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第25話 期限付き上機嫌尾野


「ん? 二ツ森、誰か乗ってんのか?」


 ローナ11のコックピットは2人乗りできるほど広くない。

 テレミナ88のセオリスもそれは同じだ。

 だからこそ、セオリスからの通信だと気付いた尾野は不思議そうに問いかけた。


『違います。この機体の固有人格『セオリス』です』

「なにそれ?」


 尾野のこぼした言葉には固有人格が返答する。


『尾野。私はセオリス。パイロットを選定し、育て、補助する、機体の固有人格です』

「そうか」


 後村は恐らくパイロットになれる基準が人にないと知っていたのだと、尾野は思い出す。


『なりたいと言っても、なれないのがテレミナ88の乗り手だ』

『扱いが難しいんですか?』

『そういう言い方も出来るかな。これ以上は言えないよ』


 言えないような事らしいが、セオリス自体はそれを尾野へ話した。

 着実にキニケッソ99の数を減らしていると、再度通信が届く。


『尾野。あなたはソフィアよりも高速機動における戦闘が上手いようです。どうですか、このセオリスの乗り手となりませんか?』

「二ツ森で手を打ってくれ。未熟な乗り手だろうけどな」

『そうですね。ソフィアは未熟です。頑張って敵を倒してください』

『2人とも黙ってくれます⁉』


 一方的に通信が切られると、セオリスの速度が上がって殲滅速度も上がり始めた。

 尾野もまるで競うように速度を上げていく。

 15分もしない内にキニケッソ99の数は残り5体になった。

 5体はライドウ五式に抱き着いて、攻撃されても自爆できるように待ち構えている。


『尾野、どうしますか?』

「セオリスに聞いてくれ」

『キニケッソ99は機能停止すると自爆します。機能停止しないように手足を切って、離れた場所で自爆させましょう』

「だってさ」

『私はまだセオリスを上手く操作できないので、尾野が手足を切ってください』

「それをセオリスが離れた場所に飛ばして倒すわけか?」

『はい。それで行きましょう』

「了解。行くぞ」


 尾野は声を掛けると突貫した。

 ライドウ五式に抱き着いて、動くこともないキニケッソ99は的だ。

 手足を切るのは難しく、深く切りすぎればライドウ五式にまでダメージが入ってしまう。

 しかし、突貫したライメイは迷うことも躊躇もなく、右手の六半刀を振り下ろした。

 粗悪なキニケッソ99の外装が切られ、ライドウ五式を抱いていた腕が飛ぶ。

 ライメイは振り下ろした刀の刃を下へ向けたまま、キニケッソ99の股下に滑り込ませた。


「行くぞ、二ツ森」

『え?』


 尾野は返事を聞かずに両手の操縦桿を上げながら、スロットルを捻った。

 ライメイが操作通りに腕を上げながら、スラスターが噴射される。

 キニケッソ99が刀で跳ね上がり、スラスター移動による体当たりで上空へ飛んだ。

 セオリスが上空で羽あげられた1体に突っ込むと、離れた場所まで持っていく。

 爆発が起きると、セオリスはライメイの近くまで戻ってきた。


『尾野、説明をしておくべきでしょう』

「なんだ。反応できなかったか?」

『はい。ソフィアは反応できませんでした。ですから、私が動きました』

「助かる。次、行くぞ」


 4回似たようなことを続けた尾野は脅威が去ったことを確認した。

 それは演習場の近くだけで、駐屯地や降下杭付近は終息に向かっているが、戦闘は続いている。

 近づいていた降下杭は今では青点に囲まれており、動きを止めていた。


「どうにかなったな?」

『セオリスがいなければ、あの3機と尾野は危なかったでしょうね』

「だろうけど、それは二ツ森もだろ」

『はい。ソフィアはセオリスの性能を3割程度しか発揮できていません。補助有りで』

『尾野、こちらは2機。そちらは1機、整備場へ持っていきます』

「了解」


 不機嫌そうな声の二ツ森は尾野へ指示すると、通信を切った。

 ライドウ五式を引きずっていくと、整備場へのシャッターが開く。

 開いたのは森田で、無事なことを確認した尾野は大きく息を吐きだした。


「……案外どうにかなったな」


 □


 整備場内のメンテナンス台には胴と腰、頭だけの3機のライドウ五式。

 尾野は森田にメンテナンス台を動かしてもらい、ライメイから降りた。

 降りてストレッチをしている尾野の所へ、森田が近づいていく。


