ジェマイマ・キャンベル伯爵令嬢
女は、ジェマイマ・キャンベルと言い、キャンベル伯爵家の長女である。
ジェマイマは現在25歳独身、貴族令嬢としては当然行き遅れ、普通の家ならお荷物と言われ蔑まされるのであろうとは思う。この思考から彼女が生家で蔑まされていないことは理解できよう。
さて、グレイベージュの髪に、鳶色の瞳、ピンとこないぼんやりした色合いの令嬢で、背は少しばかり高めではあるが中肉中背の範疇であり、特別注目されるようなスタイルの持ち主では決してない。
顔は、卵形の輪郭の中に極々普通の大きさの目と口がついているが、少しばかり鼻が大きいのが悩みの種である。
良く言えば、鼻筋が通っていると言えなくもないが、目と口の大きさに比べて些か主張が激しいと、鏡を見る度に思いため息を溢し、
(鼻をもう少し小さくするか、目と口をもう少し大きくするか、そうしないとバランスが悪いのよね)
そんなことを思うのだった。
キャンベル伯爵家自体もピンとこない家柄で、立ち位置は常に中立派であり、伯爵家の中の序列も真ん中、10軒伯爵家があったなら、5位か6位か7位である。きっちりとしたヒエラルキーがあるわけでないから、人によっては下位伯爵家と捉える家もあるだろうが、まあ真ん中位かと思う家が多いだろうな、そんな立ち位置の家柄である。
領地も別に鉱山があって金銀鉄鉱石が涌き出て国内有数の資産家!なんて訳もなく、普通に小麦栽培の農業を中心とした牧歌的な土地柄で、だからと言って王国の食物庫と呼ばれる大穀倉地帯!と言う程広くも収穫高もあるはずもなく、然りとて、喉から手が出るほど希少な特産品がある!訳も無い。
ではでは、王国にこの人有り!と言う切れ者伯爵が父、と言う訳でも、社交界の薔薇!と呼ばれる貴婦人が母、と言う訳でも無く、まあ、至って穏和で普通な両親である。
上に、3つ離れた兄がいるが、兄も兄とて同じようなもので、貴族学園を中くらいの成績で卒業し、当たり前のように領地へと戻り、父と一緒に領地経営を無難に執り行っている、人畜無害を絵に描いたような極めて普通な兄である。
貴族の子女が15才からの3年間通う、王立貴族学院。
ジェマイマが卒業したのはもう7年も前になるのか。
学院は、成績順にクラスが決められるのだが、ジェマイマは兄より少しばかり勉強は出来て、3年間常にAクラスであった。
それは別にジェマイマの知能が非凡と言う訳では無く、ただ兄が3つ上に居たので、兄が学年が上がる度に前年使っていた教科書を譲り受け先に学んでいた為で、入学前に領地で兄の教科書を使って授業内容を予習していたからに他ならない。
進学前に家庭教師によって厳しい教育を施されている高位貴族の子女や、況してや王族とは勿論歴然とした差があるのは致し方ない、そう思ってクラス内の順位は気にもせず、AクラスはAクラスと自己評価は高めだ。
まあ、20人のクラスメイト中、最下位では無かったが、良くて15位といった所。
それでも3年間Aクラスに在籍出来たのだから、優秀だ、キャンベル伯爵家始まって以来の才媛だと、両親や親戚縁者は褒め称えてくれたので、ジェマイマ的には大満足であった。
ジェマイマの兄の時代は、第1王子とその婚約者の公爵令嬢、その側近候補の高位貴族が闊歩する中、婚約者のいない下位貴族令嬢が絡んだ、観劇さながらのイザコザの大立回りが繰り広げていたので、その高貴な方々の騒動を遠巻きに見ているその他大勢の生徒たちは、巻き込まれないよう、息を詰めて成り行きを見守る、無意味な気苦労があったと言う。
そのイザコザが元で、第1王子と公爵令嬢の婚約破棄!とはならず、程無くして、問題は適切に対処されたそうだ。
さて、ジェマイマの学年には、妹王女とその婚約者の侯爵令息、王女の従兄弟で準王族であるグレイ公爵令息も在籍しており、王女のご学友たちは、第1王子の側近候補の婚約者たちが大半であり、第1王子の婚約者の取り巻きの兄弟姉妹も在籍していたので、Aクラスの大半は、みな幼少期からの幼馴染みたちであった。
そんな仲良しこよしなAクラスに、成績優秀者として、たまたま入れられたのがジェマイマ含む5名であった。




