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第23話 求めていない才能


 乗り場から移動し更衣室で荷物を置くと、ロビーまで戻り外に出た2人。

 片側二車線のトンネルをバスが来た方向とは逆へ進んでいく。

 演習場の広さから、必然的に歩く時間は長くなる。


 2人の足音と分厚い壁を挟んだ演習場から微かに聞こえてくる音だけが響く。

 二ツ森は歩きながら尾野へ声を掛けた。


「整備場では何をしていたんですか?」

「整備見てた。やっぱ学生と整備士じゃ腕が違うな」

「そこまででしたか」

「ああ。あとテレミナ88があったぞ」

「本当ですか?」


 二ツ森は足を止めて振り返る。

 尾野は歩みを止めずに、先へ進みながら答える。


「ああ、実際には見てないけど、布のかかった機体がそうだって」

「写真とは言え、テレミナ88を見たのはすごいですね」

「そうか?」

「そうですよ。パイロットの憧れですから」

「へー。整備する必要のない機械だから、俺はあんまり興味ないな」

「テレミナ88に整備の必要が出れば、興味出るんですか?」

「たぶんな」


 先を進む尾野に追いついた二ツ森は少し先を指差した。

 大きな広場で駐車スペースになっており、近くに扉がある。


「乗降場はそこです」


 二ツ森に続いて尾野が扉から入ると、短い廊下の先に階段があった。

 尾野は階段を6階分ほど上りきり、先にある扉へ向かう。

 扉の先は長い通路が続き、いくつもの場所に仕切られている。

 一番手前の部屋に尾野は連れてこられた。

 そこは天井から2本のロープが垂れ下がり、床の真ん中にある扉へのっている。


「尾野、無線です」

「ああ。それでこれはどうやって乗るんだ?」


 渡された無線を着けながら尾野は聞く。

 すると二ツ森は首を傾げるも、納得するように何度か頷いた。


「整備士志望でしたね」

「それで嫌がらせ受けてたんだぞ」

「そうでした。まずロープを体に巻いて、床の扉を開けて、もう1本のロープで下にいるライメイまで降ります」

「わかった。で、ロープを体に巻くってのは?」


 溜め息をひとつ吐いた二ツ森は、ロープを掴むと尾野の体に結んだ。

 尾野が床にある扉を開けると、下には直立状態のライメイがある。

 もう1本のロープを引っ張り、強度を確認した尾野はスルスルと下りていく。


 頭部に着地し、少しずれて肩部へ。尾野は周囲を確認すると肩にある搭乗ハンドルを回した。

 コックピットに入ると、尾野はロープを外して上を見る。

 すると上にいた二ツ森がロープを回収していく。


「尾野、森田先生から無線が入りますから、それまでは動かさないように」

「わかった」


 手を挙げて返事をしながら扉が閉まったのを確認した尾野は、ハンドルを回してコックピットを閉めた。

 操作靴、シートベルトをした尾野は目を閉じて森田から連絡を待つ。


「今、何時かな?」

『尾野。こちら森田、感あるか。おくれ』


 尾野の耳に森田の声が届く。

 その声は尾野の記憶にある優しい森田ではなく、キビキビとした軍人の森田だった。


「森田。こちら尾野、感よし。こちらの感よいか。おくれ」

『尾野。感よし。ライメイを戦闘可能状態にし練習しろ。おくれ』

「森田。了解。おくれ」

『尾野。指差呼称しろ。おわり』

「りょうかーい」


 通信は終了したが返事をした尾野はふぅと息を吐くと、指差呼称してライメイを起動し始めた。


「ジェネレーター起動。出力よし。駆動用、予備、コックピットバッテリー容量、電圧よし。油圧、油温よし。脱出装置よし。戦術データリンク『幻導院』起動。IFFよし。LACSよし。フォースフィードバック確認よし。HMD動作異常なし。OSチェックプログラム起動、異常なし。システム全て異常なし」


 周囲を確認した尾野は歩行ペダルを踏み込んだ。

 シミュレーターよりも動きの良いことに尾野は驚いていたが、使い込まれた機体だけあって動かしやすい設定になっているようだった。


『尾野。こちら二ツ森、2機のライメイとは離れて練習しろ。おくれ』

「二ツ森。こちら尾野、了解。おくれ」

『通信おわり』


 他に練習している2機から離れた場所へ移動した尾野は、歩行、走行、ジャンプ、半回転とペダル操作から確認していく。

 次は操縦桿でライメイの手を、操作靴で足を動かす。


 操作感覚の確認を終えると、周囲を確認した尾野はジャンプペダルを踏み込んだ。

 着地と同時に、回避走行をした尾野は驚きで動きが止まっていた。

 コックピット内の微振動が抑えられており、共振で頭痛がすることもなく、操作に対して機体の反応が良い。


「ライメイ、やばいな」


 尾野はカサドールも十分完成度が高いと思っていた。

 それはシミュレーターでライメイに乗っても変わらなかったのだが、実機に乗ると尾野の考えは変わったようだ。

 回避走行もカサドールより速く、尾野はスラスターに個別公差があることを思い出す。

 ということは場所ごとにスラスターの設計が違うということだ。


 尾野は、ふと浮かんだ考えからライメイの維持費がとてつもない事になると、より深く考え始めた。

 彼の知る限り開校からカサドールを維持している整備士養成高校。

 そこでライメイを維持できるのか、尾野には分からない。

 スラスター、油圧システム、ジェネレーター、全てにおいてカサドールよりもグレードの高いものを使っている。

 尾野は脳内で代替可能なものを考えて、コストダウンを模索し始めた。


(ジェネレーターは同規格の容量低いのにして、油圧はライメイの重量を動かせる安い奴、スラスターも個別公差無しの……ってなると、外見ライメイの中身が性能の良いカサドールになるな)


