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第1話 整備士養成高校2年 尾野晴佳


「えーと、1999年に地球(別次元)と融合して、世界の仕組みは変化した。尾野、これってあれだろ、機動甲冑とかが存在しない世界だったんだろ」

「整備士志望ならローナ11って言えよな。西田」


 3時限目が終わり、昼食を食べに寮へ帰ろうとしている尾野晴佳おのはるかは、歴史の授業の振り返りをしてくる西田凪人にしだなぎとからの質問に答えていた。

 午後からは来週にある試運転のため、班に与えられた練習機を点検・整備する授業だ。

 だから尾野は早く寮へ戻り、昼食をとる予定だったが止められている。


「今よりは確実に平和な世界だと思うんだよ俺」

「だろうな。人口だって減ったらしいからな」

「それでも俺たちは運が良いよ、ローナ11がある世界に生きてるんだから」


 尾野は、たまにある西田の運が良かったよなトークに巻き込まれていた。

 変化する前の世界では、人型有人巨大兵器のローナ11が存在できない。

 ローナ11というのは一般的に機動甲冑と呼ばれており、制式名称は広まっていない。


「バリアントのD種とH種の襲撃がそこら中で起きるからな。ある程度は平和だから俺は過去の方が良かったかもな」

「4班、集合」


 会話の途中でかかった集合に素早く反応し、班長である藤林日奈ふじばやしひなの所へ行く2人。

 ここ、整備士養成高校ではローナ11の整備士志望を集めて指導している。

 5年制の高校で尾野たちは1年の4班だ。


「よし、全員いるな。来週月曜の試運転だけど熊野が武器の追加を指示した。だから今日は作動確認とLACSのデータ修正をする必要がある」

「班長、熊野先生は手伝ってくれるよな?」

「尾野が頼んでくれ」

「りょうかーい」

「そういう事だから、尾野はLACSの調整、他は武器の作動確認とデータ取りだ。予定してたより帰るのは遅くなるから、気を引き締めろ」

「で、班長。追加された武器ってのは?」

「プラズマ推進ハンドライフルだ」


「で、尾野。そのハンドライフルはどういうのなんだ?」


 寮に帰って、1年の4班で食事をしていると西田が追加された武器について聞きはじめた。

 尾野自身も名称と仕組みを知っていて、軍でも使わない武器であると聞いたことのあるくらいだ。


「ローナ11のスラスターを射撃武器に使った、杭を発射する武器だな」

「ローナ11のプラモには出てこないけど」

「不人気って聞いたことあるな」

「なんでそんな武器を追加したんだ?」

「さあな。今日はさっさと帰って明日のためにバイク洗車と注油するつもりだったのに」

「この感じだと、帰る頃には陽が落ち始めてる頃だろ」

「だな。熊野先生も嫌な事してくれる」


 食事を終えてツナギに着替え、尾野は整備士養成高校の2年整備場へ向かう。

 今は3月で来月には尾野たちも2年生だから、整備場は2年の場所を使っている。

 整備場へ入ると、休み時間中だったが尾野以外の班員はハンドライフルの近くでデータ取りをしていた。

 尾野がすることはLACSの修正、脱出装置の点検だ。

 脱出装置はローナ11の内と外で点検する必要がある。


 尾野の顔は誰が見ても面倒くさいと分かる渋面だった。

 しかし、試運転者の命に関わるところだからテキトーにも出来ない。

 点検のために工具を取りに行っていると、2年の整備指導主任である熊野凛太朗くまのりんたろうが近づいてきた。

 学生の間ではゴリラ顔で有名だ。


「尾野、聞いてると思うけど試運転に武器追加するぞ」

「はい、班長から聞いてますよ」

「なあ? なんであんなに藤林はおっかないんだ?」

「さあ、藤林と五戸は特におっかない方ですね」

「確かに他の女子生徒よりコワいな」

「コワいですけど、他の男子と同じように接すればいいと思います」

「それ、先生には無理だろ?」

「はい」

「お前な」


 尾野と熊野の会話は遠くで作業をしている女子含めた4班には聞こえていない。

 2人とも確認をしたうえで話をしていた。


「先生、ハンドライフルの話ですけど、1発だけ撃つんですよね?」

「カサドールが撃てるのは1発だけだろう。動けなくなるかもしれないから、出力を70パーセントで発射するようにしてくれ」

「分かりました」

「それと充電をジェネレーターとバッテリーからにしておいてくれ」

「分かりました。駆動用バッテリーですか?」

「ああ」

「分かりました。それで先生は点検を手伝ってくれるんですよね?」

「そのつもりで来たんだよ。試運転者の尾野は脱出装置だよな?」

「はい、外側を頼みます。内側をしてますから、修正データが来たら呼んでください」

「おう、分かった」


 熊野が嫌そうに頷いたを確認してから、尾野は班に与えられているローナ11の練習機『カサドール』が横たわるメンテナンス台へ向かった。

