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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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黒い炎に望みをかけて

 竜は戦いにケンジ達が加わったのを知った。ベノイ達は先ほどから、攻撃を仕掛けているが竜がダメージを追うことはなかった。

「ねぇ。竜。この人達はいいからカナエのところ行こうよ!」

 背中に乗っているシャオシェンはそう言った。

 竜は視線をタカオ達の戦いの場に向けた。カナエの体を乗っ取った亡者をタカオ達が攻撃できるとは思えなかった。人数が増えたと言え、亡者が負けるとは思えなかった。

 竜は背中にシャオシェンを乗せたまま、青い炎を吐いた。


 火の精霊カーナも上空から降りたった。そして亡者を睨みつけた。カナエの体を乗っ取った亡者に腹が立った。

「まったく忌々しいわね」

 カーナは吐き捨てるようにそう言った。

 木の精霊レンは風の精霊フォンに肩を抱かれ青白くなっていた。ガルレンとこんな形で会うとは思ってもいなかった。

「木、ヤツはガルレンではない。わかったな」

 フォンが安心させるように言うがレンの顔色が変わらなかった。


「ケンジさん、邪魔しないでくださいね。僕はタケダを殺したいんだ!」

 ガルレンの口調のままそう言うと亡者はタカオに向かって跳んだ。タカオが黒い長刀を風の剣で受けとめた。すごい力だった。タカオが後ろに押されるのが見えた。

「山元くん。手を出さないで」

 水の剣を構えたケンジにタカオは叫んだ。

「これは僕が殺した者たち。僕が相対すべきものなんだ。上杉の体も傷つけたくない!」

 タカオは歯を食いしばり、黒い長刀を押し返した。亡者が後ろに飛ばされる。黒い艶やかな髪が風に泳いだ。


 上杉……

 僕のために……


 地面から体を起こした亡者は間違いなくカナエだった。

 タカオが愛しく思うカナエだった。


 そして亡者はタカオが殺した者達だった。

 自分にはこの者達を滅ぼす権利はない。

 彼らが自分を狙うのは当然のことだった。


 しかしタカオはもう一度元のカナエに会いたかった。

 会って抱きしめたかった。



 ケンジは拳を握りしめた。何もできない自分が悔しかった。


 上杉主任と亡者を分離できれば……


 カナエの様子はまるで心を封印されていた時のタカオだった。


 封印、そうか。

 土の精霊の力を使えば!


 ケンジは竜と戦っているベノイ達を見た。森の中で青い炎や黒い炎、そして赤い炎が飛び交っていた。

「アクア、あっちに飛んで。土の精霊の力を借りる」

 ケンジの言葉に水の精霊アクアはうなずくとケンジを連れて飛んだ。

「ケンジ?!」

 急に自分を置いて飛んだケンジに抗議するようにユリは名前を呼んだ。



「ルドゥル、力を貸して!」

 ケンジはルドゥルのすぐ側で降り立つと間髪いれずそう言った。ルドゥルが視線だけをケンジに向ける。白い美しい竜がルドゥル達に対峙していた。


「ケンジ!」

 反対側で竜に対峙していたベノイがほっとして声をかけた。

「ベノイ、土の精霊を借りるよ。主任が亡者に体を乗っ取られたんだ。土の精霊の黒い炎できっと元に戻るはずなんだ」

「亡者?」

 ベノイはケンジの言葉に戸惑った表情を浮かべた。しかし迷っている余裕はなかった。竜がその青い炎をベノイに向けて放った。

「さっさといけ。俺がこの場をしばらくは抑えてやる」

「俺も加勢する」

 金の精霊カリンの光の壁で青い炎を防ぎながら、ベノイとナジブは竜に飛びかかった。

「ルドゥル。力を貸して!」

 ルドゥルはケンジの真摯な顔を見るとうなずき、土の精霊ルガーに声をかけた。

「ルガー、行くぞ」

 ルガーはルドゥルの手を掴むと、カナエを元に戻すために飛んだ。そしてその後をケンジを連れたアクアが追う。

「カナエのところには行かせない!」

 シャオシェンがそう言うと竜がアクアとケンジに向かって炎を放つ。しかしそれをカリンが光の壁で防いだ。そしてベノイは金の剣を握りしめ、竜の前に立った。

「お前の相手はこの俺だ」


「ルガー、黒の炎を放つのだ」

 ルドゥルがカナエー亡者の前に立ち、そう言うとルガーは黒い炎を亡者に向かって放った。カナエの体が黒い炎に包まれる。

 タカオとケンジ、そしてユリは祈るような気持ちで黒い炎の中のカナエを見た。

「残念だったね」

 ぞくっとするような冷たい声がしてカナエ――亡者が再び炎から姿を現した。

「魔法を無力化……。僕は魔法で作られたわけじゃないんだよね」

 亡者は落胆の表情を浮かべるケンジ達が可笑しいようで楽しげに微笑んだ。



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