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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
122/151

24年前

「シャオシェン、こっちへおいで」

 優しい声がした。走って行くと縁側でナイナイが座っていた。

「今日はお前の父さんが来る日だ」

 母と父と離れて2年が経とうとしていた。

 ナイナイは優しかった。

 でも僕はナイナイが厳しく母に接していたのを知っていた。

 ナイナイは30年前に南の国から日本にきた。その時、ナイナイの義理の母はナイナイにつらく当たったらしい。それが心の傷になり、ナイナイも母につらくあたった。ナイナイは父さんを育てたときにできなかった祖国の育て方を僕に実行した。僕の名前は祖国の呼び方で呼ばれた。僕は響きが好きだった。でも母は僕がそう呼ばれるたびにつらい顔をしていた。


 2年前、母が家を出る前、母はおかしなことを言いながら僕とナイナイの目の前で手首を切った。 血が飛び散り、僕の視界が真っ赤になったのを覚えている。

 それから母はこの家に戻ってこなかった。


 優しかった母。

 優しいナイナイ。

 どっちも好きなのに……


「タカオ。大きくなったな!」

 父の声が聞こえた。僕は父の胸に飛び込んだ。

「ヒトシ、遅かったな」

 ナイナイは父にそう言いながら、マオを抱きあげた。マオ、僕が1カ月前に床下で見つけた黒猫。息をしていないかと思ったんだけど、抱きしめると息を吹き返した。ナイナイが面倒くさがってつけた名前は猫という意味でマオだった。

「私は買い物にいってくる。今夜はうちで食べて行くんだろう?」

「ああ、そうだ。」

「お前の大好きなチキンカレーを作ってやる」

 ナイナイはそう言うとマオを抱いたまま、家を出た。


 その日、ナイナイとマオは帰ってこなかった。


 そして僕は母と父、弟のいる家に引き取られた。


 シュエはベッドに横たわるタカオの顔を見つめていた。

「24年か……」

 そう呟くと立ち上がった。


 この世界にきて24年が経った。来たばかりのころは残してきたシャオシェンが心配で帰りたかった。しかし、天神に時たま見せてもらうシャオシェンの様子に悲しくなり、あの世界のことを思い出さないようにした。

 そして天神は私に幼いシャオシェンを託してくれた。

 私はこのシャオシェンと天神と共にこの世界で生きていくつもりだった。


 あの世界のシャオシェンを忘れるつもりだった。


 数日前、4人の人間がこの世界に入り込んだ。その中にシャオシェンに似た青年を見た。青年は心を封印されていたが、あの母親に似た女を求める心はずっと持っていた。


 許せなかった。

 私のかわいいシャオシェンがこのタカオを一緒だということを。


 しかしあの時、私は見殺しにすることができなかった。心はタカオがシャオシェンだということをすでに認めていた。

 タカオが私の愛しい孫ということを心はずっと前に認めていた。


 私はそれを否定していた。

 タカオーーシャオシェンが私よりも母親を選んだという事実を認めたくなかったのだ。



混乱させると申し訳ないので注記です。

タカオの漢字は孝生で、中国語読みでシャオシェン(Xiao Sheng)になります。

そしてシュエ(Xue)は雪と書き、日本ではユキと呼ばれたりしていました。

またナイナイ(奶奶 Nai Nai)とは中国語で父方の祖母のことです。


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