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第9話 整備士養成高校2年4班


 □


 カサドールが乗ったメンテナンス台の移動経路を確保し終えた西田は、先に監視棟へ入っていた。

 監視棟には大量のモニターがあり、熊野はモニターが良く見える場所で座っている。他には3班がいて武器試験場の方に映る緑色のカサドールの動きを見つめていた。

 西田の他にも4班の班員が監視棟へ入って来て、全員集合して席に着いた頃、黄土色のカサドールが動き始めた。


 試運転場は五つのエリアに分かれている。

 歩行、走行、狭路、障害物、回避走行だ。

 試運転場に入った黄土色のカサドールは、最初の歩行エリアに入る。

 歩行、走行エリアの大きさは全て同じで、カサドールよりも大きな壁で囲まれたエリアだ。どちらも対応したペダルの踏み込みだけで移動する。


 曲がり角が2つあって速度調節も求められるエリアだ。

 すべてのローナ11は歩行と走行が一定速度になるように作られている。

 アプリケーションで変化させられるが、養成高校では行わない。


「今何時?」

「吉岡、あと10分くらいだから黙って見てなよ」


 4班の中で最も体が大きい吉岡でも、藤林には敵わない。

 もちろん、西田も敵わないし、尾野も熊野でも無理だ。

 不当に作業を押し付けられたりはされておらず、逆に班長という仕事を藤林にしてもらっているから、誰も強く出られない。


 五戸に対してもそうだから、班長というのはあんまり関係ない。

 4班の女子って、なんだかおっかないんだと西田は考えていた。


「でも、尾野がちゃっちゃと済ませたら、試運転は4分くらいで済むだろ?」

「吉岡、熊野って先公がよ、馬鹿みてぇな武器追加したの忘れたか?」


 その言葉に4班へ背を向けている熊野がピクっと反応した。

 西田は黄土色のカサドールから熊野の方を向くと、両手を合わせて頭を下げているところだった。

 それは藤林の方を向いており、謝罪された当人はフンっと鼻を鳴らすだけだ。


「ああ、そういえばあったな。ハンドライフル」

「そう。あれの所為で武器試験にすげぇ時間が取られるんだよ。だから、お前が腹をすかしたままなのも熊野って先公の所為だ」

「そうか。今度プロテイン買ってもらうか」


 吉岡の口調は軽くなったが、声量を上げて熊野へ聞こえるように言っている。

 謝罪を終えていた熊野は知らぬふりをして、モニターを見つめ続けていた。


「そういや男子。だれか尾野以外で乗れるようになったのかよ?」

「見込みがあるのは吉岡だろう」


 高屋敷がそう言うと、吉岡は手を挙げた。

 藤林が顎で示すと、吉岡は立ち上がって発言をしていく。


「見込みがあると言われれば俺だ。でも俺たちが求める技量は尾野のレベルだろ?」

「そうだ」

「整備士でそこまで上手い奴は、そもそもこの学校にいない。尾野のレベルまで鍛えるより、尾野に上手く乗ってもらう方がいいだろう?」

「西田、なんで尾野はあんなにも上手いんだよ?」

「さあな。でも狭路でスムーズに動けてるんだから、人よりも落ち着いてるんだろうな」


 モニターにはカサドールが大きさギリギリの狭い道を歩いている。

 狭路エリアにカサドールは入っていた。

 歩行、走行エリアとは違って、道がカサドールの大きさギリギリになっている。

 西田は肩幅すれすれの壁を見て、手に力が入った。

 曲がり角を歩行エリアと変わりない速度で曲がっていくカサドール。


「1班はここで転んだってよ」

「そりゃ、転んでもおかしくない」

「なんで尾野はぶつけないだろうな」

「そりゃ慣れだろ西田。転んだら起き上がるのも面倒だけどよ」

「嫌なこと言うなよ班長。想像しちまうだろ、コックピットの音とか振動とか」

「気にするなよ」


 狭路エリアを歩くカサドール。西田は静かに見守っていると、近くに移動してきた沼畑が話しかけた。

 沼畑は西田と同じ趣味を嗜む唯一の班員だ。


「西田、あのプラモを手に入れたって聞いたけど、ホントか?」

「ハタ、あとで見に来いよ。本物だぞ」

「どんな偶然で手に入れたんだよ?」

「偶然な訳ないだろ。情報は入手してたんだ、手に入れる方法が俺にはなかっただけで」


 ハタと呼ぶ沼畑から聞かれたことがうれしい西田は、どうやって手に入れたかを明かしていく。


「民間居住区の地下アーケード街ゲームセンターのイベントで出るって情報があってな。どういうイベントをしてるのか、確認するとシミュレーターを使ったイベントだった」

「へー、どんな?」

「200体のキニケッソ99を制限時間以内に無傷で倒す」

「俺もお前も無理だな」

「そう。そこで尾野の出番なわけだ。少し強引だったが尾野にプラモの入荷確認をさせ、店員にプラモが欲しいならとゲームセンターに誘導してもらう」

「嫌な友人だな」

「俺が無理なら尾野に頼む。それだけだろ」


 西田の声量は段々と大きくなっていくが、沼畑と同じ趣味の話をしているとそれも気付かない。

 得意げな西田の顔を見て、藤林は眉根を寄せる。


「で、ゲームセンターは毎回そんな難しいどころじゃないイベントをしてるのか?」

「限定品のプラモだとそうらしいな。突破できなければオークションに出すらしい」

