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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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ルドゥルの思い

 ユリはそっとケンジの手を握った。ケンジはユリの心配げな顔を見つめて手を握り返した。


 先手は土の精霊ルガーだった。タカオとべノイに向けて石の礫を浴びせる。

「くっつ」

 べノイは金の剣で光のシールドを作る。タカオは風の剣で礫を弾き飛ばした。二人が防御に回ってる隙に、ルガーが黒い炎を水の精霊アクアと火の精霊カーナに向かって放つ。

「こんな炎、アンタのに比べればどおってないわ!」

 カーナはそう言いながら黒い炎を避けた。アクアもぎりぎりで炎を避ける。

「言ってくれるじゃないの!」

 アクアはカーナに笑顔を見せると氷の槍をルガーに投げた。

「土に炎を作らせる暇を与えないようにすれば大丈夫のはずよ」

 氷の槍が黒い炎で破壊される前にアクアは水の球をルガーに放った。ルガーは土の壁を出現させ水の球から身を守る。しかし、カーナが振り下ろした火の鞭にまで気が回らず、その鞭の攻撃をまともに食らい、後ろに飛ばされる。

「今だ!」

 べノイとタカオは石の礫を避けながら、ルドゥルに向かって跳んだ。ルドゥルが木の杖で二人の剣を止める。しかし力で押され、後ろに吹き飛ばされた。二人はバランスを崩したルドゥルに再度攻撃を仕掛けるが金の精霊フィーナの光の壁に邪魔された。

「オレに任せろ」

 風の精霊フォンが両手に風の力を集め、光の壁に向かって放った。べノイとタカオは巻き添えを受けないようにその場から飛びのく。音がして壁全体にヒビが入る。そしてとどめと言わんばかりに木の精霊レンがそのひび割れに向けて鞭のように枝を振り下ろした。

 壁は完全に破壊され、フィーナの体が飛ばされる。レンはフィーナが傷つかないように森の木々を使い、その体を優しく受け止めた。

「タカオ、今だ!」

 フォンの声と同時にタカオそしてべノイが跳んだ。ルガーがルドゥルの元に飛ぼうとするのをカーナは火の鞭で体の自由を奪った。

「炎も打たせないわ!」

アクアはそう言うと、ルガーの手の平に氷の槍を突き刺した。ルガーの顔を苦痛に歪む。身動きが取れないルガーの前でルドゥルはタカオとべノイの剣を受け止めた。しかし力の差は大きくルドゥルの体が吹き飛ばされた。

「ルドゥル‥…」

 木々に受け止められ体を起こしたフィーナの側にはフォンとレンが立っていた。

 タカオとべノイは間髪いれず、ルドゥルの側まで走り、体勢を立て直そうとするところに剣を突きつけた。

「ホンエン!」

 ルドゥルは木の杖を二人に向けて呪文を唱えた。べノイは金の剣を使い咄嗟にシールドを発生させ、その炎が当たるのを防いだ。タカオは体をそらして避けた後、地面を蹴ってルドゥルの頭上に跳んだ。そして風の剣を振り切る。

