たぬきの俺は最強パーティーから追放されたので、大魔導師になりました〜家族限定召喚だが、魔王を倒してきます〜
数ある中から作品を選んでいただきありがとうございます!
勇者に憧れた少年だった。
それはどこにでもいるような黒い短髪のほどほどに整っている顔に平均的な身長。
“たぬき”ということだけを除けば。
魔王を倒して王都に凱旋。
溢れかえった人々に手を挙げて応える。
すると誰もが笑顔になり、温かな歓声が上がる。
そんなきらきらとした未来は夢で終わった。
勇者を諦め、魔導師となった。
今や俺は最強パーティーのメンバーなのだ。
目の前の勇者は信頼の厚い目を俺に向ける。
「たぬ、“俺たち”は魔王を倒しに行くぞ」
勇者は両肩からマントを靡かせ、腰の剣に手を添える。
たぬと呼ばれるたぬきちの俺は、胸に熱いものを感じて震えた。
「あぁ、魔王を一緒に倒しに行こうぜ」
「いや、お前はチェンジで頼む」
「ち、ちぇんじ……!?」
(嘘だろ!? 俺だけが“仲間”だと思ってたのか……)
魔王城は勇者たちがいるところから魔の山岳地帯を通れば一直線。
強い魔物を倒しながら夜に焚き火して、「魔王を倒したらさ──」なんて明るい未来の話を俺はずっと想像してきた。
(焚き火も、馬鹿話も、
未来の話も──全部、俺だけのものだったのか、ちくしょう!)
勇者の横にやってきたのは、色こそは濃くないが焼いたウインナーのようにぱりぱりの筋肉の武闘派男。今後、“粗挽きウインナー”と呼ぶことにする。
「……戦士?」
「いや、魔導師だ。たぬも悪くないんだけど、なんか普通だしね。やっぱりインパクト重視というか──」
言い淀んだ勇者は俺から粗挽きウインナーに視線を移した。
タンクトップに魔導ローブを身に着け、大きな魔法の杖を持っている。見た目からして職業を間違えている。
「新しいメンバーのゴルドだ。やっぱり最強パーティーなら皆が主役級のオーラじゃないと、な?」
(魔導師に筋肉いらなくないか!?)
「さぁ、皆行こうぜ」
「うっす」
剣士、戦士とヒーラーは粗挽きウインナーの周りに集まる。新しいメンバーを迎え、活気のある声は遠くなる。
(俺のポジションが……)
俺は一人ぼっちになった。
十年来のパーティーから追放された。
* * *
魔の山岳地帯の麓にぽつんと一人の俺は、この偽りの姿をやめた。
“たぬき”は変化が得意。
どこにでもいる平均的な見た目をしていたのには理由があった。
力は強かったが、同じパーティーの戦士と見た目も被ってしまう。
剣も扱えたが、勇者に遠慮。
がっちりとついた筋肉を抑え、平均的な身体つきに変えると、杖を持ち魔導師になった。
人間の姿になるのは朝飯前だが、俺はメンバーと仲良くやっていきたかった。
それは俺だけだったらしい。
(もういいか。
合わせる必要も、遠慮する必要も──ない)
白い煙が身体を包み、人間の姿に戻る。
本来の厚い胸板、筋肉が盛り上がる腕に足。平均よりもひと回り高い身長。これがたぬきちの本来の人間の姿だった。
「あぁ、窮屈だった」
重たい足取りで魔の山岳地帯に踏み込むと、巨大な蜘蛛や魔獣、ドラゴンなどが蔓延る。
剣を握ると腕試しに回転斬り。
俺の倍ほどある魔蜘蛛は頭から綺麗に真っ二つになった。
その後、気がついたかのように切り目から青い体液が滲み出る。
「腕が鈍ってるなぁ」
腕をぐるぐると回転させると、背後から跳んで襲いかかる魔獣熊の気配を感じた。
剣をやめ革の手袋を着ける。
左に下がりながら魔獣熊の方へ身体を回転させ腕を構える。
風が俺の横をすり抜ける。
俺の拳は厚い毛皮の中の肉を捕らえた。
固い。
そのまま振り上げると、俺の倍ほどある巨体は弧を描きながらふっ飛んだ。
