第6話 整備士養成高校2年 西田凪人
『はいはい』
尾野からの返事を聞いた西田はPCを操作して、戦闘シミュレーションモードの設定をする。D種アネモネ400体を設定してシミュレーターに反映させると、PCの画面を見つめた。
戦闘シミュレーションはカサドールが、プラズマ推進ハンドライフルを手放すことから始まる。
「なーんで尾野はパイロットの適性が高いんだろうか?」
画面の中でカサドールが六半刀だけでアネモネを切り倒していく。
スラスターで移動しながら切ったり、その場で回転しながら切ったり、シミュレーターがその度に音を立てて動いている。
「シミュレーターから出てくるデータを見ても、パイロット向きだ」
西田は画面に映るデータの中でも心拍数のデータを見ていた。
データで心拍数が90を超えることはなく、体がローナ11の挙動に慣れ切っていると分かる。
「これで整備士になりたいとか、俺みたいな元パイロット志望にとっては贅沢な才能だけど」
尾野が戦闘シミュレーションをはじめて45分経ち、残り7体。
順調に倒していく尾野だったが、最後の1体でカサドールの挙動が乱れた。
尾野にとっては運悪くアネモネからの一撃を防御することになる。
その時点で西田は大きく息を吐いた。
PC側の表示で、カサドールにダメージ判定が発生したからだ。
最後の1体を倒し終えた尾野は急いでシミュレータから出てきた。
「西田、カサドールの動きがおかしくなったのは?」
「ああ。こっちで見たところスラスターの使用限界ってなってる」
西田は尾野へ画面上のデータを見せる。
戦闘終了時のカサドールの状態が黒背景に灰色の輪郭線で表示されており、腕と腰、背部と脚部にダメージ判定がある。薄い赤色で表示されていたのは腕と腰。背部と脚部のスラスターだけ黄色で表示されていた。
赤色が敵から攻撃された場所、黄色が稼働によって限界を迎えた場所だ。
「カサドールのスラスター交換するか?」
「カサドールで戦闘することないんだから、いいだろ尾野」
「だな。約束通り2週間分デザート譲ってもらうな」
「なに言ってんだ、1週間分だろ」
「よく覚えてたな。でも、プラモを取ってきたから合わせて19日分だ」
「2週間分にならないか、尾野」
「なるぞ、俺がハタにプラモを渡したらな」
「ダメだ」
「それなら19日分頼むぞ」
「わかった」
2人がシミュレーター棟を出る頃には17時なっていた。
寮の風呂は17時から20時までで、尾野は誰よりも早く風呂へ入るため急いで寮へ帰っていく。
西田が見送っていると、スマホに着信があった。
「もしもし、院長」
『凪人、仕送りありがとね』
「うん、尾野は送ってた?」
『晴佳はバイトのついでに持ってきてくれたよ』
「え、尾野は行ってたの?」
『そうだよ。みんなにお菓子持ってきてくれて、すぐ帰ってったけどね』
「連れてってくれたら、よかったのに」
西田は残念そうな声を電話相手に届けると、相手側から嬉しそうな笑い声が返ってきた。
その声に彼は自然と笑顔になっていく。
『凪人を連れてきたら1日かかるから、嫌だったって言ってたね』
「そっか。俺たち長期休暇には帰るからね」
『うん。2人で帰ってきてね』
「わかってるよ。バイバイ」
『うん、寮生活がんばってね』
「うん」
電話が切れると、西田はスマホを操作して尾野へメッセージを送る。
内容はいつの間に帰っていたのかということだった。
シミュレーター棟から出る前に返事があり、内容は2月の初旬に帰っていた、という事だ。それを見た西田は大きく溜息を吐く。
「実際、1日かかるから仕方ないか」