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不良神父と変わり者の東洋人

  部屋の中から、中年女性ならでわの落ち着いた声が入室を許可する。

 それを聞き確認した後、ハウスメイドは音を立てないように配慮してドアノブを回す。


「失礼します」


 部屋には数人が木造テーブルを囲んで座っていた。

 木造テーブルの奥に座っている女性が、優雅に立ち上がる。

 

「奥様。依頼をお受けなさった神父様がいらっしゃいました」


 奥様、と呼ばれた女は、静かにこちらに歩み寄ってきた。

 そして、コーディアスの前に立ち、もてなしの笑みを浮かべて自己紹介をする。


「ようこそ、私はジェイミー・キューベルトです」

「依頼人のジェイミ―・キューベルトさんですね。初めまして、コーディアスです」


 コーディアスとジェイミーは軽く握手を交わす。

 ジェイミーに席を案内され、コーディアスは先に到着している先客の青年の隣に座る。

 

「ミス・キューベルト。こちらの方々はどちら様でしょうか?」


 先客をいぶかしむコーディアスに、ジェイミーは慌てて答えた。


「どのような方々にお尋ねすればよろしいかわからなかったので、巷で有名な方々をお招きいたしましたの。こちらは、スピリチュアル協会の名誉会長であるカティ・テューダー教授」


 ジェイミーは彼女より年配の女性を示して紹介した。

 カティ・テューダー教授は、茶色い髪と青色の瞳と一見普通の女性と思いきや、口紅は真紅色で白粉は厚く塗っている。この行為は歳をごまかすためなのかもしれないが、化粧に力を入れれば入れるほどごまかされていない。それに、本人は気づいていないらしい。そして、体系は小太りときた。


「で、こちらの方がカティ・テューダー教授の助手であるランディ・フィッツウイリアムさんですわ」


 コーディアスの横に座っている青年が会釈をする。

 ランディ・フィッツウイリアムは、銀髪に灰色の目の色素が全体的に色が淡かった。ランディの特徴はオドオドと動く瞳と困ったような眉が印象で、そこから彼の気の弱さを感じる。

 

「あと、もう一名が来る予定ですわ」


 その言葉と同時に玄関のベルが鳴った。

 ハウスメイドは客を出迎えに去り、暫くして客と一緒に現れた。

 

「依頼をお受けなさった東洋人の方でございます」


 新たな客を見て、一同が目を見開く。

 何故ならばその客が、動物園で公開されている珍獣と同じくらい珍しかったからだ。

 ここにいる人は全員、東洋人を見たことがないのだ。


「お前さん、東の島国出身だな」


 コーディアス神父が彼に尋ねた。

 東洋人男性の細く少し釣りあがった目がコーディアス神父に向けられる。


「よくお分かりで。私の出身を的確に答えたのは、貴方が始めてですよ」


 コーディアス神父は内心で口笛を吹いた。

 外人は外国語をしゃべるときは変な訛が出てくるが、東洋人男性の発音が流暢で訛がなかったからだ。

 声色は澄んでいて爽やかで、声変わりをしていない感じも受けなくはない。

 

「無理もないな。お前さんの国は、今は鎖国という状態らしいから、黄色人種=清の人間という常識になってしまうんだよ」

「ですよね」


 東洋人男性は溜息をつきながら、空いている椅子の上に正座をして座る。

 コーディアスは、呆れながら指摘する。


「おい、椅子の座り方知っているよな?」


 失礼だと思うも、気になったらとことん気になりだすタイプ。指摘せずはいられない。

 東洋人男性は、コーディアスの指摘には気分を害したわけもなく、照れ笑いをする。


「すいません。私の国では座る時は正座が常だったためか、椅子の正しい座り方には正直なじみませんで。あぁ、すいません! 履き物を脱ぐべきでしたね」


 椅子を汚すのを恐れ、東洋人男性は履き物を脱ぐ。

 コーディアス神父は、変わり者の東洋人男性を観察した。

 黄色人特有の黄色味を帯びた肌だが、色素が薄いためだろうか、ほんのり黄色で白人には及ばないが肌が白い。漆黒色の髪が真っ直ぐ伸び、後ろに一つにまとめられて背に垂らしてある。細く少し釣り上がった目は黒曜石のようだ。

 着ている物も実際に見たことがないが、コーディアスは文献や資料で見たことがあった。彼の着ているのは“着物”といものだ。黒に染められた布、胸の部分に星の模様がある。

靴下は“足袋”という。靴下と比べると面白い程形が違う。靴は“草履”と言うもので、それは藁で編んで作ったものらしい。


「何か?」

「あぁ、いやいや。なんでもない」


 悟られないように観察していたのだが、相手は気配に敏感らしいのか気付かれてしまった。

 東洋人男性は不思議そうな顔をしたが、気にするようなことでもないと思ったのだろう真顔に戻る。そして、ここにいる人々に対して自己紹介をする。


「初めまして、私は東の島国からこちらの国に密航してきました。日本人の安部 水明です。こちら側の名乗りだと、水明・安部になりますね。どうぞ、よろしくお願い致します」


 丁寧に頭を下げる動作は綺麗だった。


「私の事は水明と親しみを込めてお呼びください」


 涼やかな笑顔で東洋人男性、水明は皆を見渡した。


「皆さんが揃ったところで、依頼のお話をより詳しくお話したいと思います」


 ジェイミー・キューベルトが全員揃ったところで、依頼の話を持ち出す。

 皆一同にジェイミ-・キューベルトに注目した中で、コーディアスは数日前に記憶を遡らせた。



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