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浮気した方からの婚約破棄って変じゃありませんか?

作者: 弍口 いく
掲載日:2026/10/24

 数多くの作品から目に留めていただき、ありがとうございます。

「君との出会いは運命だ、一目見た瞬間、愛が溢れ出した」


 歯の浮くようなセリフを言われた私、でも悪い気はしない。私も彼と会った瞬間、目の前でなにかが弾けたような気がしたからだ。


 ジョゼフ様との出会いは王立学園に入学してから一カ月が過ぎた頃だった。廊下で鉢合わせしてぶつかりそうになった、そんなありふれた出会いだったが、目が合った瞬間、お互いになにかを感じて心臓が高鳴った。


 私はリベラ子爵家の末娘ディアーナ、黒髪に橙色の瞳でキツそうに見える顔立ちが少々気に入らない今年王立学園に入学した十六歳。

 我がリベラ子爵家は金融業を営み、家格は低いが高位貴族にも一目置かれるちょっと有名な資産家だ。


 私に愛を囁くのはブリージ侯爵家のジョゼフ様、一学年上の先輩。ダークブロンドにコバルトブルーの瞳、物腰柔らかで紳士的な美男子。


 私たちは惹かれあい、人目を忍んで逢瀬を重ねるようになっていた。

 会うたびに彼への想いは強くなる。しかし会うたびに罪悪感に苛まれる。

 その訳は、私にはまだ婚約者はいないが、彼には婚約者がいると知っているからだ。その伯爵令嬢は二歳年下の幼馴染で五年前から婚約関係にある。


 婚約者の令嬢はまだ入学していないし、私の存在を知る由もない。自分の婚約者と他の女が急接近していることなど知らない。だから、今ならまだ引き返せる、それはわかっているのだが……。


「彼女は子供の頃から知っている妹みたいな存在なんだ、恋愛対象として見たことはないけど、親同士がさっさと婚約を決めてしまったんだ」

 とジョゼフ様は言う。

「でも、彼女の方はジョゼフ様が好きなんでしょ?」

「まだ世間知らずの子供だよ、彼女だって学園に入学して新しい世界を知れば気持ちも変わるさ」


 王立学園に通うようになり、新しい世界を知り、新しく出逢った相手と恋に落ちて、親が決めた婚約者との関係が破綻するという話は珍しくないが、

「ダメです、誰かに見られた」

 私はジョゼフ様の接近を両手で阻止して押し戻した。残っている理性の欠片がこれ以上、彼を受け入れてはいけないと叫んでいた。


 ここは学園の裏庭、あまり人が来ないところだが、誰も来ないとは限らない。どこに人目があるかはわからないのだ。今のところ私たちに関係は知られていないようだが、ジョゼフ様は高位貴族の目立つ存在、一度でも人の目に触れるとたちまち噂になるのは分かりきっている。


「彼女との婚約は破棄する、そうすれば僕たちの障害はなくなるさ」

「婚約を破棄? それは……」

「身分のことなら問題はない、リベル家は子爵だけど裕福だし信望がある、陞爵するという噂も出ているだろ、うちの両親が反対する理由はないはずだ」

「そうじゃなくて、浮気した方からの婚約破棄って変じゃありませんか?」

「浮気なんて安っぽいものじゃないだろ、僕たちの愛は真実だ、誰にも邪魔は出来ない」


 彼の端整な顔が近づいてくる。

 ああ、そんな目で見つめられたら……。


 その時。


「ディアーナ様ぁぁ!! ディアーナ様ぁぁ!!」

 私を呼ぶ声がした。

「ディアーナ様ぁぁ! どちらにいらっしゃいますか!」

 それは聞きなれた侍女の声、私を捜しているようだ。


「ちえっ」

 ジョゼフ様の舌打ちしながら首を項垂れた。


 いいところだったけど……。

 いやいや!! 危機回避できたのだ。あのまま流されていたら取り消しが付かないところに沼っていたかも知れないし。

 でも、まだ午後の授業が残っているのに、侍女はなんの用なのだろう?

