表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南国の魔法  作者: ありま氷炎
失ったものの泉
107/151

花の精霊

「花~。本当にやるの?」

けだるそうに霧の精霊が聞いてきた。

「Aクラスの精霊がいっぱいいるのよ。気が進まないわ」

「そこをなんとか頼むよ。オレはぜったいにユリちゃんを手に入れたいんだ」

 花の精霊は両手を合わせて霧の精霊に頼みこんだ。

「いいわ。やるだけはやってみる。でも力の差が大きすぎるから一瞬しか足止めできないわよ。」

「OK。それで十分だ」

 花の精霊がそう答えると、霧の精霊はため息をつき、その場から消えた。



 ふいに白い霧が現れた。周りのすべてが真っ白な霧で覆われる。

 近くにいたはずのユリの姿が見えなくなり、ケンジはユリの名前を呼んだ。


「ケンジ!」

 真っ白な霧に囲まれユリはケンジの名前を呼ぶ。

「ユリ、こっちだよ」

 すこし大人びた様子のケンジがユリの手を掴んだ。

「あっちへ行こう」

 ケンジはユリの手を引くと歩き出した。

「ケンジ?白い道はそっちなの?」

 霧の中で前方が全く見えない。しかし迷いなく進むケンジをユリは訝しがった。

「大丈夫。僕についてきて」

 ケンジはユリの手を掴んだまま、しっかりした口調でそう答える。

「ケンジ?」

 ユリは疑問に思いながらも手を引かれるままケンジの後を歩いた。


「フォン!」

 タカオは風の精霊を呼んだ。フォンが風を作り、霧を巻きあげる。晴れた森の中に1人の少女の姿が現れる。

「霧!」

 火の精霊カーナと水の精霊アクアがその場に現れた少女、霧の精霊を睨みつけた。

「何の真似かしら?」

「Bクラスのアンタがこのアタシと戦うつもりなの?」

 カーナとアクアの鋭い視線に霧の精霊は縮みあがる。

「ちょ、ちょっとした冗談よ。戦うなんてとんでもないわ。火様、水様!」

 そして慌ててそう言うと、霧の精霊は光の玉となりその場から逃げ出した。

「ふん」

 カーナは鼻を鳴らし、精霊の消えた方向を眺める。

「なんだったのかしら?」

 アクアはその隣で首をかしげた。


「ベノイ!ユリを見なかった?」

 緊迫した声でケンジはベノイにそう尋ねた。

「ユリ?お前の側にいたんじゃないのか?」

 ベノイはケンジに逆にそう聞き返す。

「武田係長、ユリを見ませんでしたか?」

「見てないけど。いないのかい?」

 タカオはケンジにそう答えると視線を森の中に向けた。

「霧が出る前は橘さんは君に側にいたんだろう?」

 ケンジはタカオの問いにうなずいた。

 タカオは霧の精霊が単なるいたずらで霧を発生させたとは思っていなかった。

 意図的にタカオ達の視界を惑わし、ユリをさらうことが目的だったのではないかと予想する。

「山元くん、これは僕の勘だけど……」

 タカオがそう口を開くと、ベノイも同じ可能性に行きついたらしく、タカオが話し始めるよりも先にケンジに言葉をかけた。

「ケンジ、ユリはさらわれたかもしれないぜ。あの花野郎に……」



「ケンジ、どこ行くの?ケンジ?」

 霧が消えても、森の中を歩く足を止めようともしないケンジに腹が立ち、ユリは歩くのをやめた。

「ユリ?行くよ」

「どこにいくの?私達は白い道を歩いていたはずよ。なんで森の中に入るの?」

 ユリの問いにケンジは笑う。

「ケンジ?」

 その笑顔がいつもと違ってユリは緊張するのがわかった。その笑みは何度もみたことがある笑みだった。

「ユリは本当、かわいいよね」

 ケンジはその目を細くしてそう言った。そしてユリの頬をそっとなでる。ユリは無意識に後ろへ退いた。

「僕は、オレはキミが欲しい」

 ユリはその言葉を聞くと走り出した。


 ケンジじゃないわ。

 ケンジならそんなこと言わない。


 走り出したユリの背中をみて、ケンジは舌打ちをした。

「ケンジくんの姿より、オレの姿のほうがいいか」

 そう呟くとその姿は光を放ち、元の花の精霊の姿に戻った。そしてユリを追いかける。

「!」

 目の前にふいに立ちふさがった人物をみてユリは言葉を失った。

「オレだよ。ユリちゃん。オレはキミが欲しいんだ」

「あんたなんか大嫌いよ」

 ユリは背中から火の矢を取り出す。それを見て花の精霊は面白そうに笑っ た。

「射れば?効かないけど」

 ユリは至近距離から矢を放った。しかし花の精霊はそれを手の平で防いだ。手の平に矢が刺さっているのが見える。

「結構痛いな」

 花の精霊はそう言いながら矢を抜いた。

「痛かったからお仕置きするね」

 甘ったるい香りがユリを襲った。気分が悪くなりその場に座り込む。

「オレがかわいがってあげるよ。キミはオレのものだ」

 ユリは遠くなる意識の中でその言葉を聞いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