 気を取り直して、尾野はスラスター移動で動ける範囲を飛び回る。

 しかし、無線機のノイズに動きを止めた。


『尾野。そこまでする必要はない。練習を終われ。おくれ』

「二ツ森。了解。おくれ」

『おわり』


 ライメイを乗降場へ戻した尾野はロープを伝って戻る。

 尾野が結び方をテキトーにしているのは、二ツ森に気付かれた。

 床の扉を閉めていると、二ツ森の溜め息が尾野の耳に届く。


「どうした?」

「ひとつ文句があります。ロープに関してはいいですけど」

「いいんだ?」

「練習はしてもらいますから、ライメイの練習が問題です」


 ロープの結び方ではなく、ライメイの練習だと言われた尾野は眉間に皺を寄せて心当たりを探りはじめた。

 二ツ森はしばらく尾野からの答えを待つが、彼に心当たりはない。

 尾野は途中から考えているわけではなく、考えているフリをしているだけだった。


「分からん。何が問題だったんだ?」

「回避走行とスラスター移動です」

「えぇッ? 普通だろ」

「何がですか。運動もしていない、そんな状況で身体に強烈なGをかけるのは危険でしょう」

「過去の戦闘機じゃないんだから、失神するほどGはかからないだろ」

「危険ではあると思いますよ」

「そうかもな。でもパイロット学生たちはそのうち襲撃の対処したりするんだろ」

「軍へ入れば、そうなるでしょうね」

「交戦する場所に行くまでに体を慣らす必要があるだろ。だから悠長に慣らす必要はないんじゃないか」

「尾野、パイロットの思考をしてますが?」

「整備士がパイロットを客観視してるだけだ」


 指摘を受けて背を向けた尾野は乗降場から、陣形練習が終わるのを眺めていた。


 15時50分。

 陣形練習をしていたライメイが整備場へ戻っていく。

 10機が戻ると、9班と10班が陣形練習をする順番になった。


 無線では森田が16時に搭乗し、演習場の中央に横隊で並んでおくようにと指示を出す。

 さらに二ツ森は陣形練習で尾野の補助をするようにと連絡をされた。


 16時になると、1班と2班の10人が乗降場の補助をして9班と10班はライメイに乗りこんだ。

 11人目の尾野は誰よりも乗り込むのが遅かった。

 横隊の最後尾に並んだ尾野は幻導院を見て、味方機の位置を確認していく。

 並んだ10機、停止している整備場の10機、演習場の離れた場所にいる2機。

 尾野が周辺地図を広げていると、無線機から森田の声が届いた。


『こちら森田。声が聞こえていたら右手を挙げろ』


 指示に従ってライメイの右手を挙げる11機。


『田口を先頭に二列縦隊』

『こちら二ツ森。尾野は後列最後尾だ。おくれ』

「こちら尾野。了解。おくれ」

『了解。おわり』


 横隊の中心付近にいたライメイを先頭にして、二列縦隊になった11機。

 並び終えてから10秒もしない内に、無線機から指示が飛ぶ。


『こちら森田。班に分かれ方円陣形』

『尾野は背後を向いて待機。おくれ』

「了解。おくれ」

『おわり』


 尾野が待機をしていると、周囲に5機のライメイが集まった。

 全員が背を向け合って、全周警戒の状態になる。

 それから他の陣形も組み終えると、各陣形で歩行することになった。

 方円陣形を組み、無線からの指示に従って移動をしていると、尾野の耳に森田の声が聞こえてくる。


『こちら森田。田口、片足で方向指定しながら歩行しろ』

『了解』


 尾野は視点で移動していたのを、足での歩行指定に変えた。

 そのまま視界から田口がどの機体かを探っていくと、おぼつかないふらふらと蛇行する機体を見つける。

 同じ10班にいたことで、尾野はパイロット志望でも操縦が苦手な人はいると知った。


 陣形からの歩行を何度か終えると、今度は広がった状態から陣形に集合して歩行の練習が始まる。

 11機が演習場に広がっていき、尾野は乗降場から一番遠い場所に移動。

 全員が移動を終えると、尾野の耳に幻導院からサイレンが鳴り響いた。


 急いで周辺地図を確認した尾野は、自機を示す緑点の近くに大量の赤白点があると気が付いた。

 見上げた尾野の視界に、大量のキニケッソ99が映る。

 他にもキニケッソ99以外と比べると大きな円柱が見えた。

 地上から大きさが尾野に分からなかったが、それは間違いなく降下杭だった。


『全員、乗降場に急いで!』


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