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第3話 ネットで話題!? 私、ただの女子高生なんですけど!!

 総裁選が始まって数日。テレビをつければお父さん、スマホを開けばお父さん、登校中の電光掲示板にもお父さん。久遠成臣は、もはや公共物。でも私の世界は、制服と教室と詩音でできてる。……はずだった。


「玲花〜〜! 見た!? ヤバいよこれ!!」

 朝の教室。詩音がスマホ片手に猛スピードで突進してくる。その勢い、まるで緊急地震速報。


「“久遠外相の娘が美人すぎると話題”って、またトレンド入りしてる!」

「……はぁ」

 スマホをのぞき込むと、画面の上にデカデカと載る文字。

 『久遠成臣氏、娘が超美人? SNSで流出した後ろ姿が話題に!』

 いやいや、流出って言葉やめて! 犯罪臭するから!


 しかも写真が一枚どころじゃない。登下校中、校門前、去年の文化祭の写真まで。しかも勝手に「久遠玲花(文久学院高2年)」ってフルネーム+α書かれてるし。情報精度が怖い。そしてなぜか、一緒に写っている人の顔にはボカシ。そこは気を使えてなぜ私のプライバシーには無配慮?


「ちょ、これ……誰が撮ってんの!?」

「わかんないけど、コメント欄やばいよ。『お嬢様感すごい』『芸能界デビューある?』『令嬢界の新星』って!」

「言っておくが、だいぶ前から大臣令嬢だ!」

 教室のあちこちでヒソヒソ声。「これ見た?」「うちの制服じゃん!」「玲花ちゃんだよね!」

 そして出た、森下。うるさい代表。

「玲花様〜、全国デビューおめでとうございまーす!」

 わざわざ跪きながら言う。これを慇懃無礼と言うんだな。

「様とか付けるな! 誰も喜んでない!」

 笑いと視線と通知音が入り混じって、心のキャパが崩壊寸前。現実がネットに追いつかれていく。そんな感覚だった。



 放課後。警視庁も忙しいらしい。毎日私の警護をしていられないようで、今日はSPがつかない“自由の日”だった。この機を逃すわけにいかない。カフェリベンジしようと詩音と約束して、結城さんに全力でお願いした。

 「せめて女子高生らしい午後を一日だけください」って。最終的に「結城さんが数メートル後ろを歩く」条件付きで許可。うん、護衛というより保護者。


 駅前の通りを歩いていると、なんか視線を感じる。というか、スマホのレンズを感じる。

「ねえ詩音、いま撮られた気がする」

「気のせいだって〜。景色撮ってるだけでしょ? ほら、雲きれい!」 

「いや、わりとどんより灰色の雲だし! 絶対“久遠玲花が歩いてる景色”の方でしょ!? ていうか、結城さんが殺気出しすぎで余計目立つのでは⁉︎」

 振り返ると、結城さんが静かに睨みをきかせている。その迫力、カフェの甘い匂い全部消すレベル。しかしここまで本人的にはあくまでも黒子に徹しようとしてきたのをやめ、ついに私たちの話に割って入った。

「玲花様。やはり本日はお帰りいただいたほうが」

 出た、執事ボイス。

「えぇ〜……やっと外出できたのに!?」

「田中様、申し訳ございません。お嬢様の安全のため」

「いえ……お気になさらず……玲花の安全が第一ですもんね……」

 詩音の笑顔が少し困ってた。私のせいで、いつもの放課後がズレてく。それでも「また行こうね」と言ってくれた詩音が、本当に優しかった。



 家に帰ると、門の外にマスコミと思しき人影がちらほら。門の内側には黒塗りの車が数台ズラリ。ここはもはや国家機関なのか。

 リビングのテレビでは、またお父さん。

 『久遠成臣候補、女性層からの支持上昇中。娘の存在も話題に──』

 ……画面の右下に出てるの、完全に私の写真じゃん。

「これ、許可取ってるのかな……」

 ぼそっと呟くと、結城さんが「報道の自由、というやつですね」と答えた。

「自由って、ほんと便利な言葉だね」

 報道も自由、盗撮も自由、私の自由だけどっか行った。



 夜、スマホを開いたら通知の嵐。知らないアカウントから「会ってみたい」「ファンです」「握手してください」。いや、私、生身の一般人なんですけど!? しかも“#久遠玲花様を守る会”とかいうファンアカウントまで出来てて、フォロワー1万人。いったい私の個人情報を垂れ流すことで、何から守ろうとしているのか⁉︎


 ベッドの上で頭を抱える。ニュースを開けばお父さん、SNSを開けば私。久遠家、親子でトレンド制覇。



 夜更け。詩音からメッセージが届いた。

『玲花、ニュース見たけど、変なコメントなんか気にしないでね。明日は学校来れる?』

『うん、多分。……でも、カメラ向けられたら逃げるかも』

『逃げたら私だけは全力で追いつくから(笑)』

 画面の向こうの詩音の優しさが、今日いちばん現実的だった。

 でもスマホを閉じた瞬間、ふと気づく。ネットの中の“玲花”と、現実の“私”が、もう別人になりかけてる。そして無意識にメッセージを打っていた。

『総裁選が終わるまでの辛抱だよね!』

 ──そう。総裁選が終われば、きっと全てが元に戻るはず。この時は無邪気にそう思っていた。


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