すぐに腹に響く重低音の地鳴りがする。
魔獣熊が地面に打ちつけられた衝撃だった。
足で地面の揺れを感じていると、小さな石が頬を掠める。
土煙が流れると魔獣熊は動かなくなっていた。
腕をひらひらと振る。
「固っ! あんな熊相手に腕が疲れるなんて、俺も弱くなったな」
魔法の杖を手に持つ。
(やっぱりしっくりくるな)
先程の戦闘で周りが騒がしくなってきた。
魔蟲や飛行獣、獰猛な魔獣の姿が見える。
俺は杖を前に突き出す。
『空よ嘆け。
大地よ叫べ。
世界が炎を拒もうとも、
我はそれを赦さぬ。
滅びの火雨、今ここに──』
次の瞬間、空から火が垂れてきた。
あまりの広域魔法に魔物たちも空を見上げた。
次の瞬間、滝のようなオレンジの炎が大きく暴れ始める。
それを見た俺の頬をちりっと熱さが襲う。
「あちち、焼きすぎたかな」
昼間にも似た明るさが暗い山岳地帯を照らす。
俺は器用な方だったので、火、水、雷、土など複数の属性の魔法攻撃を巧みに使いながら山岳地帯を進んだ。
一際暗雲が垂れ込める空の下には魔王城が見えた。
(あれ……もしかして大魔導師だけが使える『召喚』の力を感じる……)
昼間なのに暗い。時折、稲妻の光が空を切り裂く。
すると、魔王城の西塔と東塔にそれぞれ二人の姿が浮かび上がった。
漆黒の闇を纏う2本の角の生えた魔王と逞しい身体にマントを着けた大魔導師。
息をするのも苦しいほどの威圧感に、空間そのものへ亀裂が入るようだった。
『名を呼ぶ。
契約を超え、理を越え、
我が魔力は汝を縛らず、
我が意思は汝を従えぬ。
ただ世界の要請として──
来たれ』
大魔導師の目の前で大きな魔法陣が黄金の光を天へと結ぶ。
俺は、これで決着がつくと確信した。
光が薄らいでくるとその中に人影が浮かび上がる。
期待で高鳴る胸。
俺はずっと目を凝らしていた。
そして現した姿は──。
「王妃さま!?」
「あらぁ、たぬちゃんじゃない!」
二度見どころではない。
「えっ母さん!?」
母さんは王妃だった。
深みのある蜂蜜色の艷やかな髪を綺麗にまとめ、上品なドレスを着ている。
ティアラこそ付けていないが、以前、国内行事で王城のバルコニーに悠然と立っていた人物そのものだった。
(これはもしかしなくても⋯⋯)
俺はもう一度杖を上げてこう叫ぶ。
『名を呼ぶ。
契約を超え、理を越え─(以下略)』
「母さん、ここに置いてあったみかんは……ってたぬきちじゃないか! 元気だったか?」
「やっぱり父さんだ!」
そう言いながらも、いつも見ていた丸っこい見た目とは違い、父からは渋みあふれる王のオーラが漂っていた。
オールバックの髪から後れ毛がおでこに少し垂れ、がっしりとした顎の精悍な顔つき。
頭の中が整理できない。
(この国はたぬきに支配されていたのか……)
呆然とする俺は言葉を選びきれない。
「びっくりしているのね。うちの家系は身内しか呼べないのよ。でも召喚できるなんて数百年ぶりよぉ」
「家族召喚なんてたぬきちにしかできないな」
(召喚は俺だけしかできないものなのか)
胸がちりっと熱くなる。
母は眩い黄金の光を纏うと、逞しい獅子の体に翼を備えた──グリフォンの姿となった。
肩が僅かに隆起すると息を吸い込むように口の中に魔力を溜め始める。
耳に直接母の詠唱が聞こえてくる。
『記されし契約は石に残り、
語られし盟約は血に継がれる。
王朝の暁より守りし古き盟よ、
代を継ぐ我が声に応えよ。
——来たれ、守護なるもの』
口元から牙が見えたと思ったら、大きな口から白い破壊光線が魔王へと伸びる。
それを追うように光線の周りに黄色と白色の細い光線が互い違いに螺旋を描いていく。
絶対的な力に眩しさを覚えながら、俺は直感した。
(この戦いはこれで終わる!)
