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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
124/151

マオ

「マオ、お前はそこで待ってな。私は鶏肉を買ってくるから」

 マオの主人のシュエはそう言って商店街の精肉屋に入っていった。

 自転車の籠に入れられ、マオは道のほとりに置いて行かれた。通りかかった女子高校生が猫好きなのか近づいてきた。


 うるさい人間め。


 頭を触られそうになったマオは女子高生に向かって威嚇した。すると慌てて手を引っ込める。

「嫌な猫だわ」

 そうつぶやいて去っていった。


 この魔法も効かず、変な建物や物が動く世界にやってきて1ヶ月が経とうしていた。次元のひずみに巻き込まれてこの世界に紛れ込んだ。精霊の身では体が維持できず、死にそうな猫に入り込んでなんとか消えずにすんだ。

 しかし、とんでもないことに人間に名前を付けられて契約されてしまった。


 マオ、変な名前だ。


「次は野菜だよ」

 そう声が聞こえて主人のシュエが戻ってきた。主人はシュエという名前らしい。ユキとも呼ばれており、よくわからない。家にはシュエのほかにシャオシェンという子供がいる。これもタカオと呼ばれたりしてよくわからない。

 契約さえ消えてしまえば神を呼んで呼び戻してもらえるだろうに。

 忌々しい。


 マオがシュエを睨みつけてるとシュエは笑った。

「心配するな。お前のためにも魚を買ってやる」

 そう言ってシュエはマオの頭を撫でると自転車のペダルに力をいれ八百屋に向った。

「じゃあ、おとなしく待ってな」

 シュエはマオに笑いかけると店に入っていった。マオはつまらないそうに自転車の籠から周りを見回す。


 なんだ?


 不思議な光が道の真ん中から放たれていた。


 もしかして時空のひずみか?


 マオは籠から降りるとその光に向かって走った。


 帰れるかもしれない。


 マオはそれだけしか考えていなかった。

 信号は青だった。ダンプカーが轟音を立てて向かってきていた。


 くそっつ、ガラスの破片か。


 光の正体がわかり鼻を鳴らすと数メートル先にダンプカーが見えた。そして目の前を黒い影がよぎった。


 衝撃があった。


 目を開けると温かかった。


 人間か。

 体を起こしてみると自分を抱いていたのはシュエだった。

 そしてシュエは目を閉じ、かすかに痙攣していた。

 体全体から血が出ていた。


 マオの足元に赤い血が流れてきた。


「人だ!人が引かれたぞ!」

「救急車!」

 人々の叫び声が聞こえた。そしてマオは自分の契約が解けたのを知った。


 シュエが死んだのか……


 不思議な気持ちだった、


 神よ!


 マオーー銀の精霊は気がつくとそう叫んでいた。

「銀、お前はそんなところにいたのか。今まで何をしていたのだ」

 神の威圧的な声が聞こえた。

「お願いがあります。この人間を生き返らせてください」

 神はめずらしく取り乱した様子の銀の精霊を不思議に思いながら答えた。

「この世界では私の力は使えないのだ。お前を元の世界に戻すことくらいしかできない」

 それはため息交じりの答えだった。

「ではこの人間を私達の世界に連れて帰れば生き返らせることが可能でしょうか」

 銀の精霊は必死な思いで神に尋ねた。

「そうだ。それなら可能だ」

 神は一呼吸置いた後、そう答えた。

「ではお願いします。この人間と私を神の世界へ戻してください。そしてこの人を生き返らせてください」

「よかろう」

 神が銀の精霊にそう答えるとマオとシェエの体が光を帯びた。そして弾けるような光を放つと消えた。


 生き返ったシュエは別の世界に残してきたシャオシェンの心配をした。しかし、シャオシェンは母親と父親と弟と暮らすようになっていた。

 母親は久しぶりのシャオシェンに戸惑っていたが、喜んでいるのはわかっていた。


 シュエに請われて天神は何度かシャオシェンの様子を見せた。その度にシュエは悲しい顔をした。

 天神はなぜかシュエに好意を持つようになり、自分の鱗を使ってシャオシェンの複製を作った。そしてその日からシュエは別の世界を見たいを言わなくなった。

 しかし銀の精霊は時折シュエが本当のシャオシェンを思い出し泣いているのを知っていた。


 銀の精霊は時折富の噴水の力を借りて外の世界を見ていた。そして成長したシャオシェンが富の噴水に来ることがわかり、この世界に呼ぶことを決めた。


 しかし計算外にほかにも3人の人間がついてきた。そしてタカオの願いも銀の精霊にとっては予想外のものだった。


 結果的にシュエをタカオに会わせることができたが人間の世界を混乱させることになってしまった。


 そしてタカオが大切の思う人間を殺した。



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