亡者の中で
竜の炎が金の精霊カリンの光の壁に防がれた。べノイとナジブがそれぞれの武器を持って跳ぶ。
「くっつ」
しかし竜はその翼を使い二人を地面にたたきつけた。
「竜、早くカナエのところへ行こうよ」
竜の背中でシャオシェンが口を尖らしてそう言った。
ちくしょう。
ベノイとナジブ、そしてカリンでは足止めすることで精いっぱいだった。
「さて、策が尽きたってこと?僕を傷つけるとこのお姉さんも傷つくからね」
亡者はカナエの顔でガルレンの口調で歌うように言った。ケンジ達は武器を構え、亡者を睨みつけた。その横には水の精霊アクアが氷の槍を持って立っていた。火の精霊カーナはタカオを見つめていた。風の精霊フォンは木の精霊レンをその腕に守るように抱いていた。
黒い水の中にいた。
苦しかった。
目を開くとぼんやりと外が見えた。
武田の姿が見えた。
武田は肩で大きく息をして体のあちこちから出血していた。
山元くんも橘さんもその側にいた。
こちらを睨んでいるのがわかった。
自分ではない何者かが自分の体を使い言葉を発していた。
武田の顔が間近になった。
彼の瞳に中には、狂気の目を持った自分がいた。
私が武田を攻撃してる?
体を動かしたが自由にならなかった。
「無理だよ。お姉さん。もうこの体は僕達のものなんだ」
ガルレンの声が聞こえた。おぞましい死体の山が見えた。
これが武田が殺した人々。
僕達は悔しいんだ。
なんで僕達が殺されないといけなかったの?
ねぇ。教えてよ。
カナエは目を閉じた。
心を無くした武田を止めることができなかった。
私のせいだ……
「ごめん、私が悪かった。だからお願い。武田を許して」
カナエはガルレンに向かってそう懇願した。
「だめだよ。僕達はタケダを殺したいんだ」
そう言ってガルレンの声は消えた。黒い粘着質のある液体がカナエに向かって伸ばされた。
だめだ!
お願い、誰か!
私を止めてくれ!
剣がぶつかり合う音がする。
タカオとカナエ――亡者は互角に戦っていた。しかしタカオは肩を大きく揺らし、息を切らせていた。
どうしたらいいんだ。
亡者といってもガルレンの魂が入っている。
武田係長の風の剣で殺されたガルレン。
生きたいと願っていた。
だからか。
だから上杉主任も体を乗っ取られた。
その思いがわかるからこそ……
ケンジは戦うタカオとカナエ――亡者を見つめる。その隣にユリが寄り添うように立っていた。