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第12話 その後


 慣れたように機体を降りてきたのは、厳めしく軍人らしい顔つきの大下。

 もう1人は大下よりも若く軽薄そうに尾野には見えた。

 それは大下の上官で通信していた相手だ。


「学生」

「初めまして、尾野晴佳です」

「尾野くん、はじめまして」

「にしてもホントに学生だったんだな」

「通信してたんですから、疑うことないでしょう」

「妙に落ち着いていたから、分隊長といっしょに年齢詐称してるんじゃないかと話してたんだよ」

「大下さんもですか」

「それよりだ学生。お前はこれから病院で検査を受けて、戦闘することになった経緯を話してもらう。行くぞ」


 分隊長は整備士養成高校の駐車場へ歩いていく。

 大下に促され、尾野も一緒に歩いていくと駐車場には兵員輸送車があった。

 エンジンがかかった状態で、いつでも出発できるようになっている。

 後部の油圧ドアが開いて、乗員室へ簡単に乗り込めるようになっており、操縦士だけで乗員はいない。


「大下、周囲確認してくれ」

「はい、分隊長」


 尾野は2人と一緒に乗り込むと、分隊長が油圧ドアを閉じた。

 大下が車両の天面にある小型のハッチを開けて、外に身を乗り出す。


「出してくれ」

「了解しました」


 操縦士が返事をすると、兵員輸送車は動き始めた。

 通常の車よりも座り心地の悪いシートで尾野は分隊長をジッと見ている。


「俺はどこに行くんですか?」

「第十四旅団即応大隊の駐屯地だ」

「そこの病院ですか?」

「そうだ。心身に異常がないことを確認してから、事情聴取をするんだが、今のうちにザッと教えてくれ」


 そう言われた尾野は、試運転日でカサドールの試運転中だったことを伝えた。

 分隊長は頷いたが、すぐに首を振る。


「いやいや、プラズマライフルとかいう武器の話、あっただろ?」

「あれは先週の金曜日に急遽決まったみたいでした」

「そうか。まあ、戦闘に関してはログを確認しとく」

「はい」

「診察が終わったら、事情聴取する。ただ明日以降に他の人が話を聞きにくるかもしれないから、覚えておいてくれ」

「はい」


 その後、尾野は第十四旅団即応大隊の駐屯地内にある病院で診察を受けた。

 もちろん正常で健康。多少の疲労は見られるというくらいだ。

 事情聴取は尾野が想像していたよりもずっと早く終わって、学校へ返された。

 駐車場で尾野は降ろされると、他にも大量の軍の車両がある。

 バリアントの素材を回収するためのものだ。


 寮へ戻った尾野だったが他には誰もいなかったため、部屋へ戻って着替える。

 キッチンで湯を沸かしている間に自動販売機でパンを買った尾野。

 食堂でひとり、侵攻の被害状況を確認しながらコーヒーを淹れ始めた。


 時刻14時、被害状況を見ていくと死亡者は現状いない。

 建物が少し壊れたようだが、軍の方も被害はないという。

 パンを食べながら、尾野がさらに情報を確認していると寮の中が騒がしくなった。

 地下へ避難していた人たちが帰ってきたのだ。


「あれ、尾野。地下には来なかったんだな」

「まあな」

「で、なんで私服なんだよ? 授業あるだろ」


 西田が入って来て以降、続々と寮生が入って来る。

 誰もが西田の言葉に頷きながら、尾野を見ていた。


「校内にアネモネが来て、授業どころじゃない」

「ああ。てことは、軍が来てるのか?」

「車停まってたぞ」


 尾野の言葉で大半の生徒が軍の車両を見るために寮を出た。

 バリアントの肉体は軍で使われるため、軍が回収をする。

 窃盗を疑われる可能性があるため、付近の人は外出をしない。

 それが校内で起きているとすれば、学生が問題を起こさないよう基本的には待機だ。


「で、逃げられたのか?」

「逃げられなかったら、ここにはいねぇな」

「そりゃそうか。そう言えば班長がARグラス持ってたぞ」

「ああ、あとから取りに行く」


 尾野はそういうとスマホに目を向ける。

 西田は尾野が話をする気分じゃないと判断して、食堂から去っていった。

 食事を終えた尾野は、隣の女子寮へ向かいインターホンを押す。

 女子寮から出てきたのは五戸だった。まだツナギを着たままだ。


「よう、五戸」

「ちょっと待って」


 挨拶をしただけの尾野は手を挙げた状態で固まっている。

 用件を言う間もなく、扉が閉じられ待っていると、出てきたのは藤林。

 その手にはARグラスがある。


「これだよな」

「助かる、班長。ネックサポーターは洗濯したら返す」

「わかったよ。うん?」

「な、なんだ?」


 尾野は藤林からジッと見つめられ、居心地の悪さを感じてぶっきらぼうに返事する。

 しかし、藤林は気にせず、しばらく尾野を見ていた。

 ようやく終わったと思ったら、先ほどとは正反対のことを言われて首を傾げる尾野。


「やっぱりネックサポーター持ってこいよ」

「えっ?」

「さっさと持ってこい」

「はい、班長」


 尾野は部屋へ戻って、個人の洗濯籠に入れていたネックサポーターを取って、女子寮へ急いだ。

 持ってくると、藤林は頷いて寮へ帰っていく。

 釈然としないながらも、疲労が溜まっていた尾野は何をするでもなくダラダラと月曜日を過ごしたのだった。

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