 私はジョゼフ様から離れて侍女の声がする方へ向かった。


「どうしたの? 大声ではしたない」

 木の影から急に出てきた私に、侍女は一瞬驚いたが、

「お捜ししました、大変なのです!」

「なに?」

「リベル前子爵夫人が暴漢に襲われました」



   *   *   *



 リベル前子爵夫人、私がフィーおば様と呼んで敬愛している方だ。ミルクティー色の髪にヘーゼルの瞳で才色兼備な三十代半ばの貴婦人。彼女が襲われた知らせを受けて私は病院へ駆けつけた。


 慈善活動に訪れた教会での出来事だった。

 犯人は平民の女、まだ少女だったらしい。

 その場で取り押さえられて騎士団に引き渡された。


 尊敬して止まないフィーおば様、女神のような彼女がなぜそんな目に遭わなければならないの!


 フィーおば様は、正確には私の義祖母に当たるフィノーラ・リベル前子爵夫人。私の母ヒルダよりも年下の祖母って妙だけど、それは祖父が犯罪級に若い後妻を娶ったからだ。フィーおば様は十八歳の時に四十歳の祖父に嫁いだ。どうやら実家ポントス伯爵家の借金のカタに売られてきたようだ。

 義理の息子となった父ルシウスはフィーおば様より年上で既に母と結婚していた。


 そんな事情など知らない幼少期から私はフィーおば様が大好きだった。彼女の立場を説明するのが難しく、幼い私たちが混乱するだろうと思った両親は、お祖母様ではなくフィーおば様と呼ばせた。


 フィーおば様は私たち孫の面倒をよく見てくれた。お喋りで我儘な長女、やんちゃな双子の長男と次男、私はおまけで生まれた四人目の末っ子、母は早々に私たちの育児を放棄した。愛されていなかったわけではないと思う、ただ、母は幼児が苦手だったのだろう。特にわんぱくで乳母や侍女たちも手に負えない制御不能な双子の男児に振り回されて、度々寝込んでいたらしい。


 その代わりに、温厚で何事にも動じないフィーおば様が育児と教育を担当してくれた。母はたいそう感謝していたらしい、今でも頭が上がらない。

 フィーおば様は優しいもう一人のお母様、いつも微笑みを絶やさない人だった。でも、敏感な私は、彼女の瞳の奥に深い悲哀が潜んでいることに気付いていた。





「なんでフィーがこんな目に遭わなければならないの、ずっと辛いことばかりだったけど、やっと穏やかな生活が出来るようになったのに」

 先に到着していた母のヒルダが、フィーおば様が眠っているベッドに伏して泣いていた。嫁いだ姉と、私と同じく学生の双子の兄たちも到着していたし、叔父夫婦と従兄弟たちも集結していた。


「怪我の具合は?」

「腰を刺されたのよ。命には別状なかったものの、下半身に麻痺が残り、元のように歩けないかも知れないと言われたわ。今は薬が効いて眠っているけど、こんなこと残酷過ぎて伝えられないわ。フィーは慈善活動で孤児院とかあちこち訪問するのを楽しみにしていたから……」


 母はフィーおば様の親友のつもりでいる。母の方は子供たちの世話を押し付けてずいぶん助けてもらったから恩義は感じているだろうが、フィーおば様が母を親友と思っているかは疑問だ。


「フェルメーナとルシウスが騎士団に呼ばれているわ」

 フェルメーナ様はフィーおば様の実の妹で、実家のポントス家を継いでいる。ルシウスとは私の父リベル子爵のことである。フィーおば様の夫だった前リベル子爵はすでに他界している。


「犯人の素性はすぐに判明したの、昔フィーの婚約者だった男の娘ステラだった。だから当時のことを詳しく知っているフェルメーナが呼ばれたのよ。なんで二十年も経った今頃、亡霊のように現れるの、あの男、どこまでフィーを苦しめれば気が済むのかしら」


 あの男と言うのはもちろんフィーおば様を刺したステラの父親、おば様の元婚約者でライル・デニックと言うらしい。

 デニック伯爵家の次男でフィーおば様とは幼馴染で婚約者だったが、学生時代に知り合った男爵令嬢エリザと浮気して、フィーおば様との婚約を一方的に解消した。おば様がライルを恨みこそすれ、恨まれる筋合いはない。それも恐らく会ったこともない娘ステラに。



