あなたを救うために
黒い水の中でカナエは自分が黒い長刀をタカオに振り下ろそうとしているのを見た。
お願いだ!
頼む。
やめてくれ。
私はどうなってもいいから。
武田を助けて!
私を止めて!
カナエは咽喉が張り裂けそうな声で叫んだ。するとふと光が近づいてくるのが見えた。
そしてそれは大きくなりカナエを包む。
気がつくとカナエは白い空間にいた。天井も床も真っ白だった。
目の前には銀の精霊がいつもの冷たい微笑を浮かべて立っていた。
「上杉様。あなたは武田様のために死ぬことができますか?」
銀の精霊がその銀色の目をカナエに向けて静かに尋ねた。
「ああ」
カナエは迷いなくうなずいた。
「亡者は魂の塊です。あなたが死ねば亡者も消滅するでしょう。この小剣であなた自身を刺してください。そうすればあなたと共に亡者も消えます。」
銀の精霊は淡々とそう言うと小剣をカナエに渡し消えた。
視界が再び暗くなり、黒い水の中に戻っていることに気づいた。
しかし、その手には小剣が握られている。カナエは小剣を見つめた。そして自分の胸の近く、心臓の上当たりを目安に剣先を向ける。
武田。
ちゃんと会って伝えたかった。
自分の気持ちに正直になればよかった。
あの時、逃げてしまった。それからずっと忘れられなかった。
武田、好きだ。
愛してる。
さようなら。
「やめろ!」
ガルレンが黒い液体の中から現れた。そしてカナエから小剣を奪おうとする。
「私がついてる。悔しい思いも悲しい思いも私が一緒にいて聞くから。大丈夫」
カナエをそう言ってガルレンに微笑み、自分の胸に小剣を刺した。
光がカナエから放たれる。
「させるか!われらの思いをしれ!」
亡者は自分の体から光が出るのがわかった。しかし渾身の力で黒い長刀を振り下ろした。自分が消滅する前にタカオを殺すつもりだった。光の中で真っ赤な血が飛び散る。
「このぉ!」
火の精霊カーナが火の塊を作り、亡者に放った。しかし、火の塊は眩い光に消し飛ばされた。
光と爆風がすべてを覆っていく。精霊達は光に溶けて、ケンジとユリは吹き飛ばされた。ルドゥルは光がカナエの体からはじけるように出ていくのを見たが、爆風によりそれ以上見えなかった。
光はべノイ達のところまで届いた。
「なんだ?」
金の剣を握るべノイ、ナイフを構えるナジブを光と風が襲い吹き飛ばす。ベノイは飛ばされながら金の精霊カリンが光の中に溶けていくのを見た。
「竜!」
風に吹き飛ばされそうになりながらシャオシェンは竜にしがみついた。
竜は光の中心に目を向けていた。
「銀め、よけいなことをしおって」
竜がそう声を発した。しかし自分の愛する人の気を光の中心に感じ、愕然とした。
「まさか!」