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南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
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「マスター、俺はケンジ達について行きます」

 ナジブはルドゥルにそう言った。ユリはウェルザの大事な友達だった。ユリに何かあったらウェルザが悲しむのがわかっていた。

「わかった。わしはタケダ達に付いて失ったものの泉に行く。泉で会おう」


「ケンジ、悪いな。俺はカナエのことが心配だ。ユリのこと頼む」

 ベノイは申し訳なさそうな顔をしてそう言った後、少し離れたところにいるタカオを見た。

「大丈夫だよ。ベノイ」

 ケンジはそう答えながらベノイとタカオの仲が心配だった。


 この二人で行かせて大丈夫なのかな。

 でもそんなこと言ってられない。

 ルドゥルもいるし大丈夫だろう。


「山元くん。橘さんはひどい目にあってることはないと思うよ。多分花の精霊は橘さんに好意を寄せてるだけだと思うから」

 タカオはケンジを安心させるかのように微笑んだ。その笑顔には力がなかったが、ケンジもタカオの言うように花の精霊がユリに危害を加えるとは思っていなかった。

「そうね。多分傷つけたりはしてないけど‥ある意味あぶないかもね」

水の精霊アクアがケンジの側で意味深に言った。

「それってどういう意味?」

「ま、大丈夫よ、きっと。先を急ぎましょう。花の気配はあっちからするわ」



「木。またな」

 風の精霊フォンは名残惜しそうに木の精霊レンにそう言った。レンはまだ怒っているらしく無言でフォンを見ただけだった。

「アンタ、土に言えば契約とけるはずじゃない。なんで解かないの?」

「オレは木と戦わないで済むなら今のままでも構わないんだ。まあ、自由が利かないのは不便だがな。オレはこの旅の結末に興味がある……」

 フォンはカーナの問いにそう答えるとタカオを見た。心を取り戻し様子が変わったタカオ。フォンはこれからタカオがどうするのか興味あった。

「あと、オマエがどうするのかもな」

「ん?」

 フォンの言葉に意味がわからないというような表情をカーナは浮かべた。

「それよりもオマエも契約解かないのか?」

「うん。まあ、この姿気に入ってるし」

 カーナはフォンに短く答えるとタカオにところへ飛んでいった。

「ちょっと疲れたわ。石になるからよろしく」

 タカオの側でそっけなくそれだけ言うとカーナは赤い光を放ち、石の姿に戻った。タカオはその石をそっと拾うとポケットに入れた。

 心を取り戻してからカーナとタカオが話すことはほとんどなかった。

 カーナは以前と違うタカオに戸惑いを覚えていたが、一緒にいたいという思いは同じだった。



 これが神……


 真っ白な大理石の部屋に通された。そこの玉座のような場所に1人の女性が座っていた。年頃は50歳前後だろうか。年相応の皺が刻まれていたが、その顔は美しく威厳をたたえていた。その女性は銀色にも見える美しい白髪をまとめ、厳しい眼で上杉カナエを見つめていた。


「お前が上杉カナエか?」

 その女性は威圧的な声でそう聞いた。

「そうだ」

 カナエは立ったままそう答えた。

「上杉様、神の御前です。失礼ですよ。座ってください」

 銀の精霊はカナエに厳しい声でそう言って、その体に触れた。抗えない力でカナエは神にひざまずくような格好になった。

 女性―神は椅子に座ったまま、カナエを見つめる。その瞳は冷たかった。

「お前が私に会いたい理由はわかっておる。願いがあるのだろう?」

 銀の精霊に肩を掴まれたままカナエは神を見つめた。

「お前の願い、叶えてもやってもいい。しかし、条件がある。」

 カナエは銀の精霊の手を乱暴に振りほどいた。銀の精霊はため息をついたが再度肩を掴むことはなかった。カナエは膝を床についたまま、神を見上げた。

 カナエの願いはタカオの記憶を消して、元の世界へ戻すことだった。

この世界で起きたこと、したことはタカオにとってはつらいことのはずだった。

 その状態ではタカオの精神が持たないであろうことがカナエには容易に想像がついた。

 元の世界に戻れたとしても、タカオは発狂してしまうに違いない。

 そのためにはカナエはどんな条件でも飲むつもりだった。

「条件はなんだ?」

「あの子、シャオシェンの側にお前が永遠にいることだ。簡単であろう?お前を除く3人は元の世界へ返してやろう。そしてタケダを含め、ほかの2名の記憶も消してやる。通常であればこの世界を乱したものとして罰したいところであるが、お前が条件を飲めば許してやろう」

 神はそう言い終るとカナエの顔をじっと見つめた。その表情はなぜかとても厳し、苦しそうだった。

「いいだろう。条件を飲む。だから、神よ。早く武田の記憶を消してくれ」

かすれた声だった。早くタカオを楽にしてやりたかった。

「まだだ。彼らがここまで辿りつけたなら、実行してやろう」

「どういう意味だ?」

 カナエがそう尋ねると神は立ちあがり、背を向けた。

「銀よ。用はすんだ。その娘を部屋から退出させよ」

「神!」

 カナエはその背中に向けて呼び掛けた。しかし、神が振り返ることはなかった。銀の精霊は無理やりカナエを部屋の外に連れ出した。抗えない力だった。



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