   *   *   *



 病院には騎士団から戻ったフェルメーナ様が付き添うことになり、私たちは帰された。

 命に別状はないとはいえ、手術後は一度も目覚めていない。心配で心配で、フィーおば様が目を覚ました時、傍にいたかったのだが、それを言い出すと家族全員がそうだから、私たちは母に引きずり出された。


 タウンハウスに戻ったものの、寝付けるはずもない。

 厨房で夜食でも食べようかと一階へ降りたところ、話声が聞こえた。


 応接室でフェルメーナ様のご主人ポントス伯爵と、父ルシウスが酒を酌み交わしながら話をしているようだ。

 きっと事件の話をしているに違いない。好奇心に勝てない私は応接室の隣の備品室に入った。そこからだと話がよく聞こえるのだ。


「犯人はフィノーラ様と面識はなかったのだろ? なんで彼女を?」

 ポントス伯爵が父に質問していた。騎士団の上層部には父の知り合いもいるので捜査状況を聞かせてもらっているのだろう。


「犯人のステラ曰く、父親のライルの元婚約者は、真実の愛で結ばれた父と母を妬んで学生時代に散々嫌がらせをした上、卒業後は父親が赴任した国境の砦の町まで追ってきて嘘の噂を流布したり、自分の婚家の地位を利用して父親の上司に圧力をかけ、昇進できないようにした性悪女だそうだ。死んだほうがみんなの為になるらしい」

「みんなとは誰だ? 訳がわからん、なんで親はそんな嘘を吹き込んだんだ」


「生活苦の言い訳じゃないかな。真面目に働けど貧乏なのは、元婚約者が法外な慰謝料を請求した為に借金が残っている上に、父親の昇給を妨害しているから、本当なら騎士として優秀な父親はもっと昇給してと、もっと楽な暮らしが出来るはずだったのにと、母親のエリザはいつも泣いていたそうだ。恨み言を聞かされて鵜呑みにした彼女は、父親の元婚約者のせいで貧しい生活を強いられていると、ずっと思っていたんだ」


「とんでもない親だな。でも、だからと言ってなんで今更凶行に走ったんだ?」

 ポントス伯爵が大きなため息を漏らす。

「あんな奴らに育てられた子供だぞ、親が親だ、まともな常識などな持ち合わせていないのだろう」


「フェルメーナから話は聞いていた。義姉の話をする時はいつも泣いていたよ。そもそも婚約者がありながら浮気をして一方的に婚約を解消したライルが悪いんだろ。二人は幼馴染で婚約を望んだのはライルの方だったらしいぞ。長女で跡継ぎのフィノーラ様にライルが婿入りする予定だったのに、エリザに誑かされてライルはすっかり変わってしまった。嫌がらせを受けていたのはフィノーラ様の方、エリザはライルを奪い取った優越感を傷付いているフィノーラ様に見せつけるようにベッタリしていたそうだ。二人の浮気が原因の婚約解消なのだから、慰謝料が発生するのは当然のこと、平民になってもライルとエリザには支払う義務がある」


 ポントス伯爵はさらに続けた。

「ライルが昇給できなかったは、実家から縁を切られて平民となり、王都から辺境の砦へ飛ばされてきた訳有りの人物だと、入団時から知られていたからだろ。婚約は家と家との契約、それを自分の感情だけで簡単に破り、家に迷惑をかけて見放された人間が信用されるはずはない」


「フィノーラ様に降りかかった悲劇はそれで終わらなかったんだよな。慰謝料を受け取った父親の前ポントス伯爵が、思わぬ大金を手にして舞い上がって、怪しい新規事業に手を出し失敗して負債を抱えてしまった。そのせいで親父の後妻として売られて来たんだ。うちに来た彼女に会った時は驚いたよ、学園を卒業したばかりの、まだあどけなさが残る少女だった、怯えた目をしていたよ」


