当然の罪
亡者……
父から聞いたことがある。
殺された者がその恨みを忘れず、邪悪なものに変化したもの。
しかし恨みが消えれば浄化すると聞いたことがある。
あの男が死ねば亡者は消える。
そして多分、あのとりつかれた女は助かるだろう。
しかしそれを人間どもに言ってもしょうがない。
人間どもはどちらかが死ぬことも望んでいないはずだ。
ルドゥルは腕組みをしてルガーと共にタカオ達の戦いを静かに見ていた。
誰もが何もできなかった。ケンジとユリは寄り添うように立ち、精霊達もじっと戦局を見つめているだけだった。
カナエの握る黒い長刀がタカオのわき腹をえぐりそうになった。タカオは紙一重が避ける。肌が少し切れたようで血が長刀につく。タカオの動きは徐々に鈍くなっていた。
まずいな
風の剣を握りしめながらタカオは亡者を見た。亡者は息一つ乱さずタカオを見ていた。その顔には楽しげな笑みが浮かんでいる。
僕を恨んでいる者たちか。
上杉がこんな表情しているのは見たことがない。
美しいが悲しい顔だ。
上杉にこんな顔をさせているのは僕のせいだ。
僕のために上杉が……
僕が死ねば上杉は解放されるのだろうか。
僕が死ねば亡者はその願いを叶えることになる。
そうすれば亡者は上杉を解放してくれないだろうか。
君だけでも助かってほしい。
僕はもうだめだから。
最後に会いたかった。
会って君を抱きしめたかった。
タカオは風の剣を地面に投げ捨てた。亡者が不可解な顔をする。
「タカオ!」
「武田係長!」
カーナが悲鳴のような声を上げる。ケンジは水の剣を握りしめた。
「何もしないで。僕が死ねば亡者は消えるかもしれない。僕は殺し過ぎた。殺されて当然だ。上杉が元に戻ったら伝えてくれ。好きだ、愛していると」
タカオはそう言って亡者を見つめた。亡者――カナエの瞳は何も映していなかった。
「さあ、僕を殺せ」