「くそ。俺がいるのに風の剣を使いやがって」

 べノイは忌々しげにつぶやき、そのシールドで体が吹き飛ばされないようにした。竜巻がルドゥルを襲い、その体を吹き飛ばした。

「レン!」

 ケンジはとっさにそう叫んでいた。


 ルドゥルは吹き飛ばされながら目を閉じた。

 これでいい。

 これでわしも皆の元にいける。


 父が殺され一人になった。

 父のために仲間のためにずっと人間を憎んでいた。


 そして幼いときに人間の女の子と遊んだ記憶など、忘れてしまっていた。


 いや、忘れたかった。


 魔族の最後の生き残りとして人間と仲良くすることはできなかった。

 父のために、仲間のためにわしは最後まで人間と戦うつもりだった。


 これでいい。


 ルドゥルは体にかかるであろう、衝撃と痛みを覚悟していた。

 しかしそれは来ずに、木々が柔らかく体を受け止めた感触がした。


 眼下をみると木の精霊がルドゥルの体を受け止めていた。

 そしてその側にはケンジとユリがいた。


「僕はあなたと戦いたくないんだ。お願いだ。僕達に協力していただけませんか?」

「私達の目的は失ったものの泉で仲間と殺された人を生き返らせたいだけなの。その後にあんたの願いを叶えることができないの?」

 ユリは涙で腫らした目をルドゥルに向けた。


 レンはゆっくりとルドゥルの体を地面に下ろすと、少女の姿に戻った。


「魔族さん!」

 ウェルザの声がした。そして胸に温かい感触を覚えた。ウェルザがルドゥルの胸に飛び込んでいた。

「助けてくれてありがとう。お願い、もう戦わないで」

 ウェルザの大きな瞳がルドゥルの胸を揺さぶる。


 ――ルドゥは私の一番の友達よ。

 彼女はいつもそう言って、大きな瞳をわしにむけていた。


 村人がわしと父を襲ったとき、誤って殺されてしまったフィーナ…


 わしの友達だった。

 一番の友達だった……


「ルドゥル。魔族の生き残りはお前だけだ。失ったものの泉を破壊し、魔族の世界とこの人間の世界を再び一つにするのだ。頼んだぞ」

 そう言って父は息を引き取った。

 魔族のわしらが人を襲ったことはなかった。


 わしらの姿に人間はおびえていた。


「魔族さん、私がずっとそばにいて、人間からあなたを守ってあげるわ。だから、もう戦わないで……」

 ウェルザはルドゥルを見上げた。その側にはナジブが控えていた。

「マスター。俺も側にいます。これ以上戦うことは無意味です」

 ナジブはウェルザに呼応してそう言った。


「仲間を呼びたいんだろう?」

 ふとべノイの声がした。べノイは金の剣を握ったままだった。そしてその瞳はするどい光を放っていた。

「ずっと昔は世界はひとつだったんだろう?」

 べノイは母ダリンが幼いころに聞かせたくれた昔話を思い出していた。ずっと忘れていた話だった。大人になり魔族は人間に害をなすものとしか思わなくなっていた。

 しかし、目の前の魔族はウェルザを救った。そしてべノイはウェルザを追ったときに辿り着いた墓地を思い出していた。べノイたち人間に殺された魔族の墓場……多くの墓標が立っていた。

「俺たちが願いを叶えた後なら、失ったものの泉を破壊しても構わないぜ。そのほうが精霊たちにとってもいいだろう?」

 べノイの言葉が朝を迎えた森の中で響いた。


「わしは仲間を呼ぶぞ。いいのか?」

 ルドゥルは戸惑いの隠せない顔でそう聞いた。

「昔はひとつの世界だったんだろう?なあ、ケンジ。いいだろう?」

 べノイはそう言いながらケンジを見た。

 べノイの瞳から鋭い光が消え、いつもの瞳に戻っていた。ケンジはユリを見つめた。ユリは満面の笑顔を浮かべうなずいた。

「もちろん。僕は構わないよ。武田係長もそれでいいですよね?」

 ケンジが後方にいるタカオに顔を向けた。

「僕に口を挟む権利はないよ」

 タカオは苦笑してそう答えた。


「魔族さん」

 ケンジはルドゥルにそう呼びかけた。

「僕たちと一緒に失ったものの泉へ行こう」

 ルドゥルはケンジの言葉に一瞬考えた後、差し出された手を握った。

それを見てウェルザは泣きそうな顔をした後、笑顔になり、ルドゥルの首元に手を回した。ルドゥルは顔を引きつらせ、ナジブは驚いたような顔を見せた。

 ユリはケンジの側にそっと寄り添い、その手を握った。


 気がつけば日が完全に昇っていた。

 眩しい太陽の光が一同を照らしていた。



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