ジェマイマの婚約
ジェマイマが深い思考の波を漂っている中、ヘンリーが
「もし、僕、いや私の申し入れを拒んでも、これからも次々と求婚者が君の前に列を成すだろう。
その内第3王子との婚姻の王命もあるやもしれないんだ。
ジェマイマ、私は君がしたいことを咎めることは無い、むしろ率先して応援する。君の力になると誓うから、どうか、どうか僕を、ぼくを選んで、お願い」
遂にうるうると目を潤ませて、本気の泣きの懇願を始めた。
その姿はたいそう悲壮感漂うもので、またまた舞台俳優のようにキラキラと輝いて見えた、が、そんなことより、王命などと聞き捨てられないワードが飛び出してきた。
「王命、え?しがないキャンベル家に、年増の行き遅れに10歳も年下の王子の婚約者なんて王命まで出して、なんの得があるので?本当に~」
ジェマイマが、今度はハッキリと目を見開いて聞き返した。
「中立のキャンベル家が動いたこの時代、王家の落ちた威信を取り戻したいとキャンベル家の至宝と呼ばれている君を王族に迎えるつもりがあるそうだ。
だが、第3王子妃とはいえ王族だと、商会の運営は難しい。生家のキャンベル領のアンテナショップは不味いだろうな、王族が一貴族だけを依怙贔屓する訳に行かないから。
その点、ボクは侯爵になるから好きなだけ、君の商会運営に注力したらいいよ」
ヘンリーが今度は自分のお得感をアピールし始めた。
ジェマイマを得る為、ヘンリーのなりふり構わぬ、波状攻撃である。
「キャンベル家の至宝、随分大袈裟な二つ名だけれど、それはまあ置いておいて。それ、本当のお話ですの?」
ジェマイマが訝しげに目を細めてヘンリーを見た。
「情報通な我が姉からの話だ、大分確証が高い」
「王国初の女宰相たるメアリー様のお話ならば、まあそう、はあ~」
ジェマイマは、はあ~と大きなため息を吐いて、それから姿勢を正して
「ヘンリー様、では、このお話お請け致します。先程の商会運営の件なども含めた書面を作成して、両親を交えて再度話し合いをお願い致しますわ。よろしくお願い致します」
そう答えたのだった。
「え、本当に?いいの?僕、いや私こそ末長くよろしくお願いします。ありがとう、ジェマイマ、ちゃんと、すぐに書面にするから。今から書記官に言って最短で書類を作成して、すぐに君の領地へと伺わせてもらうから、ありがとう!ジェマイマ愛している、大切にする」
ヘンリーは、あまりに呆気無く了承を得られたことに驚いたが、このチャンスを逃すものかと気を引き締めて、婚約締結に向けて一気に畳み掛けた。
そして、ジェマイマが公爵家のティーサロンへと誘われお茶を2杯頂いている間に、出来た書類を携えて直ぐ様やって来た。
その時には、既に早馬で先触れを出した後で、そのままジェマイマを公爵家の馬車に乗せて領地へと一緒に下ったのだった。
その道すがら、どれ程自分がジェマイマに憧れていたかを熱く語り聞かせたヘンリーだったが、ジェマイマはその熱量の1%ほどしか受け取らなかった。
それでも、最短の婚約期間を経て婚姻し、直ぐに後継の男児、年子の女児を得たのだから、ヘンリーは泣いた甲斐があったものだ、結果オーライである。




