第17話 シミュレーターの戦闘
ブツンと通信が切られて、カウントダウンが終わる。
尾野は始まってから、すぐに走行ペダルを踏み込んだ。
走り始めたカサドール。尾野はライドウ五式の右手、セミオートライフルの動きを見つめる。
セミオートライフルがカサドールに向けられたのを確認した尾野は、ジャンプペダルを踏みこんだ。
空中で走行ペダルを踏みながら、視線で方向指定をする尾野。
セミオートライフルから発砲されるが、カサドールには当たらず明後日の方向に飛んでいく。
まだ70ミリハンドガンの射程ではないため、尾野は着地すると回避走行を始めた。
感覚を確かめるように、カサドールを左右に振って回避走行をしていく尾野。
彼我の距離がドンドン近づいていくと、ライドウ五式はミニガン、ミサイルを使い始める。
カサドールは短かった回避走行の距離を伸ばして、大きく振っていく。
するとミニガンのばらまきは少し遅れて、カサドールには全く当たらない。
ライドウ五式が焦れて、ミサイルを発射した。
尾野の乗るシミュレーター内がレーダー照射の警報を鳴らす。
ミニガンの斉射がなくなった尾野は、ハンドガンをライドウ五式に合わせて発砲する。
「LACS誤差修正 右、5。上、8」
誤差修正用に撃った1発の銃弾だったが、尾野の想像よりも過剰にライドウ五式は避けた。
距離100メートルでのゼロインをした尾野は前方を見ながら、左右の操縦桿を捻る。
緊急回避用のスラスターがコンデンサ、駆動用バッテリーからの電源供給を受けてカサドールが地面を滑るように移動していく。
チラッと後方視界を確認した尾野は、半回転ペダルを踏み込んだ。
前方へと滑りながら、半回転してカサドールは後方を振り返った。
そこには尾野が見ていた通りにミサイルが追尾している。
前方にスラスター移動したことにより、垂直降下ではなく後ろ上方からの追尾になったのだ。
左の操縦桿を操作して、4度発砲する尾野。
狙い通り追尾していたミサイルに命中し、爆発を引き起こす。
近距離で起こる爆風をエネルギーシールドで防ぎながら、再度半回転してライドウ五式に近づくカサドール。
ミニガンでカサドールの動きを拒もうとするが、尾野は気にせずエネルギーシールドを展開して突っ込んでいく。
ハンドガンを乱射しながら、移動の勢いのままに刀で足を掬い上げた。
体勢を崩しかけたライドウ五式は回避をして、転倒を防ごうとする。
しかし、尾野は追撃を仕掛けて転倒させると、ライドウ五式の腰にある排気口へハンドガンを発砲していく。
ライドウ五式が起き上がろうと藻掻く度に、尾野は刀を叩きつけるが外部装甲が厚いため、傷がつくだけだ。
しばらく、ハンドガンを撃ち続けていると排気口の装甲に大きく穴が開き、刀を突きこむ。
尾野の視界に黒い線が走り『撃破』と表示される。
シートベルトを外して、体を伸ばした尾野は大きく息を吐いた。
「割と勝てるもんだな、カサドールでも」
言いながらも、ライドウ五式の外部装甲の硬さに尾野は驚いていた。
カサドールであれば楽に貫けるだろう排気口もライドウ五式は硬い。
制式機体というだけあって、防御面は圧倒的だ。
その後、尾野は3機のライドウ五式と戦闘をしたが、どの機体も似通った武器ばかりで特に動きを変えずに対応していく。
しかし、5番目の機体はカスタムされた目立つ機体が出てきた。
これまでの4機はグリーンと茶の迷彩柄だったが、その機体は市街地戦を想定しているデジタル迷彩だ。
さらに差し色で青が入っており、胸部には咆える狼のエンブレムが描かれている。
「すげぇな」
ボソッと言いながら、望遠で武器構成を見ていく。
尾野の視界に黒い線が走り、カウントダウンが始まった。
相手は左手にアサルトライフル、肩にレールガン。右手にはヒートダガー、肩に汎用エネルギーシールド。
今までの相手とは違い、近距離武器の中でも装備変更不可能なヒートダガーを持った相手だ。
ヒートダガーは給電が必要な武器だ。
電気の抵抗で刃を発熱させて、金属系の武器や外装を切りやすくするためのもの。
その為、尾野の相手は対ローナ11用に武器を整えていると分かる。
カウントダウンが終わると、尾野は一気に距離を詰めるため左右の操縦桿を捻った。
スラスターが唸りを上げ、カサドールを推し進める。
ライドウ五式は動きだしたカサドールを見て、アサルトライフルをレールガンに持ち替える。
スラスター移動で地面を滑りながら、尾野はライドウ五式を見ていたが持ち替えて以降、武器を構える様子が見られない。
チャンスとばかりに、尾野は発砲してLACSで誤差修正をした。
しかし、距離が近づき始めるとレールガンをカサドールへ向けて、動きに追従していく相手。
ライドウ五式が撃たないのを奇妙に思いつつも、尾野はハンドガンの射程距離まで近づくと構えた。
しかし、撃つ直前になって尾野はライドウ五式もトリガーに指をかけているのが見え、発砲と同時に回避を選択する。
70ミリの発砲音とレールガンの発射音が同時に響く。
ハンドガンの弾はレールガンに命中し、破壊。レールガンの発射体はカサドールの左腕に命中し、破壊した。
「左腕油圧ライン閉鎖。左操縦桿射撃ボタンへ汎用エネルギーシールドをアサイン」
走行ペダルを踏みながら、音声入力をしていく尾野。
自動認識するよりも先に、油圧ラインを閉鎖して圧力損失を減らすことによって、即座に行動できたことにより、ライドウ五式との距離は近接の間合いだ。
刀を振り下ろした尾野だったが、ライドウ五式はアサルトライフルで受け止めた。
銃身が曲がって使えなくなったアサルトライフルを投げ、ヒートダガーで応戦を始める相手。
残念ながら、状況は尾野にとって不利だ。
左腕がないこと、武器が六半刀だけなこと。
相手はカサドールよりも力の強いライドウ五式で、しかも金属系に相性の良いヒートダガーだ。
刀を振り下ろすと、ヒートダガーで防ぎ、ヒートダガーが振り下ろされると、エネルギーシールドと刀で防ぐ。
鍔迫り合いが起き、両機は一時距離を取った。
互いに動かない状況の中、刀を前方へ放り投げ、尾野は両手のスロットルを捻る。
地面を滑るように移動するカサドール。
それを見て、同じようにライドウ五式もスラスターを噴射して距離を詰める。
しかし、ライドウ五式との距離を詰めていた尾野の視界は急に真っ暗になった。
「いや、え?」
戻ってきたHMDの映像は武器選択画面。
大きく溜め息を吐きながら、尾野は何が起きたかを悟った。
パイロット養成高校の特別メニューへ移動したのだ。
ということは、3時限目の終わりに近い。
もう少しでライメイの整備ができる。尾野の脳内はこの考えに支配されていた。
武器選択で右腰にダガーを追加しただけで、準備完了する。
しばらくして、視界が変化してカウントダウンが始まった。
今までのだだっ広い場所ではなく、大量の廃墟があるゴーストタウンのような場所だ。
周辺地図には分かりやすく地形が出ていて、周囲に赤点が見えた尾野。
地図の近くには『51/51』と表示されている。
尾野は特別メニューがどういうものか理解した。
「ラストスタンドか。ってか50人もいるんだな」
最後に立っていた者が勝者。バトルロイヤルだ。




