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不良神父と黒い部屋

 この部屋は、四方に黒く塗られた壁に囲まれた空間だった。

 窓は北に設置されており、季節にもよるが大抵は昼間でも薄暗い部屋になっている。

 カーテンは暗幕。机も黒いペンキで塗られており、本棚も黒。床も黒。絨毯も黒。どこを見ても、黒、黒、黒。

 

「部屋主は、何を思っていたんだ?」


 部屋を見たコーディアスは、驚きを通り越して呆れた声で第一声を上げる。

 依頼人の説明を終えた一同は、とある部屋に案内されていた。

 

「主人は神智学に理解があり、様々な文化地域の宗教について研究してました」


 キューベルト夫人は、コーディアスの方へ罪悪感の表情でチラッと見て説明をする。

 コーディアスがキリスト教会の神父であるため、コーディアスの反応が気になるのだろう。


「ご心配無用。俺個人の意見としましてはね。どんな思想の持ち主であれ、人様に迷惑にならない範囲であれば思想の自由があると思うのですよ。この部屋を見れる限り、確かに趣味は悪いし健康によろしくない。特に、心の健康については。といっても、それは本人の自由でありますから俺は神を盾にして煩く説教はしませんよ」


 神父あるまじき発言を平気で言いのけながら、コーディアスは部屋の隅々を調べて行く。

 他の招かれた客も、各々の方法で調べていっている。

 テューダー教授は助手のフィッツウイリアムに命じ、部屋の温度を測らせている。

 水明は部屋をぐるっと見渡した後、その場で静かに目を閉じて黙想し始めた。

 

「んっ?」


 コーディアスが壁を叩いたときだった。叩いた壁が他の壁より音が違って聞こえたのだ。

 もう一度壁を叩いてみた。

 向こう側が空洞になっているような音がする。

 

「コーディアス神父、ちょっといいですか?」


 音も無く水明が寄って来たので、コーディアスは飛び跳ねて間合いを取った。


「お、驚かすなよ」


 水明はコーディアスが何で驚いているかわかっておらず、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。


「どうしました?」

「どうしたもこうも、お前さんが幽霊のように現れて声をかけたから驚いたに決まっているんだろ!」

「あー」


 気の抜けた間抜けな声を上げて、水明はぽんっと手を打つ。


「それはスイマセンでした。悪気はないのですが、どうしても癖でして。それよりも、コーディアス神父はこの壁を叩いて気付きましたか?」

「壁が薄いことか? 俺が壁を叩いている音を聞いていたのか」

「いいえ、この壁が薄い理由について霊視しましたから」


 今度はコーディアスが不思議そうな表情を浮かべる番だった。

 

「お前さん、霊視って」

「この国の言葉では霊視とは言わないのですよね。"視た"というべきでしょうか」

「お前さんは超能力者か? 俺はてっきり日本のお払い屋かと思っていたが」

「私は陰陽師というものでして、お払いもしますが場合によっては予知もします。日本では、不思議な能力を使って視ることを霊視といいます。こちらでは、超能力という言葉の分類に入るらしいですね」


 国が違えば言葉の意味も違うらしい。

 水明は両手を広げて肩をくめる。表情は、難しいと、いうような感じだ。


「まぁ、確かに言葉の違いは難しいよな。お前さんが便利な能力をくつも持っていてその能力を使った結果、何が視えたのか教えてくれないか?」


 水明は頷くと、部屋の真ん中に位置してある机に近寄った。机の椅子を避け、机の下に入って行く。

 コーディアスは何事かと訝しく思いながら、水明が何をするかを黙って見届ける。

 水明が机の下で、なにやらごそごそと作業をしだした時だった。ゴォー、と部屋中が地唸りがするような低い音が響いたのは。

 

「うわっ」


 フィッツウイリアムが驚いてうわずった声を上げた。

 

「嘘でしょう」


 続いて、キューベルト夫人も信じられない光景を眼にした表情で、首を横に振る。


「おいおい、隠し部屋かよ」


 唸りながら呟き、コーディアスは額に手を当てる。

 

「ご主人は相当物好きでいらっしゃったようですね」


 この場にいて唯一驚かなかったのは、能力でこの仕掛けを知った水明だけであった。

 

「何がどうなっているか、説明してくれないか?」


 コーディアスは水明に説明を促した。

 水明は細い眼を更に細め、この部屋にいる人々を見渡して説明をし始める。


「ご主人はですね、そうとう物好きでいらっしゃいます。変わった趣向の持ち主ですね。世間一般からすると変人レベルに到達しているのではないでしょうか?」


 奥さんの前で“変人”という言葉を躊躇ためらわずに言う水明。そんな水明に、コーディアスは咳払いをして肘でこづく。


「あ、すいません。変人というのは、少々物の例えが悪かったですね」


 物の例えが悪いところではない。

 下手すると名誉毀損で訴えられる可能性がある言葉である。


「いいえ、いいのです。確かに、主人はかなりの変わり者でしたから」


 水明の発言に対しキューベルト夫人は、怒るところか頷いて許す。


「考古学が趣味で様々な場所へ赴き、様々な文化に精通したあげく神智学に手を出す始末です。世間一般から言うと変人と罵られてしまいますわね」


 キューベルト夫人の顔色は少々疲れた色が浮んでいた。

 変った趣味がある夫を持つことに、少々疲れ果ててしまった心情が伺える。



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