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連載版  疑い深い伯爵令嬢  作者: 有栖 多于佳
アマリア編

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17/24

ブライアン・ボンソビー伯爵令息

ブライアン・ボンソビーは、ボンソビー伯爵家の嫡男だ。

しかし、彼の上には10歳上の姉と8歳上の兄がいた。


兄は優秀で、早くから家を継ぐことが決められており、厳しい教育を受けていた。

一方、ブライアンは年を取ってからの末子であったので、両親も随分と甘やかしていた。


この王国は東西南北の領地を王家から分かれた侯爵家が辺境家として守護に当たっている。

実際は、侯爵家は王都に居を構え、寄り子の辺境伯が治めているのだが。


王国のほぼ中央に位置する王都があり、その回りは2つの公爵家と王領地に囲まれている。

現国王の弟グレイ公爵家は王領地の一部を拝領しており、次世代の当主は侯爵になることが決められていた。


ブライアンのボンソビー家は西の辺境侯爵家からの分家で、領地は持たない宮廷貴族として王族の警護にあたる近衛騎士団を代々取りまとめていた。


どれほどブライアンが甘やかされても所詮伯爵家の次男坊であるから、自身で騎士爵を得なければ貴族籍を失ってしまうため、騎士になるべく武の鍛練だけは厳しい教育を与えられていた。


甘ったれの末子が、武の鍛練に明け暮れ、12になる頃には立派な脳筋に育ってしまった。


ボンソビー家の悪夢はここれからで、嫡男としてキチンと教育されていた長男が、近衛騎士として職務に当たっている時、凶行に走った無頼漢から国王を庇って大ケガを負い、騎士としての職務が行えなくなった。



一命を取り留め、今後騎士としての働きは出来ないからと近衛騎士団を退団したが、彼は優秀な人物であるからと、寄り家の西辺境侯爵家からの紹介で西辺境伯爵家へ、主に内務を行う当主として婿入りすることになった。


これにより、ボンソビー家を継ぐのは、末子の脳筋ブライアンとなってしまったのである。



武の鍛練だけは厳しく教育されていたブライアン、とにかく勉強の遅れを取り戻せとばかりに、貴族学院に入学するまで目一杯知識を詰め込まれた。


なんせ勉強と鍛練以外に使う時間が無い、礼儀作法やマナー教育はこの際目を瞑って、学園に入ってから学院の教師にしっかりと教育をしてもらおうと言うことになった。


だが、卒業すれば近衛になり騎士修行を経て騎士団を、ボンソビー家を継がなければならない。


にしては、このままでは余りにも、あまりにも粗野で脳筋で、社交の場に出すのも憚られると、嫁いだ姉と今まで甘やかしていた母親でさえ言い出し、どうにかお目付け役として、他家からも侮られない婚約者、嫁を、と求めた結果、王国一の貴族マナーの大家マクドネル家の娘と縁を結ぶことになったのである。



自分を守ったことが原因で優秀な長男が家を継ぐことが出来なくなり、急ごしらえでブライアンを仕上げなければならないと騎士団長であるボンソビー伯爵から泣き言を聞いた国王は、騎士団長の願いを聞いて、マクドネル家門の長となるべく育てられていたアマリアに王命を出して、ブライアンの婚約者と据えたのであった。


この結果、家を継ぐため厳しい教育を受けていたアマリアは次期マクドネル伯爵の座を妹に譲り、婚約者という名ばかりの、貴族として全てに劣るブライアンの世話係を13歳になったばかりで押し付けられたのであった。



決してマクドネル家に得の無い政略結婚を押し付けられたアマリアである。


しかも次期当主の座も失って、自分の生まれてから歩んだ時間は何だったのかと途方に暮れ滲む夕日を静かに見つめながらも、王命ならば仕方ない、他家に侮られないよう婚約者のブライアンを卒業までに躾ましょうと思い込むことで自らに暗示をかけ、婚約を受け入れたのにも関わらず、ブライアンは初めからアマリアがブライアンを一方的に好いて親に頼み込んで婚約をごり押ししたと思い込んでいた。



