黒い影
「まったくなんて長い道なんだ」
べノイは舌打ちをして終わりの見えない白い道の先を見た。ルドゥルはべノイを振り返ってみたがそのまま歩き続けた。タカオは額の汗を拭って、ベノイと同じように道の先をみた。美しい光景が前方に広がる。白い道はずっと先まで続いていた。
「カナエ!見てよ!」
白い竜にまたがり、シャオシェンは空を飛んでいた。泉の側でカナエは眩しそうにそれを見上げている。
憎い、あいつが。
あいつのせいで俺らは殺された。
人間がいるぞ。
人間がここに来ている。
あいつと同じ外の世界からきたものだ。
許せない。
殺そう。
殺そう。
泉の底でそんな声が響きわたった。
そして黒い物体が泉から噴き出した。
「!」
泉が突然吹きあがった。カナエは驚いて泉を振り返る。そして何かが自分に向かって伸びて来るのをみた。その黒い物体に中に少年の姿が見えた気がした。
あれは確か……ガルレンという少年?
それ以上、見ることができなかった。黒い物体はカナエを包み込むと泉の底へもぐった。
「カナエ!」
空からその様子をみたシャオシェンはそう叫んだ。
「竜、お願い。追って!」
シャオシェンの言葉に反応して、竜は急降下すると泉に中に飛び込んだ。
「花!よくもこけにしてくれたわね!」
その声を聞いて花の精霊はため息をついた。
「追いつかれちゃったか」
花の精霊の目の前に山元ケンジ達が現れた。
「ユリはどこだ?」
ユリの姿が見当たらないのを訝しがってケンジが叫んだ。胸がきゅっと掴まれるような気分だった。
「僕の大事なユリちゃんは大切なところに隠してるんだ。キミには絶対に教えてあげない」
花の精霊は微笑を浮かべてそう答えた。
「ふざけないでよね!」
水の精霊アクアはそう言うと氷の槍を出現させその手に持ち、レンは木に変化した。そしてケンジとナジブはそれぞれ武器を構えた。その様子を花の精霊は目を細めて見る。
「精霊二人にそうでないのが二人ね。久々に面白そうだ。草、霧!」
花の精霊の言葉で霧の精霊と草の精霊が現れた。二人とも自信なさげな様子だった。
「あらあ。Bクラスの子たちじゃないの。ワタシ達と戦うつもりなのね」
アクアが馬鹿にした様子で二人の精霊を見た。
「花、ワタシやっぱり無理。」
「ボクも下ろさしてください」
アクアの視線を浴びて二人はおろおろと花の精霊にそう言った。
「大丈夫だって。人間の世界に長く封印させていたおばちゃん達に負けるわけないんだから」
「お、おばちゃん?!」
花の精霊の言葉にアクアの顔色が変わった。ふとみるとレンも木の姿で機嫌悪そうにしている。
精霊でもそういうことは気にするのか?
ケンジが場違いなことを考えてるとアクアは氷の槍を投げ、レンが攻撃すべくその枝を伸ばした。
「馬鹿花!余計怒らせたじゃないの!」
霧の精霊はそう言いながら氷の槍をよけた。
「ボクはお家に帰ります」
草の精霊は慌ててレンの枝を避けると森の中に逃げて込んだ。
「え、あ?草!」
花の精霊が驚いて草の精霊を追いかけようとするのをナジブのナイフが襲った。間一髪で後ろに退き、ナイフは地面に刺ささる。しかし花の精霊はもう一つの気配に気付けなかった。
「ユリはどこ?」
ケンジが水の剣を持ってその胸元に跳びこみ、剣先を咽喉に向けていた。
「わ、わかったよ。オレの負けだ」
花の精霊は顔を強張らせてそう言った。