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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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五つの精霊の石が揃う時

 ケンジ達は海の近くの家に来ていた。

 それはカナエの生死を確認するためだった。


 ケンジとユリが見守る中、タカオとべノイは焼けて黒焦げになったレンガや木材が重なる、家であった場所を捜索していた。ウェルザをウェルドの元に送った後、ケンジ達はここに来ていた。ナジブとルドゥルは岸壁に腰掛け、海を珍しそうに眺めていた。精霊達は石に返り、風の精霊フォンは遠くからタカオ達の様子を見ていた。


「やっぱりだ」

 タカオのつぶやきにべノイは反応した。

「上杉は死んでいない。誰かに助け出されたんだ」

 タカオの視線はカナエが寝ていた焼け焦げたベッドに向いていた。家は完全に燃えつきていたがカナエが中にいたはずなら遺体があるはずだった。しかし、そのようなものは家のどこにもなかった。

「誰かって誰なんだ!?」

 ベノイは声を荒げてタカオをみた。タカオは何も答えず、足元に落ちている焦げた布切れを拾った。そこには微かに血の跡がついていた。それはタカオがシランに飛ぶ前にカナエの血を拭った布だった。

「タケダ!」

 ベノイはタカオの肩を掴んだ。タカオはベノイに冷やかな視線を向け、肩に置かれた手を払いのけた。

「僕だって心配なんだ。自分だけが上杉のことを考えてると思わないでくれ」

 タカオは吐き捨てるようにそう言うと血のついた布を握りしめ、ポケットから赤い石を取りだした。

「カーナ……」

 怒りを抑えた声でタカオは火の精霊カーナを呼んだ。すると石が光り、人体化した。カーナはタカオの視線を避けるようにしていた。

「カーナ。君が火が放った時、上杉は目覚めていたの?」

 タカオはカーナの肩にそっと手を置き、その顔を見つめてそう聞いた。カーナは視線をそらしたまま、唇を噛んだ後、口を開いた。

「いいえ。アタシが火を放った時はまだ寝ていたわ」

「このっつ!」

 ベノイはカーナに殴りかかりそうになるのをケンジとユリが止めた。

「起きたことはしょうがない。とりあえず上杉主任の行き先を突き止めないと……」

 ケンジはベノイを落ちつけるため静かな声でそう言った。

 タカオはじっとカーナの顔を見つめた。カナエによく似た顔だった。タカオのカナエへの思いのために、カーナはカナエを憎むようになってしまったのをタカオは知っていた。心が封印されていた時は、どうでもよかった。ただカナエの面影をもつカーナが側にいて心地よかった。あの時はそれだけでよかった。タカオは息を吐くと視線をカーナから逸らした。

「それで、その後、何か見たかい?」

 タカオは穏やかな声でさらにそう尋ねた。

「いいえ、何も」

 カーナはそう短く答えた。心が解放される前のタカオはカーナの身近に感じられた。しかし今のタカオはカーナの知らないタカオだった。

「聞きたいのはそれだけ?アタシは石に戻るわね」

 カーナはそう言うと石の姿に戻った。ベノイは舌打ちをし、タカオはそっと赤い石を拾った。

「生きてるのは確かなんだろうな」

 ベノイはそう口にした。しかし答えられるものは誰もいなかった。

「そうですわ」

 ふいにそう声がして、ベノイのポケットが光り、光は人体化した。現れたのはセミロングの金色の髪をもつ美女だった。金の精霊フィーナはルドゥルに願ってルガーの力を使って、ベノイの元に戻っていた。

「わたくしの弟に聞けば生死がわかるはずですわ」

「本当か?カリン!」

 ベノイが驚いてその顔を見るとカリンは微笑を浮かべた。

「じゃあ、早速呼んでくれ。頼む」

 ベノイの言葉にカリンはうなずいた。

「銀、銀。聞こえますか?カナエという人間の生死がわかりますか?」

 カリンは青空を見上げ、そう呼び掛けた。ほどなくして光が現れる。そして光は人型をとった。

「姉君」

 銀の精霊はその銀色の冷たい視線をケンジ達に向けながらそう言った。

「銀。生と死をつかさどるあなたならわかるはずです。カナエという人間は生きているのですか?」

 カリンの問いに銀の精霊はその瞳を細くした。

「上杉様なら私が預かっております」

「なんだと!」

 銀の精霊の答えに一同は一斉に驚き、タカオはいち早く風の剣を抜くと銀の精霊の元へ飛んだ。

「無事なのか?」

 タカオは銀の精霊の咽喉元に剣先を向けて聞いた。

「おや。武田様。心が戻ったようですね」

 銀の精霊は意外そうな笑みを口元に浮かべ、風の剣を手の甲で払いながらそう言った。

「よく発狂しなかったものですね。さすが武田様」

 銀の精霊はタカオをわざと怒らせようとしているのか、そう言葉をつづけた。

「上杉は、上杉は無事なのか?」

 タカオは息を吐くと剣を納め、そう口を開いた。その瞳には傷ついたような光が見えた。

「無事ですとも。ただし、皆様が上杉様にお会いできるのは失ったものの泉まで来ていただく必要があります。壊してしまうと会えなくなるのでよく考えてくださいね。」

 銀の精霊はルドゥルに視線をむけ、そう答えた。ルドゥルの顔がゆがむのがわかった。

「銀、なぜ、カナエを助けたのですか?」

 カリンは銀の精霊を見つめた。カリンは弟の性格をよく知っていた。人間に同情など持たない弟がカナエを同情心で助けたと思えなかった。

「さあ、なぜでしょう。失ったものの泉に来てくださればお答えしましょう。それでは、姉君、皆様。後でお会いしましょう」

 銀の精霊はそう言うと光を放ち、青空に向かって飛んで消えた。カリンは弟の消えた空を訝しげに見つめていた。

「どっちにしても失ったものの泉にいけばいいわけだな」

 カナエが生きているのがわかりほっとしたベノイが口を開いた。

「ルドゥル、お前は協力してくれるよな」

「当然だ。わしは一度約束したものは守る。人間とは違う。そのカナエという人間と会い、お前らの願いを叶えた後に、泉を破壊すればいいことだ」

 海辺に腰かけていたルドゥルは腰を上げながらそう答えた。その横でナジブもゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、始めようぜ」

 ベノイの言葉にケンジはうなずいた。

 タカオは険しい顔をして海を見ていた。銀の精霊の行動がどうみても腑に落ちなかった。自分の命を一度助け、今度はカナエを助けた。幼い時に自分が彼を助けたらしいが、それだけでカナエの命まで助けるとは思えなかった。

 タカオはカナエに会った後、死ぬつもりだった。例え、自分が殺した者がすべて生き返ろうとも罪を贖うつもりだった。心を取り戻してから、気を抜けば自分が殺したものの顔が絶え間なく脳裏に浮かんだ。タカオはおかしくなりそうな自分をどうにか普通に見せていた。それは、ただカナエにもう一度会いたいという思いが精神を支えていた。

「武田係長、火の精霊の石を」

 ケンジの言葉にタカオは火の精霊の石を地面に置いた。

 火、水、金、土、木の5つの精霊の石が揃い、光を放つ。そして光は一つの柱になり、天空に伸びた。



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