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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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再会は戦いの幕開け

「銀」

神は白い玉座に座ったまま、そう銀の精霊を呼んだ。ほどなくして銀の精霊が現る。

「カナエが亡者に捕まった。あれは時期にタケダを襲うだろう。シャオシェンも連れていくようだ。お前の力でシャオシェンを守るのだ」

神は宙を睨んだままそう言った。

「亡者……。竜、天神の結界が破られたということでしょうか」

 銀の精霊は声は静かだったが、その事実が信じられない様子だった。失ったものの泉は亡くなったものの魂が集っており、この世界の創造主の天神によって外に出ないように結界が張られていた。天神の力は絶対であり、その結界が破られることなど考えられなかった。

「さあな、私には天神の考えはわからん。天神も一緒に行くようだ。私の代わりにシャオシェンを守ってくれ」

 神は無表情のままそれだけ言うと神殿の奥へ入っていった。銀の精霊は訝しがりながらも竜とシャオシェンの気配を探ると飛んだ。



「ケンジ、気分が悪くなるくらい邪悪なものが近づいているわ」

 水の精霊アクアは悪趣味なピンクの服から以前着ていた茶色の服に戻り、ほっとしているユリの側でそう言った。アクアの視線は西の空を見ている。


 あの方向は武田係長やべノイのところか?


「これまで感じたことがないような気配です」

 木の精霊レンも同じ方向を見てそうつぶやく。

「行きますか?」

「もちろんだよ。武田係長たちが危ないかもしてないし」

 ケンジはアクアの問いに迷わず答え、ユリを見た。ユリはケンジに向かってうなずく。

「じゃ、行くわよ!」

 アクアはそう言うといつものように液体になり、ケンジ達を包むと光となって空に消えた。レンも同じように光になりアクアを追った。

「ユリちゃん……。またね」

 ピンクの鎖を握り締めながら花の精霊はケンジ達が消えた薄い青色の空を見上げた。



「タカオ!」

 ポケットから緊張した声がして火の精霊カーナが現れた。

「何かが来るわ」

 カーナは顔がこわばらせ、タカオを守るようにしてその前に立った。

 風の精霊フォンも同じようにタカオの前に立つ。

「おかしな気だ」

 ルドゥルは歩くのをやめ、空を見上げた。その隣で土の精霊ルガーが構えを取る。

「何かが来るのか……」

 べノイは金の剣を腰の鞘から抜き、金の精霊カリンは目を細め、空を見つめた。


「タケダ」

 懐かしい、ずっと聞きたかった声がタカオを呼んだ。そして大きな影が頭上を通る。風が吹き、白い竜が目の前に降り立った。竜の上には美しい黒髪をなびかせた上杉カナエとかわいらしい顔の子供の精霊―シャオシェンが乗っていた。

「上杉……」

「カナエ!?」

 タカオとべノイ達が見つめる中、カナエは竜から降りた。美しい黒髪が風になびき、カナエはわずらわしそうに髪を抑える。

「お前はカナエなのか?」

 べノイは初めてみるカナエの女性の姿に驚きを隠せなかった。

「元に戻ったんだね」

 タカオはカナエを見つめてそうつぶやいた。ずっと見たかったカナエの姿だった。数日前に自分たちの世界で見た姿、もう見れないと思っていた。

「お兄さんがタケダなの?」

 甲高い声がして、小さい影が竜から降りるのがわかった。タカオはその顔を見ると目を見開いた。それは自分が小さいころの顔と瓜二つだった。

「お兄さんがカナエをいじめたの?」

 シャオシェンは驚くタカオにそう問いかけた。べノイはタカオの驚きを訝しがりながらシャオシェンを見つめた。

「この子供。お前の知り合いか?」

 べノイもタカオとシャオシェンの顔のつくりが同じことに気がつき、思わずそう聞いた。しかしタカオはその質問に答えずただシャオシェンを見つめていた。

「カナエをいじめる奴はこのボクがやっつける。竜!炎で焼いちゃって!」

 シャオシェンがそう叫ぶと、竜は首を上げ口から炎を吐いた。カーナはとっさにタカオを掴み、空に飛ぶ。その近くでは金の精霊カリンが光の壁を作りべノイを守った。光の壁に守られながらべノイはカナエの様子に違和感を覚えていた。

「なんだ?」

 竜が突然現れ、攻撃を始めたのをみて、ルドゥルは眉をひそめた。土の精霊ルガーは険しい顔をして炎を吐く竜を見つめている。

「タケダ!」

 カナエの声がした。カナエが上空のカーナとタカオに向かって跳んで来ていた。カナエは普通の人間のはずだった。しかしその跳力は人間離れしていた。

「オレを忘れてるようだな」

 タカオを掴んだまま炎の鞭で応戦しようとするカーナの目の前でフォンがカナエの拳を掴んだ。

「なんだ?」

 掴んだ拳から妙な気配を感じ、フォンは乱暴に手を放した。カナエの体が地面に激突しそうなのをシャオシェンが乗った竜が拾い上げ、地面に下ろす。

「そう簡単にはいかないか」

 カナエは地面に降り立つと微笑を浮かべ手の平を宙に向けた。黒い長刀がその手に現れる。

 タカオ達はそんなカナエの姿に奇妙さを覚えていた。

 カーナはゆっくりとタカオを共に地面に降り立った。タカオは目を細めてカナエを見つめた。その額には汗が滲んでいる。フォンはタカオの隣で先ほど掴んだカナエの拳から発せられた気に、ぞっとするような気持ち悪さを感じていた。

 べノイは女性に戻ったカナエを美しいと思いながらその美しさに違和感を覚えた。黒い瞳がきらきらと輝き、その唇はつややかで誘うような滑らかさを持っていた。

 ルドゥルはルガーと共にタカオの側に飛んで、竜の側で微笑むカナエを睨みつけた。



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