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第5話 またしても西田の頼み


 尾野が簡易シミュレーターから出ると、他のシミュレーターは動いておらず、その場にいた人たちの視線が集中した。

 周囲の人たちは色々な髪色の人がおり、別世界における地球人の血を引いている人たちだった。

 視線を集めた尾野は手を挙げて、さらに注目を集める。


「あのー、プラモを貰っても大丈夫ですか?」


 尾野は30分以内に200体を倒し終えており、伝説のプラモデルを得る権利があった。

 バッグを背負い、退店の準備を済ませた尾野の所へ店員がプラモデルを持ってくる。

 尾野からすると、ただのプラモデルでしかないがゲームセンターでイベントに参加している人たちは手に入れるのが困難な品だ。

 目が血走っている人たちだったが、尾野は気にせず退店した。

 ゲームセンター前でスマホを構えた尾野は、プラモデルと一緒に自撮りし西田へ送る。


「んー、11時なら飯食って帰るか」


 尾野が寮へ帰ったのは13時の事だ。

 駐車場には尾野を待つ西田がいた。

 西田は楽し気に笑顔で待っていたが、その顔はバイクの荷台へ向くにつれて呆然とした顔に変わっていく。


「おの、お前、なに、なにを、荷台にしばり付けてんだ⁉」

「え? これ、プラモだけど」

「うおぉぉい! なにしてんだぁーッ!」

「おおげさな。箱が少しへこむくらいだろうに」

「それが問題なんだよぉッ!」


 駐車したバイクに近づいた西田は、尾野を押しのけて荷台に括りつけられたプラモデルを慎重に取った。

 しかし、西田が大事そうに両手で持った箱を尾野は強引につかんで奪う。

 取り合いをして箱がこれ以上の損傷をすることを嫌い、西田はあっさりと手を放す他になかった。


「おい!」

「西田はプラモが絡むと少し頭がおかしくなるな。交換条件あったこと忘れたか?」

「覚えてる。デザート1週間分譲るのと、バイク整備の手伝いだろ」

「そう。今から整備する、汚れてもいい服で来い」

「わかった。整備終わったらプラモくれよ」

「わかってる」


 そうして尾野たちが寮の駐車場で整備をしていると、女子寮から藤林が2人の所へやって来る。

 バイクの外装を外していた手を止めた尾野は、西田へ指示を出して彼女に近づいた。


「班長、休日だけどどうした?」

「尾野、休日に私と会うのは嫌か?」

「ちげぇよ。でも用がないと会ったことないよな、西田?」

「たしかに。毎回、相談ごとしてる気がする」

「まあ今回も用がある。班のシミュレーターデータを更新したから、スマホにデータ更新して乗ってみてくれよ」

「りょうかーい」

「それで、西田はなんで整備手伝ってるんだよ?」

「プラモデルを貰う交換条件だ」

「尾野はプラモ持ってたのか?」

「ゲーセンのイベントで取ってきた。西田の頼みでプラモの入荷確認してきたら、店員にゲーセンでイベントしてるからって言われてな」

「それ、偶然かよ?」


 藤林の言葉にラチェットレンチを使って外装を外していた西田の手が止まる。

 特徴的な音が止まったことに目を向ける尾野と藤林。

 西田は2人へ引きつった笑いを見せた。


「さあな」

「はいはい、気にすることないって。なあ、尾野?」


 視線から逃れるように西田は軽い口調で話すが、尾野はジッと見つめている。

 藤林はいつも通りの2人の様子を見て、楽しそうに笑うだけだ。


「デザートが今、2週間分に増えたな」

「そりゃねぇだろ尾野。今もこうやって整備手伝ってんだしさ」

「検討する。班長、連絡ありがとな」

「ああ。休み中に1回は乗っときなよ」

「りょうかーい」


 尾野は手を振って藤林を見送ると、すぐにバイクの整備へ戻った。

 2人は外装を外し、洗車、注油をして整備を終えたのは15時。

 片付けを終えた尾野は部屋へ来た西田にプラモデルを渡す。


「デザート2週間な」

「1週間と3日」

「1週間と7日」

「変わってねぇだろ、せめて1週間と5日」

「13日な」

「12日」

「それでいい。今からシミュレーター乗って来るから、言っといてくれ」