 人型有人巨大兵器ローナ11の中でも初期に作られた、練習機カサドール。

 曲面が少なく、人型の巨大重機と呼ばれもする機体だ。


 初めて見る者に恐怖を与える大きさだが、尾野や熊野は感じ入ることもなく近づいた。

 4班のカサドールは黄土色に塗装してあり、胸部には『4』と描かれてある。


 尾野はカサドールの右肩にある搭乗ハンドルを半回転させた。

 すると、頭部と胸部が動いてコックピットが露わになる。

 シートに座って脱出装置の点検を始める尾野。

 しばらくして脱出装置内側の点検が終わる前に、コックピットが外から開けられた。


「尾野、データ持ってきたぞ」

「ありがとうございます。熊野先生」

「外側の点検は終わったから、先生は他の班を見てくる。放課後までかかるようなら報告してくれ」

「分かりました」

「それと、連絡入るだろうからイヤホンしとけ」

「はい」


 尾野はスマホと接続したイヤホンを耳に入れ、渡されたデータを確認していく。

 LACSはローナ11専用の武器統制システムだ。

 ローナ11が使用できる武器の各種データを持っているが、それは実際のデータと違う場合がある。


 今回の場合、実際の重量、バッテリー消費を考えて発射時の出力変更、充電経路の変更をしなければならない。

 他にも新しい武器を装備させる場合は、実データとLACS上のデータの差異を修正する必要があるから、それも加わる。


 脱出装置内側の点検を終えて、尾野はLACSのデータ修正でシートに座る。

 LACSの修正にはコックピット内のバッテリーを使うから、スイッチを入れる必要がある。

 スイッチを入れる時、養成高校生は指差呼称をしなければならない。

 尾野は聞いただけだが、軍人も指差呼称をしているという。


 整備士志望の場合は特に班で整備をするから、ミスしてしまえば班員が怪我をするかもしれない。

 尾野がいやいやながらも指差呼称をしようとしていると、スマホが震えた。


「もしもし」

『尾野、チャイムなったよ』

「班長、カサドールの近くにいるのか?」

『ん? ああ、電源か。近くにはいるけど、誰も触れてないから大丈夫だよ』

「りょうかーい。コックピットバッテリー、容量、電圧ヨシ。LACSヨシ。HMD動作表示異常なし」

『HMD見てないだろ、尾野』


 藤林からの言葉にギクッと体を震わせる尾野。

 会話にほんの少しの間があり、藤林は溜め息を溢した。


「見てない。終わりに見るからいいよな?」

『忘れて困るのは尾野だから、いいんじゃないの?』

「今、見ます」


 シート上にあるHMDを尾野が覗き込むと、映像は表示されず四つに分かれている視界。

 視界上部と下部の半分を前方視界、下部は後方視界、左右には左右の視界が割り当てられている。今は表示されていない周辺地図情報と武器情報は装備をしないと出てこない。


「チェックしました」

『お? 尾野か?』

「ん? 西田?」

『尾野、休憩だぞ』

「西田、分かってて言ってるなら今日のデザート貰うからな」

『そっちは寝ながら確認だろ。こっちはこれから足と腰の点検だ』

「それなら変わるか?」

『冗談だって、こっちは作動確認も終わったし、点検は1時間もすれば終わるけど』

「部屋のプラモ売られたいのかな?」

『こっちは事実を伝えただけ』

「班長、西田を叩いてくれ」


 急遽入った武器の試験をするために予定がずれて、西田に神経の逆撫でされる尾野。

 しかめ面になっていたが、それも続く西田の言葉でおさまっていく。


『イタっ、班長、マジで叩くなよ。尾野も冗談で言ってるって』

「本気です、班長」

『もういいよ。それで、尾野はどれくらいかかるんだ?』

「さあ、今始めたけど、数字と英語の羅列を俺が確認できるか、だからな」

『そういや尾野さ、明日は民間居住区行くんだろ』

「お前は明日の事考えられていいな、西田」


 恨めしそうに放たれた尾野の言葉は西田の返事に間を作らせた。

 それは尾野の想像通りに罪悪感が少なからず生まれたからだ。


『……もう、その話はいいだろ。で、行くんだろ?』

「その予定だな」

『ゲーセン近くのプラモ屋に新しいローナ11プラモ入荷したか見て来てくれよ』

「ネットで見るか、電話しろ」

『頼むわ。今日のデザートやるから』

「さっきは嫌そうだったのに」

『俺、杏仁豆腐はあんまり好きじゃない』

「わかった。杏仁豆腐もらうからな」


 電話口から聞こえてくる西田の声は弾んでいる。

 プラモを確認してもらうのはうれしいのだろうが、尾野の知る限り西田は杏仁豆腐が嫌いだ。 あんまり好きじゃないというのは語弊があるだろう。

 寮生活以前から2人は一緒にいるが、結構な頻度で誰かに杏仁豆腐を渡していることを尾野は知っている。

 今回は互いに都合が良さそうだ。

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