「尾野くん、無事そうですね」

「はい。森田先生」

「このライドウ五式は、パイロットが中に?」

「はい。今から解体しますか?」

「そうしましょうか。それより二ツ森さんは降りないんですか?」


 整備場の入り口でセオリスは立っており、動く気配がない。

 森田が声を掛けると、セオリスからスピーカーで二ツ森の声が聞こえてきた。


『幻導院で周辺の監視をしておきます』

「分かりました。それなら私たちはコックピットを開きましょう」

「はい。後村さん、聞こえてますか?」

『聞こえてるよ』

「ヘルメット、メガネ、アンパはどこにありますか?」


 場所を教えられた2人は、ヘルメットを被り、安全作業用パワードスーツを着けた。

 解体用丸鋸を持った2人がライドウ五式に刃を入れていく。

 2人が2機目の解体を終えた頃、整備場に戻ってきたセオリスから二ツ森が降りる。


「先生、軍が来ます」


 二ツ森がそう言うと、整備場へ繋がるシャッター側から車の排気音が響いてくる。

 道に何台もの軍用車両が止まり、軍人が降りてきた。

 その中に尾野は知った顔を2人見つける。


「よお、学生。また戦闘したのか?」

「ノーコン分隊長竹浪さん」

「やめろ。で、戦闘したのか?」

「はい。こっちの二ツ森も戦闘してます」

「わかった。先生、2人は事情聴取に連れて行きますよ」

「はい」


 車に乗るようにと言われ、2人は荷物を取りに行かされる。

 荷物を取った2人は着替えることも出来ずに、車両に乗せられ、駐屯地までの移動中に事情聴取が始まった。

 兵員輸送車で乗っているのは尾野、二ツ森、竹浪、大下と運転手だ。


「で、あのテレミナ88は誰が動かしたんだ?」


 竹浪は嘘を許さないという目で2人をじっと見つめる。

 二ツ森は「私です」と手を挙げた。


「そうか。となるとソフィア嬢は駐屯地で契約書にサインしてもらわないとならんな」

「契約書ですか?」

「ああ。テレミナ88の乗り手は軍のパイロットになるんだ。その為の契約書だ」

「そう、ですか」

「そうだ。次は戦闘に関してだ」


 尾野と二ツ森は戦闘に関して、竹浪へ話していった。

 話を聞き終えた竹浪は楽しそうに笑っている。

 というのも尾野がライメイに乗っているときに、キニケッソ99の攻撃を受けて戦闘する状況になったという事が竹浪のツボだった。


「学生、お前、ハハハハハハッ!」

「笑いすぎでしょ」

「カサドールの時もそうだったけど、短期間で襲撃受けすぎだろ」

「そうですね」

「まあ、特区内外の敵は全て撃退したし、死亡者はいないから、学生が襲撃に巻き込まれたのも笑い話だ」

「であれば、よかったんですかね?」

「学生からすれば悪いだろうけどな」

「そうですよ」

「で、学生はテレミナ88を動かしたくなかったのか?」

「はい。俺はローナ11が好きなのであって、テレミナ88には興味ないんです」


 尾野のその言葉に、竹浪は分かりやすく首を傾げてみせる。

 後村にも話したように、尾野は説明を始めた。


「テレミナ88は整備士を必要としないから、魅力を感じないんですよ」

「ちょっと分からないけど、そういうもんか?」

「そういうものです」


 その後、尾野は駐屯地に着くと、別の車に乗って帰ることになった。

 パイロット養成高校へ送ってもらった尾野だったが、バスは帰ってきていない。

 帰って来るまで待っていると、スマホに連絡がある。

 送り主は勝賀瀬で内容は、穴だらけのカサドールではなかったという事だった。


「あのカサドールから部品取りしたかったんだけどな」


 呟いた尾野の耳が車の排気音を聞き取った。

 正門からバスが入ってきて、尾野は森田へあいさつをしてから帰っていく。

 挨拶をして帰る間際に尾野は、次のパイロットの授業は整備士養成高校の授業が外せないから無しと森田から言われた。

 合同授業があり、パイロットの授業が再開する時については熊野と相談するという。

 バイクに乗りながら、尾野は満面の笑みを浮かべていた。


「合同授業は4月から、2週間はパイロット授業なーし!」


 しかし、それまでライメイの点検と試運転する必要がある。

 ニヤリと笑った尾野はスロットルを捻り、バイクの速度を上げ、寮へ帰っていった。

 尾野がパイロットとしての技能を次に試されるのは合同授業だ。


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