 それがフィーおば様がリベラ家に来た経緯だったのか。なんとなくは知っていたけど、父の口からハッキリきいた――盗み聞ぎだけど――のは初めてだ。二人ともペラペラとよく口が回るのはお酒が進んでいるせいかも知れない。


「リベラ子爵家は親父の時代は阿漕な高利貸しだったからな、親父も悪い奴だったし、フィノーラ様は苦労させられたんだよ。俺と弟が既にいたから必要ないと子供は産ませてもらえなかった。子供好きの彼女には辛かったと思う。俺は庇ってあげることも出来なかったのに、親父が死んで子爵家が危機に陥った時は率先して動いてくれて、彼女の才覚がなければリベル子爵家はなかった、感謝しているよ」


「で、話は逸れてしまったが、犯人は今更なぜフィノーラ様を襲ったんだ? 逆恨みしていたとしても二十年近く経っているのに」

 そうよ、それが一番聞きたい。


「恋人に振られたんだって」

 呆れ返った父の声、そして、

「はあ?」

 理解できないと言わんばかりのポントス伯爵の声。


「付き合っている男がいたそうだ。父親と同じ辺境の砦に勤務する騎士で、ステラは結婚するつもりだったようだが、別れ話を持ち掛けられた。男はステラの父親が借金を抱える訳あり人物だと知ったんだ。そんな男の娘と結婚したら、自分も信用を失くして一生昇給できないかも知れない、人生を棒に振ってまで添い遂げたいとは思わないと言われたそうだ」


「自分が捨てられたのも、父の元婚約者のせいだとこじつけたのか?」

「幼い頃からの刷り込み故だろう、悪いことが起きれば全てフィノーラ様のせい、彼女が王都で裕福な暮らしをしているから余計にそう思ったんだろう」


「平民が貴族に重傷を負わせたんだ、極刑になっても仕方ない罪だが、どうなるだろうな、一応裁判は行われるようだ」





 二人の話を盗み聞きしていた私は衝撃のあまり凍り付いていた。

 フィーおば様の不幸な過去を知り、そして、自分がおば様に相談していたことを思い出して身の毛がよだった。


 ジョゼフ様との道ならぬ恋の話を打ち明けていたのだ。


 同じじゃないの。

 私は犯人ステラの母親の立場だ。婚約者がいる男性に惹かれて逢瀬を重ねている。そして彼は、なんの瑕疵もない婚約者、フィーおば様と同じ立場の令嬢との婚約を一方的に破棄しようとしている。


 そうしてほしいとジョゼフ様に言っていないが、心の中では望んでいる。彼の婚約者を、彼との恋路を阻む障害だと思っている。彼女にはなんの罪もない、悪いのは私たちなのに……。


 フィーおば様は私の話をどんな気持ちで聞いていたのだろう。頭から反対することはしなかったけど……。

『誰かを不幸にして幸せになっても、いつかは報いを受けるものよ、その覚悟はある?』と聞かれたっけ……。


 ステラの両親はずっと慰謝料の支払いに苦しんでいた。それはそうだろう、平民と貴族の収入には大きな差がある。騎士とて同じ、貴族籍のある騎士と平民の一兵卒とではかなりの差があるだろう。

 貴族だった時代に追った借金を、平民になってから返すのは酷だ。それがわかっていて双方の家が立て替えた借金の返済を課したのは、不誠実な行いをして周囲に多大な迷惑をかけた二人への罰の他ならない。一生かかって償えと言うことだろう。

 フィーおば様はそんな彼らの状況を知っていただろう。


 ジョゼフ様が婚約者の令嬢との婚約を破棄したら、どんなペナルティがあるかはわからない。両家は親しい間柄らしいけど、事業などで繋がりがあり、政略が絡んでいたのなら、両家に亀裂を入れた息子をご両親は許すだろうか? フィーおば様の元婚約者のように除籍されるような事態になるかも知れない。


