わせ、それに頭をこすりつけた。


「ケンジ……」


 ユリはケンジの隣に座りその肩を抱いた。ベノイはため息をつき壁に寄りかかった。誰もがこれからどうすればいいのかわからなかった。



「マスター。カナエと亡者はどうなってしまったんでしょうか?」


 ナジブは神殿の階段に腰掛け、失ったものの泉を見ていた。泉の中には竜の姿に戻った天神とシャオシェンがいた。ルドゥルは視線を泉から空に向けた。神と精霊の世界にも夜が存在するらしい。空がオレンジ色に変わっていた。


「わしにはわからん。浄化されたものは失ったものの泉に戻り転生を待つと聞いたことがあるが、天神次第だろう。しかしあまり期待はできんな。消滅したかもしれん」


 ルドゥルの言葉にナジブは無言だった。そしてルドゥルと同じように空を仰いだ。



「火。やっぱり、アナタ。その姿のほうがいいわよ!」


 神殿の近くでぼんやりしている火の精霊に水の精霊はそう声をかけた。あの光で精霊たちの契約はすべて解け、石からも解放されていた。そして精霊たちは本来の姿を取り戻していた。


「ワタシは前のくるくるした巻き毛、気にいっていたんだけど。また契約してもらおうかしら」


 水の精霊はそう言うと星が瞬く空に飛び上がった。



「木、ようやく元の姿にもどったな」


 風の精霊は湖に近くで座っている木の精霊に声をかけた。美しい緑色の髪をもつ美女がそこにはいた。そしてその横には長い銀色の髪を持つ青年が寄りそう。


「あの銀と同じ髪型っていうのは気に入らないな。以前はどうでもよかったんだが。銀にはいろいろ今回嫌になるほど世話になったからな。またタカオに契約してもらって、髪を短くするか。木、どう思う?」

 

 風の精霊の問いに木の精霊は暗い湖を見つめるだけで何も答えなかった。


「木。あのガキは浄化したんだ。亡者になって苦しむことはもうない」


 風の精霊はため息交じりにそう言って木の精霊を優しく包み込んだ。



「金、土!ここにいたの?」


 元気な声がして水の精霊が舞い降りてきた。金の精霊は微笑み、土の精霊は視線だけを向けた。


「金は神殿にいかないの?」


 水の精霊がそう聞くと金の精霊は神殿を見つめた後、口を開いた。


「神殿のことは銀に任せております。わたくしはしばらく自由にこの世界を満喫したいですわ。ね。土もそうでしょう?」


 金の精霊は神殿から土の精霊に視線を戻し微笑んだ。土の精霊はいつも通り何も答えず目を閉じた。


「ふうん。行く時は教えてね。ケンジ達がこれからどうなるか気になるから。神は金と銀だけは特別扱いだから」  


 水の精霊は神殿の方を見ながら少し拗ねたように言った。



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