「わかった」


 共に部屋を出た2人だったが、男子寮の廊下を進む尾野を見て西田はニヤリと笑みを浮かべていた。


 整備士養成高校は大きく3つ、学校区画、試運転区画、寮区画に分かれている。

 尾野は寮の目の前にあるシミュレーター棟へ入っていく。

 内部には20の部屋があり、尾野は『2年4班』と書かれた扉を開いた。

 部屋の中には大きなシミュレーターとPCがある。


「やっぱり、簡易シミュレーターと違って明らかにデカいな」


 簡易ではないシミュレーターはリアリティを出すために上下前後左右稼働する機構があり、回転運動もできる。

 簡易シミュレーターの時のように無茶な挙動をすれば、たちまち搭乗者の体調は悪くなるだろう。


 尾野は電源を入れて、大きな球形をしたシミュレーターの扉を開け、その内部にある扉を開けた。球の中に球があり、内側の扉を開けた先にコックピットがある。

 2つの扉を閉めると、操作靴、HMD、シートベルトをしてスマホをスロットに嵌めこんだ。

 シミュレーターに保存されていたローナ11のデータを読み込むと、問題の武器であるプラズマ推進ハンドライフルを左手に持っている4班のカサドールが出てくる。


 スマホ側に機体データを保存した尾野は機体を決定した。

 するとシミュレーターの稼働確認が始まる。上下前後左右に動き、次いで回転をした。それが終わるとモード選択に移り、尾野は試運転モードを選択する。

 尾野の視界に白い世界にマス目が表示された試運転場になると、左手の操縦桿を動かした。

 操縦桿の動きに連動して武器を構えたカサドール、その先には大きな的があった。


「一体、どのくらいの威力があるんだろうな?」


 笑んだ尾野は左の操縦桿にある赤いボタンを押した。

 シミュレーター内にドンッという音が響き、白い的には金属杭が刺さっている。


「えげつねぇな」


 尾野が機体情報を確認すると、バッテリーの容量はほとんど空だった。

 彼の想像通り、練習機で試験するような武器ではないようだ。

 その後、試運転場でカサドールを動かしていた尾野だったが、シミュレーター内部のスピーカーが外からの連絡でベルを鳴らした。


『おーい、尾野。聞こえてるか?』

「ん? 西田か?」

『おう、今から戦闘シミュレーションモードでアネモネ400体と戦闘してもらう』

「なに言ってんだ? 緊急停止スイッチ押して出てくぞ」

『そう言うと思って報酬を用意した』

「なんだ?」

『デザート1週間分だ』

「足りんな。1ヶ月分だ」

『それでいいよ。でも、それは成功報酬だ』

「なに言ってんだ?」

『今度イベントがあった時のために無傷で400体倒せるようになってくれ』

「お前の原動力はプラモだけか、西田」

『そうだ。達成できれば1ヶ月分のデザートを譲るから、鍛えられてくれ』

「わかった。その代わり無傷で終わらなくても1週間分はもらうからな」

『うーん、分かった。だから真剣にやってくれ』

「はいはい」


 尾野は昔から一緒にいる西田が、想像以上にプラモへの情熱があることに驚いていた。

 それでも、尾野自身は『デザート譲ってくれるのは確約できたからいいや』という考えている。

 戦闘シミュレーションモードが西田によって選択され、尾野が付けているHMDに視界が戻ってくる。


 視界には変わらない試運転場に大量のアネモネがいた。

 バリアントの中でⅮ種と呼ばれ、その中でも最も弱いのがアネモネと呼ばれる生物だ。

 海底にいるD種の中で最も弱く、しかし最も多い。

 10メートル前後の頭部のない人型生物で、その体からイソギンチャクのような触手が生えている。

 尾野の視界には上下以外は全てアネモネで埋め尽くされていた。


「過去の大規模侵攻はもっと多いって聞くけど、絶望的だな、これは」


 あまりにも多いアネモネを見て、顔の引きつったままの尾野。

 黒い線が走って、15秒のカウントダウンが始まる。

 尾野は左手に持ったままの武器を手放すように操作し、刀だけの状態で戦闘シミュレーションを始めた。


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