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第3話 西田の頼み

 翌日、寮で朝食をとって準備を終えた尾野は、駐車場からバイクを出して民間居住区へ向かう。

 整備士養成高校は特区と呼ばれる場所にある。

 特区には整備士養成高校の他にパイロット養成高校、国防軍の駐屯地、ガソリンスタンドとコンビニしかない。


 だから整備士養成高校の外に出ると、特区の端から端まである程度は見渡すことができる。

 特区はローナ11が動きやすいように必要最低限の建物だけあり、民間居住区との境には壁がある。


 パイロット養成高校の近くで尾野が信号待ちをしていると、ガヤガヤしているのが彼の耳に聞こえてきた。

 尾野が古里から聞いた話では、パイロット養成高校との合同授業でビンタされた人がいたという。

 合同授業は2年生になると始まるため、あと1ヶ月ほどだ。


 尾野はしばらく移動して、ようやく特区と民間居住区の境にある壁へ到着した。

 壁にある門は閉じられており、エンジンを切ったバイクを彼が押しながら近づくと門がゆっくり開いていく。

 門の先には小さな通路があり、その先にも門がある。


 通路を進み、荷物をコンベアに載せ、進んでいく。

 民間居住区側の門に到着すると、門が開いてコンベアの出口から荷物が帰って来る。

 手荷物検査、身分照会とボディスキャンを通路を歩いているうちに尾野は受けていた。

 特区の出入りだけで毎回これをしないとならないため、特区の外へ行きたがる人は少ない。

 尾野と西田はバイトしているから特区の外に出るが、他の生徒が出るのは長期休みの時くらいだ。


 門の外に出て、ようやくバイクに乗った尾野は民間居住区を進んでいく。

 民間居住区に高い建物は少ないが、地下に居住空間が多い。

 地上の方がバリアントという人類敵対生物襲撃の被害に遭いやすいことから、土地の価格が安い。


 海に近い場所は安いとバイト先の社長から尾野は聞いたことがあった。

 今日、尾野が特区に来たのは支給金でARグラスを購入するためだ。

 高校生になると国から支給金が出て、月に2万円。養成高校生の場合は5万円、世帯を持つと10万円が支給されるという制度だ。

 世界中で人口が減った影響からできた制度だが、尾野は日本人口5千万人いれば多いと考えていた。

 過去は1億人を超えたと言われている。


 尾野は特区から少ししか離れていない家電量販店に入り、目的の商品を見つける。

 黒縁メガネにしか見えないが、ARグラスでカメラが付いておらずセンサーで画面固定をする優れものだった。

 すぐに商品を購入して、プラモ入荷確認のため地下アーケード街へ向かう。

 尾野がスマホのメッセージから西田へ写真を送るように連絡すると、すぐに送られてきた。

 それを店主に見せると、入荷は2か月後だと言われる。

 西田はどういう情報を見て入荷時期を今だと推測したのか、尾野は不思議そうに首を傾げる。


「ありがとうございました」

「ローナ11プラモが欲しいなら、向かいのゲームセンターのイベント商品で出てるから見てきなよ」

「分かりました。行ってみます」


 人が多いとは思っていたが、尾野はイベントしていることを知らなかった。

 ゲームセンターに入ると、奥の方で数十人が腕を組んで壁面液晶を見ていた。

 そこにはローナ11のシミュレーター映像が流れており、3つあるうち2つの画面で同じ敵を相手にしていた。


 どういうイベントをしているのか尾野は周囲を見ると、壁にはキニケッソ99を30分以内に200体無傷で倒すことが出来れば、伝説のプラモデルを贈呈と書かれてある。

 プラモの伝説を知らないが、日本では海外産のプラモが高級品で海外では逆なことくらいは尾野も知っている。


 スマホで伝説のプラモデルの箱らしきものを撮って、尾野は西田へと送る。

 キニケッソ99が相手なら尾野も倒せないことはないが、面倒ではあった。

 西田からすぐに返事があり、尾野はそこで違和感を覚える。

 シミュレーターに乗せて取らせるつもりだったのか、と尾野は考えた。


 スマホを見ると、

『プラモの中でも珍しいものだから、できれば取ってくれ』

『バイクの整備を手伝って、1週間デザートを譲るのなら取る』

『もちろん、お手伝いし、デザートをお譲りします』

 と尾野からすると予定調和の様に返事が返ってきた。


 3つ並んであるシミュレーターは簡易シミュレーターと呼ばれるもので、コックピットを再現だけしてある箱だ。養成高校にはコックピットが実機さながらに動くシミュレーターがある。

 尾野が簡易シミュレーターへ向かっていると手で遮られた。

 画面を見ていたうち数人がシミュレーター前に移動を始めており、新しく入って来る人を邪魔したいくらいに伝説のプラモデルがレアものだと尾野は実感する。


「ごめん、今は俺たちが並んでるんだ」

「ここ空いてますけど、並んでるんですか?」

「いや、まあ、相談してて」

「それなら、いいですか?」


 『はい』とは言ってくれなかったが、シミュレーターから退いていく男たち。

 尾野はシミュレーター外の機械にスマホをかざして支払いをすると、簡易シミュレーターの扉が開いた。

 シートへ座って扉を閉めると、操作靴、シートベルトを着け、スマホをスロットに嵌めこみ、HMDを頭に装着する。


 スマホから登録していたデータが読み込まれ、ひとつしかない機体データを尾野は選択した。

 機体は黄土色で胸に『4』と描かれた4班のカサドールだ。

 シミュレーターの外からカサドールが選択されたことで笑い声が尾野の耳に聞こえてきたが、これしか使えないから仕方ない。


 尾野は近接武器しか持たせていないのを、変更して左手に70ミリハンドガン、左肩にも同じハンドガン、右手には刀を装備させた。

 いつもであれば右肩にはエネルギーシールドを装備したが、無傷という条件があるから外したようだ。


 機体設定を終えると、通常であればモード選択画面に移行するのだが、戦闘シミュレーションモードが勝手に選択された。

 HMDを装着した尾野の視界が暗くなり、しばらくして映像が戻ってくると、どこまでも広がる白い世界にマス目が引かれたシミュレーターにおける試運転場だった。


 HMDの視界全方位にキニケッソ99がいて囲まれている。

 キニケッソ99はH種と呼ばれる宇宙から来るバリアントだ。

 その中で最も弱く近接攻撃手段しか持たない。しかし、ローナ11と似たような大きさのため、生身の人間からすると脅威でしかない。


 視界の真ん中に黒い線が走り、そこに『15』と表示されてカウントダウンが始まった。

 尾野は操縦桿を握って感覚を確かめ、4つあるペダルを踏んで稼働を確認していく。

 動くことのない簡易シミュレーターなら無茶な挙動をしても、パイロットには負担がない。


 カウントダウンが終わると同時に、尾野は右端のジャンプペダルを踏み込んだ。

 視界が少し下がると、揺れることなく跳び上がるカサドール。

 実機との違いを感じて、尾野は首を傾げるが体は操作を続ける。


 ジャンプして追いかけてくる近くのキニケッソ99をハンドガンで邪魔しつつ、200体のいない場所まで移動をしていく。

 空中での移動は、操縦桿の腕部固定トリガーを引いてスロットルを回す。

 次いで、左から2番目の走行ペダルを踏みながら、視線で移動方向を決めて滑空していく。


 キニケッソ99がいない場所に着地すると、尾野は右から2番目にある半回転ペダルを踏み込んだ。

 振り向くと、キニケッソ99が大量に並んで走ってきていた。


「無傷なぁ。キニケッソ99なら簡単だろ」

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