「ホントにライシンなのか?」

「ああ。日本製の練習機ライメイの次期型ライシン。プロジェクトそのものがなくなったから存在しているのは、プラモだけ。ああぁぁ、それが俺の部屋にあるなんて」

「おい、オタクども。さっきの話は尾野にしといてやるから、しっかり見とけよ」


 同じ趣味で、仲間のいない趣味を嗜む者同士で会話がヒートアップしていたのを西田は気付いていなかった。

 藤林からのありがたくない提案に西田は口が半開きのまま固まる。


「班長。冗談はやめてくれ」

「嫌なら押し付けた役目がどんなものか、しっかり見とけよ」

「了解」


 静かになった監視棟の中、モニターには狭路エリアを抜けて、障害物エリアに入った4班のカサドール。

 坂道、カサドールと同じ高さの壁、足場の悪い道。

 試運転場の中で最も覚えることが多く、障害物の越え方が決まっている。

 歩行で坂道を下る、走行で坂道を上がる、壁はジャンプで越えてから動かず着地する。

 カサドールは問題なく既定の越え方をしていく。


「班長、今回の武器試験で使うプラズマ推進ハンドライフルですが、調べるほどよく分からない武器です。どうしてあれがコンペを突破したか見当がつきません」

「玉川、利権ってやつだよ」


 4班でクソ真面目と藤林から呼ばれる玉川は、頼まれた武器について意見を述べる。

 藤林は玉川の意見に同意しているようで、疲れたような顔で話し始めた。


「作動確認したから分かると思うけど、あの武器は軍で使うようなものじゃない。制式機体のライドウ五式でも電力は無限にあるわけじゃねぇ。そもそも継続戦闘できるようにライメイと違って、エンジン積んでんだからよ」


 日本国防衛軍において採用されているローナ11はライドウ五式と呼ばれるものだ。

 ライドウ五式はカサドールのようにジェネレーターとバッテリーだけではなく、ジェネレーター、ガスタービンエンジン、バッテリーで動く。

 ローナ11と呼ばれるものの中では最も継続戦闘が可能である。

 そんなライドウ五式以上の性能を持つのは、テレミナ88と呼ばれる機体たちだけだ。


「聞けば聞くほど変な武器だよな」

「でも、威力は馬鹿みたいに強い。その威力のためにカサドールで使うなら、出力は落とすし、充電時間が必要だし、ホント、学生の気も考えずに受ける先生がいるとはよぉッ!」


 藤林の声に再度反応した熊野は黙ってモニターを見つめていた。

 その背中を同情したような目で見た西田は、班員たちの視線をモニターに向けさせる。


「スラローム来たぞ」


 カサドールが試運転場の最終エリア、回避走行エリアに入った。

 コンクリート製の柱が真っすぐ10本並んでおり、緊急回避を連続して使い移動する回避走行という動きで柱の間を左右に移動しながら抜けていくエリアだ。

 西田が声を掛けると、シンとしてモニターを見つめる班員たち。


 回避走行という動きがパイロットに一番負担がかかる動きだから、自然と静かになる。

 固唾をのんで見守っている班長たちだが、西田はそこまで気にするほどでもないと思っていた。

 尾野はシミュレーターで回避走行するし、回避走行よりも負担がかかりやすいスラスター移動をしているから西田は大丈夫だと知っているからだ。


 黄土色のカサドールが回避走行のスタート合図のためにジャンプした。

 着地すると同時に右前方へ緊急回避をして、最初の柱の隣に移動。今度は左前方へ緊急回避をして、柱の間を抜けていく。

 それを連続して行い、カサドールは危なげなく回避走行を終えた。

 武器試験場に移動していく4班のカサドール。

 3班は試運転を終えて帰っており、監視棟にいるのは四班と熊野だけだ。


「さてさて、無駄武器の無駄撃ちが来たよ」


 藤林が楽し気に声を上げると、熊野は笑いながら無線機で尾野へ話しかける。

 モニター上のカサドールが武器試験場の射撃位置に着いた。

 射撃位置の先にある的はカサドール2体分ある大きなコンクリート壁だ。

 中心には赤い点、そこから黒い円が広がっており、的としての機能は果たしている。大量の弾痕がそれを見えづらくさせているが。

 黄土色のカサドールが左手武器を構えて、動きを止めた。


「ん? ああ、充電か」

「カサドールじゃ充電も遅い。この武器のために予備バッテリー持って行っても良かったんじゃないか?」

「ハハハハ、ホントだな。班長、充電完了までどのくらいかかるんだ?」

「5分くらいか?」

「マジ? それなら今度のパーツはジェネレーターの更新にしようって尾野に提案してくれ」

「尾野は嫌って言うよ」

「そうだよな」


 4班は待つばかりとなった時、学校中、いや町中でサイレンが鳴った。

 このサイレンはバリアントの襲撃が確認された付近で鳴る。

 全員がスマホを確認している中、熊野は無線機で尾野へ指示を出す。


「4班点呼ッ!」

「熊野、尾野は⁉」

「問題ない。4班整列、整備場へ行くぞ!」


 4班はモニターに映るカサドールを心配そうに見るも、充電中のため武器を構えたまま微動だにしない。

 熊野を含めた10人は急いで、整備場へ向かっていった。

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