お互い歩み寄るためのお茶会で、マナーの間違いを指摘すれば、

「お前、グチグチ煩いよ。俺のことが好きなら、このままの俺を受け入れろ」

そう、尊大に見下しては、口にしてくるその姿にアマリアは目眩を覚えるのだった。


「違いますわ、ブライアン様。我々の婚約は王命。わ・た・く・し・が、一目惚れなどして結ばれた訳ではございません。貴方様の貴族としての立ち振舞いとボンソビー家の社交を担うために、国王陛下がお決めになったのでございます」


何度そう訴えても、

「その言い訳は聞き飽きた。もっと俺に歩み寄らないと、お前の事を俺の妻として認めんぞ、もっと可愛げを持て」

そんなことを言っては、不埒な手でアマリアの頬や手や肩を撫でてくるので、ゾワワワワーと不快で鳥肌が立ってしまうことも毎度の事であった。


その度、マクドネル家からボンソビー家に対して抗議文を送り、ブライアンの両親も窘めるのだが、甘やかされてきた時間が長かったからか、三つ子の魂百までか、ブライアンの考えが変わることは無かった。


だが、アマリアは薄い茶の髪もヘーゼルの瞳も美しい深窓の令嬢そのもので、ブライアンは自分に惚れている婚約者を早く自分の物にしたかった。


と言うのは、近衛とは言え、ブライアンは騎士爵という下級貴族になるのだから余りお高く止まっていると嫌われたら困るなどと、父の騎士団長が変に気を回していたので、幼き時に武を教える騎士たちは騎士団でも下位の者たちにしていた。

彼らは平民から腕っぷしで騎士になった者たちで、腕に覚えはあれど、マナーなどは気にせず有り体に言えばガサツで、男女についても明け透けな話をどこそこでしていた。


それを幼い頃から聞いていたブライアン、『嫌よ嫌よも好きの内~』とか『ガツンと言って置かなきゃ女は付け上がる』とか『ケンカの後のスキンシップで俺に夢中』なんて話を心底信じていたのである。


ボンソビー家の跡継ぎに決まってからも、家庭教師たちではなく、相変わらず昔馴染みの騎士たちと剣の稽古の後に馬鹿話をしていて、婚約者のアマリアもことも話すと、


『あ~ツンツンな令嬢がデレデレに落ちてくるのってくるわー』『やっぱり落としてかないと、心身ともにw』とか言う、アマリアが聞いたら白目剥いて気絶しそうな話を真に受けての、俺様発言&ボディータッチだったのだ。


親からの叱責も何のその、ブライアンの世界に男女の適切な距離感や貴族的な付き合いなどは存在しないのである。


そこに現れた、先輩騎士たちの言うそのままの女、エマ。

ボディータッチに甘えた態度、ブライアンをいつでも肯定してくれる『うんうん、わかるよ、さすがブライアン』という甘い声。


いくら美しき深窓の令嬢とは言え、少しでも触れば親から親へと話が伝わり叱責されてしまう婚約者より、一々自分の行動を指摘し訂正してくる煩い女より、触れて甘えられて誉めてくれるエマを真実の愛と認識してもしょうがないだろう、いや、焼きもちを焼くくらいなら、少しは態度を改めればお前も愛さない訳ではない、寧ろ『嫌わないでブライアン様、貴方の好きにして』なんて言ってくるなら、まあ聞いてやっても構わないが。


どうせ、王命による婚約だ破棄など出来ないのだから、エマは恋人でアマリアは妻、貴族なのだから愛人を持っても当然だしな、アマリアも早く自分の気持ちに素直になれば良いのに。


そんな、尊大な妄想を繰り広げながらブライアンはエマの沼にズブズブと沈んでいったのだった。

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