 そんなところまで考えは及ばなかった。

 なにより、婚約者の令嬢がどれほど傷付くか、彼女がその後どうなるかなんて真剣に考えてはいなった。


 私は一晩中、狭い備品室から動けないでいた。



   *   *   *



「私……まだ生きているのね」

 翌日、目覚めた時、フィーおば様は苦笑しながらそう言ったらしい。


 やはり車いすの生活を余儀なくされることになるらしい。

「きっとこれは罰なのね、こんな体になっても生きていかなければならないなんて」

 お見舞いに行った私にフィーおば様はそんなことを言う、意味がわからない。


「なんでフィーおば様が罰を受けなければならないんです! おば様はなにも悪くないじゃないですか!」

 私は思わず叫んでしまった。そして目頭が熱くなった。


「おなたは知らないだけ、私は罪深い人間なのよ」

「そんなことない、おば様は女神だもの」

「まあ、女神様に失礼だわ」

 おば様はベッドに伏して泣く私の優しく頭を撫でてくれた。


 あの日から私は毎日病室を訪れて一日をそこで過ごす。他の家族も入れ替わり見舞いに訪れるが、私が誰よりも長くそこにいた。

 学園もずっと休んでいるが、幼い頃から私が一番フィーおば様に懐いていたので、両親は仕方ないとばかりに目を瞑ってくれていた。

 ジョゼフ様にもあの時以来、会っていない。





「私……報いを受ける覚悟はありません、それに気付いたから、……逃げようと思います」

 ずっと考えていたことをフィーおば様に吐露した。

「隣国へ留学します。物理的に遠ざかるのが一番いいから」


 両親にも頼んでいた。

 こんな事件が起きてややこしい時に留学したいなんて我儘を言った私だが、なにかを察してくれたのか、もしかしたらフィーおば様が話をしてくれていたのか、すぐに手続きを始めてくれた。

「そう……」

 フィーおば様は私の手をそっと自分の手を重ねてくれた。


「ジョゼフ様には手紙でお別れを告げることにしました。薄情だと思われるだろうけど……会わずに行く方がいいのです」

 会えば決心が揺らぐかもしれないし、余計ないことを期待してしまうから……。ジョゼフ様が帰るまで待っていると言ってくれるかも知れない、とか、一緒に行くと言ってくれるとか……。ほんと未練たらしいわね。


 きっと私がいなくなればジョゼフ様も目を覚まして、婚約者の元に戻るだろう。私が本気ではなかったと思って失望し、諦めてくれるだろう。


 いつの間にか私の目から零れた大粒の涙がフィーおば様の手の甲にポタポタと落ちていた。


「踏みとどまってくれてよかったわ」

 フィーおば様のお陰です、とは言えなかった。おば様の過去を盗み聞きしてしまったなんて失礼すぎる。おば様は秘密にしていたわけじゃないだろうけど、知られたくもない過去だろうから。


 聞くところによると、あの後も事件が続いていた。


 ステラはまだ裁判待ちだが、彼女が凶行に走ったのは恋人に裏切られたせいだと、母親のエリザがステラの元カレに刃物で切りつけたらしい。似たもの親子だった。

 しかし相手は騎士、そして近くにも同僚の騎士がおり、仲間の危機に剣を抜いた。エリザはその場で切り捨てられた。


 翌日、父親ライルの首つり遺体が自宅で発見された。

 二十年も経った今、彼らが一人の女性を不幸にした報いを受けたのは、自分たちの罪を認めなかったからだろう。


 私は早々に過ちに気付いて、自分の罪を認めた。


 結局、なにもかも捨ててジョゼフ様への愛を貫く勇気はない。彼となら地獄に落ちてもいいと思うほどの愛はなかった。逃げ出す私は卑怯者だ。

 私のそんな思いに気付いたのか、フィーおば様はギュッと私の手を握ってくれた。


「出逢えなかった私が言うのもなんだけど、あなたならきっと大丈夫、本物の運命の人と巡り会えるわ」


 〝運命の人〟という存在が本当にあるかは疑問だが、次は隠れて会わなければならないような人とは絶対恋に落ちないわ。


   おしまい


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 ☆で評価、ブクマなどしていただけると励みになります。よろしくお願い致します。


 お気付きの方もいらっしゃると思いますが、『あの日のあの言葉で――婚約破棄の煽りを受けた人たち』に登場したフィノーラ・リベルのその後に起きた物語です。お暇があればちょっと覗いてみてください。


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