天空の道
「付き合ってください」
北山アツシはそう言ってユリに花を渡した。ユリは笑顔で花束を受け取るとうなずいた。
「ちぇ、あの女ちっともやらせようとしないんだぜ」
付き合って1カ月、待ち合わせ場所に少し遅れて到着するとそんな話し声が聞こえた。電話口の友人と話しているようだった。アツシはユリの姿を確認すると蒼白になった。
「君は本当きれいだよね。僕の理想だ」
そう言って6歳年上の神田ケンはユリに軽くキスをした。
大人だった。いつも優しく私を包んでくれた。
「ごめん。婚約者がいるんだ。来週結婚する予定だ」
ケンはユリを見つめていた。その瞳には泣きそうな顔のユリが映っている。
「彼女は君と違って強くないんだ。僕しかいなんだ」
「ユリかあ。あいつにはがっかりだよ。きれいなだけで中身がないんだもん」
山下トモキの声が聞こえる。トモキの席からユリ達の姿は見えてなかった。ユリの向かいに座るヨウコが何か言おうとするのをユリは止めていた。
「きれいで十分だろう?別に結婚とか深く付き合うつもりがないんなら」
「まあ、そうだけど。あと1カ月くらいしたら別の女に乗り換えるかな」
ユリは無表情だった。そしてテーブルに置いてあるアイスティーを持つとトモキの席に近づいた。
「ユリ!?」
ユリの姿を見てトモキの目が見開かれた。
「悪かったわね!顔だけで!」
ユリはアイスティーの中身をトモキにぶちまけるとファミリーレストランを出た。
レストランから出て無我夢中で走った。
慣れていたはずだった。
本当に自分を好きになってくれる人などいない。
でも寂しかった。
付き合う男はみな同じ、体が目的だったり、顔だけを見て自分と付き合った。
それでも誰かと一緒に寄りそっていたかった。
「ユリ?」
心配そうな瞳がユリを見つめていた。
「ケンジ‥…?」
ユリは自分を見つめる、優しい瞳の持ち主の名前を呼んだ。
ケンジは今まで付き合った男とは違う。
私自身を知ってる……
大丈夫……
「どうしたの?悪い夢でもみたの?」
隣に腰を降ろしながらケンジはそう聞いた。
精霊たちの石を集め、奇跡の星を作りだし道が開けた。道は天空を指し、風の精霊フォンの力を借りて天空に上った。天空には白い道が作られており、その周りには美しい世界が広がっていた。
そこは神と精霊の世界だった。
ケンジ達は白い道をたどり、失ったものの泉を目指していた。
柔らかな青色の空が上空に見える。綿あめのような雲がゆっくりと動いていた。
この世界に嵐も、雨が降ることもなかった。
いつも穏やかな天気のようだった。
美しい世界だった。
緑色の宝石のような色をした木々が生い茂る森。色鮮やかな色彩の男女が空を飛びかい、楽しそうに暮らしていた。
「ユリちゃん~。起きたの?」
妙に慣れ慣れしい声がして、桃色の髪を持つ男が現れた。この世界についたとたん、ユリに付きまとうようになった花の精霊だった。
ユリは射るような視線で花の精霊を睨みつける。
「私に付きまとわないでくれる?火の矢を射るわよ」
そう言うと花の精霊が面白そうに笑った。
「やってみる?効かないと思うけど」
「まあ、まあ」
ケンジは火の矢を射ようとするユリを止め、花の精霊を見る。花の精霊は遊び人風のかっこいい青年だった。
僕とは全然違うタイプだよな。
ユリが興味なさそうでよかった。
あったら全然勝ち目なしだよ。
ほっとしてるケンジの目の前で、ユリは花の精霊を刺すように睨みつける。しかし当の本人はへらへらと楽しそうに笑っていた。