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第7話 試運転前


 2069年3月4日、月曜日。

 整備士養成高校2年生の教室で4班だけが授業を受けていた。

 2時限目授業が終われば、4班も他の班と同じように試運転前の点検をする。

 2時限目は国語の授業で、もうすぐ終わりと言うところでボーッとしていた尾野が授業と関係のないことで当てられた。


「ボーっとしてる尾野くん。今朝のニュースみましたか?」

「はい」

「北海道近辺でアネモネが出現したのを見たと思うけど、その素材は何になるでしょうか?」

「触手が代替ガソリン、骨がローナ11の骨格材料、心臓はジェネレーター、それ以外は絞って油圧用のオイルの一部に使われます」

「そうです。加えて絞った残留物テレミナ88の修復材料としても使われますが、質が低いのであまり使われません」


 ローナ11のもとになったテレミナ88という人型有人巨大兵器がある。

 それは世界が変化すると同時に出現した別世界のものだ。

 ローナ11のように整備を必要とせず、材料を取り込むことで修復をする機械。


 別世界においてはローナ11のようなありふれた兵器だったが、地球においては存在しない金属を用いているため、世界中で取り合いが起きている。

 ただ空路しか存在しない日本においては、持ち出しの難しさから話し合いという取り合いしか行われていない。


「しかし、残留物が低質ジェネレーターの材料になりますから、最近ではそちらの方に使用されているようです」


 特区内の電力供給は民間居住区と繋がっているが、もしものために低質ジェネレーターというカサドールのジェネレーターよりも品質の低いものを非常電源として置いている。

 他ではアシガルという大型重機に該当するローナ11にも使われている。


 先生が話を終えると、チャイムが鳴って2時限目が終わった。

 10人は礼をすると、急いで教室から出て行く。

 寮で着替えて整備場に集まったのは9人で、そこに尾野の姿はない。


「よし、みんなは最終点検だ」

「班長は?」

「無線機取って、尾野にこれ渡してくる」

「了解」

「気を付けて作業しろよ」


 藤林は監視棟という所へ移動して、そこに詰めている熊野から無線機を2つ受け取る。

 ツナギの上から無線機を付けた藤林は寮へ向かっていると、尾野が出てきたところだった。


 パイロット用のブーツを履き、ポケットを手袋に、オレンジ色のパイロットスーツは体に密着するほどではないが、ラインが分かる程度、体に合ったものだ。

 藤林はパイロットスーツ姿の尾野を見て、笑いながらネックサポーターと無線機を渡す。

 彼女の知っている尾野とはひと目でわかる違いがあった。


「なんでメガネしてるんだよ?」

「土曜日、ARグラス買って来たんだ。アラームの設定したら視界遮るからな」

「それなら、過集中な尾野にはぴったりだよ」

「だろ」


 尾野と藤林が一緒に整備場へ向かうと、熊野が藤林を呼んでいた。

 尾野は休憩用のベンチで座りながら、班員たちが点検しているのを見ていると、班長から集合がかかった。


「4班、集合!」


 全員が作業の手を止めて集合すると、藤林はこれからの予定を話していく。


「予定では20分後から試運転の予定だったけど、1班のカサドールが試運転場で転んで油圧オイルが漏れたらしい。1班と2班が掃除してて、4班の試運転は3時限目終わり頃になる予定だってよ」

「ああ、1班って外装重いヤツだよな」

「それだ尾野。外装が重い所為で転んだだけで漏れたらしいよ」

「俺は暇になったのか?」

「そういうことだ。点検する私たちも暇するために、さっさと終わらせるよ」


 尾野以外は返事をして点検に戻っていく。

 ベンチに戻った尾野はメガネを外して、寝転がって点検の様子を眺める。


 左脚部の点検をする藤林、右脚部を点検する五戸朱里ごのえあかり。腰部を点検するのは高屋敷陸斗たかやしきりくと


 胴体部は沼畑理仁ぬまはたりひと沼尾斗吾ぬまおとあ、西田が点検している。

 右腕を古里、左腕を玉川燈馬たまがわとうま、頭部を吉岡岳よしおかがくが点検していた。


 その様子を尾野が眺めていると、1班のカサドールがメンテナンス台に載って帰って来る。


「ありゃ、腕と足は交換か?」

「ん、吉岡。終わったのか?」


 ベンチで寝たまま近づいてきた吉岡へ質問する尾野。

 吉岡は体が大きく後ろから見ると熊野と間違うことがあるため、尾野は顔をまじまじと見る。

 尾野は2人は系統が同じゴリラ顔だと判断を下した。


「ああ、頭部は早いからな」

「そうか。にしてもあれは酷いな」


 尾野が視線を向けた先、重い外装を除けた右腕と右足の内部が露わになっていた。

 人間であれば折れた腕、膝は問題ないが脛と腿が曲がっている足になるだろう。


「交換だな」

「俺たちの班は普通だもんな」

「外装変えて何になる? 重くするなら油圧ポンプを変えるし、ポンプ変えるとラインが変わるし、ピストンロッドも変わるからな。俺はそんな部品を頼む気はない」


 尾野の変わらない考えを聞いた吉岡は、どうにか意見を曲げられないかと言葉を尽くす。


「でも、カサドール以外の機体を整備してみたいだろ、尾野も」

「そりゃそうだけど、4年生で軍に行って整備するからいいんじゃないか?」

「みんな待ちきれないんだよ」

「俺だって楽しみだけど、コックピットを充実させないかぎり、他に取り掛かる気はないからな」

「分かってる」


 吉岡はスマホを手に持ち、笑いながら答えた。

 尾野には見えていなかったが、吉岡のスマホにはパーツ写真が表示されていて、笑い顔は引きつっている。

 目を閉じてベンチで寝始めた尾野。

 しばらくして尾野のスーツに着けていた無線が音を立てる。


『尾野、こちら熊野。点検はどうだ? 送れ』


 2度繰り返される通信。

 その2度目で目を覚ました尾野は、のそりと起き上がって班員たちの様子を見る。


「熊野、こちら尾野。5分もせずに終わる。おくれ」

『尾野、点検を終えたら台を動かしてくれ、その後は待機だ。おくれ』

「熊野、班長に伝える。おくれ」

『了解、おわり』

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