魔王は光に包まれて姿を消す。
それを見た母は白い煙とともに王妃の姿に戻った。
様子を探るたぬき家族。
薄暗い景色に戻ると、魔王は苦しいのか顔を空へと向けていた。こちらに向き直ると魔王の尖った爪の見える手の中には超高圧の闇の玉。
こちらへ向かって投げてくる。
父はとっさに母と俺の前に立ち、掌を闇の玉へ向ける。すると青白い障壁が出現した。
吸い込まれそうな低く響いている音とともに紫雷が辺りに暴れる。
桁違いの力同士ぶつかり合うと行き場のなくなった力で爆風が吹き上げた。
乾いているが淀んだ空気が肺に入り込む。
「母さんの破壊光線が駄目だなんて⋯⋯」
「そうよね、びっくり〜」
母は父のガードの後ろで頬に手を添え困ったポーズをしている。
「母さん、たぬきち、心配するな。あとは父さんがやる」
それが収まると、父は青い光に包まれた。
空色の鱗が煌めく大きなドラゴン。
翼を広げ咆哮を出す。
『貴様らのような“群れ”に、我は負けぬ』
魔王が威嚇を跳ね返そうとする。
地響きが鼓膜を容赦なく襲う。
その衝撃は空へと届き、雷が魔王に落ちた。
父の詠唱が頭に直接入り込んでくるように聞こえる。
『ビリラ・バレラ・ボロロロン、
クルリと回って星ひとつ!
パチリと弾けて扉がひらく、
ほらほら急いで出ておいで〜』
俺はつくづく性格が表れるものだなと呆然とする。
魔王が杖で防ぐ間に、ドラゴンの口からは青と赤の炎が容赦なく魔王を襲う。
ただの炎ではない。光魔法を伴った絶対的な力。
上級魔物でも一瞬で姿形を消す。
魔王からは禍々しい悲鳴に似た声。
そして黒いカーテンがドラゴンの攻撃を飲み込んだ。
「えぇっ、父さんの攻撃でも倒せないの!?」
再び魔王の姿が見えると、膝をついて苦しんでいるようだ。俺はあと一息だと直感した。
「魔王、強いわぁ〜。ねえ、たぬちゃん、ソニアちゃんも呼びましょうよ」と、気の抜けるようなのんびりとした母の声。
ソニア──俺の妹が役に立つかは全くわからないが、家族の団らんだ。
(ソニアも呼ぶか)
「母さんに格好良いところを見せたかった」
体育座りでしょげ始める父を優しく励ます母を横目に杖を突き出し詠唱を始める。
『花の眠りに揺れる者、
露の階を渡る者。
小さき灯を辿り、
我が輪へ遊びに来たれ』
桃色の鳥たちが飛び始め、ぽんぽんと可愛らしく星が弾ける。
中から出てきたのは、短いスカートにチュチュいっぱい。
腕と足には白い手袋とニーハイブーツ。
「えっ? 魔法少女キラピカ!?」
世界観を壊すような桃色のツインテールの可愛らしい少女。
父と母は嬉しそうに妹を迎え入れている。
可愛らしい見た目とは裏腹に強い魔法でダンジョンから魔山、魔海まで国中で活躍する彼女。
「ソニアちゃんがキラピカだなんて、有名よねぇ〜」とマイペースな母。
「ソニア! ソニア!」とソニアコールの父。
「お兄ちゃん、知らなさすぎ〜」と憎まれ口の妹。でも憎めない無邪気な笑顔。
「でも誰もできなかった召喚使えるなんて、やるじゃん!」
「そうか? そうなのか?」
妹でも褒められると嬉しくなっちゃう単純な俺。
『おい、お前たち、楽しそうだな』
幾重にも重なるような重低音の魔王の声。
「もう、久しぶりの再会、邪魔しないでよ!」
頬をぷくっと膨らませたソニアはピンクの魔法ステッキを魔王に向ける。
「魔法少女キラピカ、いっきまーす!」
手を前に出し、くるりと回ってポーズ。
そしてソニアの詠唱が始まった。
『抗う権利は消失した。
未来は閉じ、可能性は死んだ。
跪け。
そして迎えろ、終わりを』
どちらが魔王か分からないような破滅の詠唱が可愛らしいソニアの口から出てくる。
なぜか自然と背筋の伸びる俺⋯⋯。
(あれ、もうちょっと可愛い詠唱じゃなかったっけ?)
