天神
神――シュエは鏡に映し出される戦いの様子を見ていた。
シャオシェンによく似たタカオが亡者に体を乗っ取られたカナエと戦っていた。
シュエはそれが本当は誰かということを知っていた。
でも認めたくなかった。
私のシャオシェンは一人だけだ。
鏡の中のタカオはカナエの攻撃をただ避けることしかしなかった。
そんなに大事なのか。
あの母親に似た女が……。
シュエは苛立ちを覚えた。
しかしタカオから目が離せなかった。
心の中ではわかっていた。
あの者がシャオシェンだということは。
しかし認めたくなかった。
認めれば私の存在がなくなる。
私より母親を選んだものをシャオシェンとして認めたくなかった。
タカオが剣を投げだした。亡者が長刀を振り下ろすのが見えた。
シャオシェン!
シュエは何も考えることができなかった。
ただ殺されようとしているタカオを守りたかった。
タカオの目の前にふいに人が現れた。亡者の長刀がその人に向かって振り下ろされる。
血が飛び散る。そしてその瞬間亡者から光が放たれタカオは吹き飛ばされた。体が宙を舞っているのがわかった。光の中心で初老の女性が血を流して倒れるのを見た気がした。その顔は24年前にタカオの前から姿を消した祖母―ナイナイにそっくりだった。
「シュエ!」
光が消え、徐々に色を取り戻していく。大きな影がシュエの側に舞い降りた。
「ナイナイ!」
影――竜からシャオシェンが降り、駆け寄る。
竜は光を放つと人体化した。それは長い白髪を持ち、青い瞳をもつ初老の男性だった。
すべてが吹き飛ばされ地面がその肌をむき出していた。シュエは大量の血を流して倒れていた。タカオが少し離れたところに俯けに倒れており微動すらしなかった。ケンジとユリはその少し後ろに、ルドゥルは森の中に吹き飛ばされていた。
初老の男――天神はシュエを抱きかかえた。血が体から流れ、天神の真っ白なガウンを赤く染めていく。
「シュエ、神の水だ」
天神は懐からクリスタルガラスの小瓶を出すとその中の液体をシュエに飲ませた。
するとシェエの傷がふさがり、出血が止まっていく。そしてゆっくりと目を開けた。
「ナイナイ!」
シャオシェンが嬉しそうにシュエに抱きつく。シュエはシャオシェンの頭を優しく撫でた後、天神の手を掴みゆっくりと立ち上がった。そして地面に倒れているケンジ達を見渡した。