空には虹色の雲で満たされると、カラフルな魔法弾が振り注ぐ。
炎、水、緑、土、雷、光──ありとあらゆる属性の玉が楽しそうに落ちてくるが、絶対的な力の終焉図。玉が岩や地面に当たる度に砂を巻き上げていく。
魔王も苦しいのか、くぐもった声が時折聞こえる。
煙にまみれて魔王の姿は見えなくなった。
風で煙が流れると一メートルも満たない幼女の姿があった。
目には大粒の涙を溜めて口を尖らせている。
「弱いものいじめじゃ〜!」
目の前にいたのはたしかに魔王⋯⋯だった。
俺やソニア、両親は顔を見合わせた。
* * *
王都へは大規模な凱旋となった。
王妃を始め王もいなくなったとなれば、皆が納得しない。
それもあって、魔王討伐からの凱旋ということになった。もちろん表向きは、だ。
先頭付近には王と王妃がいる。人気の高い二人の姿に、民衆からは大きな歓声が上がる。
なぜか今回、俺の活躍が大きかったと触れ回った凱旋になった。
俺は溢れかえった人々に手を挙げて応える。
すると誰もが笑顔になり温かな歓声が上がった。
俺が夢を見ていた光景。内容は大きく変わってしまったが、これも家族のおかげだろう。
街頭からはみ出しそうな人の多さだったが、熱量のある瞳に記憶が蘇る。
俺を捨てた勇者たち最強パーティー。
剣士、戦士とヒーラー、もちろん粗挽きウインナーことムキムキ魔導師の姿がある。
俺は視線を落として自分の格好を見る。
ソース顔に大きな体躯、それから筋肉……たぶん、粗挽きウインナーを超えていると思う。
召喚の時に邪魔だったのでローブを切ったので、今はマントのような装い。
懐かしいメンバーたちからは見たこともない熱のこもった視線。
「大魔導師さま、ぜひ俺たちのパーティーへ来てください」
俺が返事をする前に「たぬ」と父から呼ばれた。
「たぬってまさか……違うよな!?
だってあんなに影が薄かったのに……」
狼狽える勇者。
口端からそっと舌を出し、下唇に這わせた。
「せっかく“化けの皮”脱いだところでしてな……またかぶるのも面倒で」
目を白黒させる俺の元最強パーティーのメンバーたち。
「「「勇者様!」」」
人混みの中から嬉しそうに手を振り、声をかける少年少女たち。
「勇者じゃないけど……まあ、いいか」
勇者に憧れて夢見た光景が、現実になるのを感じる。
俺は満面の笑みで手を振り返した。
(でもまあ──悪くない人生だ)
(おしまい)
【エピローグ】
俺はこたつでみかんを剥いていた。
「たぬ〜みかんが欲しいのじゃ〜」
目の前には、口を開けてみかんを待つ黒髪の幼女。
いや、力を失った魔王。
俺たちはあの時、魔王を瀕死寸前まで追い詰めた。
しかし力を少しだけ残した魔王は姿を維持できずに変わってしまった。
昔の姿のようだ。
見た目の可愛さもあり、俺たちは連れて行くことにした。
俺たちがいるのは王城に設けられた和室。
今は大きな目をしてこちらを見る幼女だが、大きくなれば見た目も変わるだろう。
でも彼女が魔王だったことは、俺たちたぬき一族しか知らない。
王城では魔王城へ行く途中に連れてきたと説明をした。
とにかく魔王はみかんを気に入ったみたいで、剥いたみかんをねだってくる。
剥き方は教えたが、剥く気はないようだ。
俺はこんな毎日もいいなと感じたが、まだそれは伝えられないのだった。
お読みいただきありがとうございました!
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