ゴマすり三下クソ野郎と美少女留学生の馴れ初め 〜5
ドーモ。ゴマクソ第五話、始まります。ピンチを乗り越えた一とアニエスは、駅前広場のベンチに腰掛け語らい合う___。
夕方___!
駅前広場のスペースに設置されたベンチに腰掛けるアニエスに、一は自販機で買った飲み物を渡す。
「はいコレ。カフェオレで良かったかな?」
「あ……ありがとうございます。えっと、お金……」
「あぁ〜、いいのいいの。バイト代入ったばかりだし、大した額じゃないから……」
そう言って一、アニエスの隣に少し間隔を空けて座る。
一はカフェオレと一緒に買ってきた自身の缶コーヒーのプルタブを開け2口飲むと、ゆっくりと語り出す……。
「まずさ……さっきはどうもありがとう。お陰でバイト代を奪われずに済んだよ」
一から礼を言われ、慌てふためくアニエス。
「そ、そんな……むしろお礼を言うのは、私の方です……」
そう言うとアニエス、一の方を向いて頭を下げる。
「助けてくれて、どうもありがとう。この前は弟もお世話になっちゃったし、永野くんには助けられてばっかりだね……」
アニエスの言葉に一、首と両手を横に振る。
「いやいや!そんなことは全然いいんだ」
ただ……と呟き、一はこんなことを言う。
「さっきアニエスさんが、こんな人たちにお金を払う必要なんてないって言ってくれた時……結果的には俺も助かったけど、正直あれは、あまり手放しで褒められた行動じゃないかもしれない」
「え……?」
「あ、誤解はしないでほしい」
一はそう前置きし、更に続ける。
「アニエスさんの行動は、人として間違ったものじゃない。むしろ、正しい意見だった。だけど……悲しい話だけど、人として正しい行動が、必ずしも正解になるとは限らない」
両手で握った缶コーヒーに視線を落としながら、一はこう続ける。
「例えばあの時、もしも警官が来るのが遅れていたら、俺はあのままボコボコにされて、アニエスさんもあいつらに乱暴されてたかもしれない」
一は缶コーヒーから視線を逸らし、アニエスを見る。
「あいつらが同じ学校に通う人間だったなら、あそこで金を渡すことで、今後も日常的に金を要求されていたかもしれない。だけどやつらは所詮、今日たまたま街で会っただけの、今後会うこともないアカの他人だ」
絶えず諭すような口調のまま、一は言う。
「金なんてまた稼げばいいけど、アニエスさんの身の安全だけは取り返しがつかない」
「……っ!」
黙って俯くアニエス……一はすかさずフォローするように言う。
「俺もさ?せっかく稼いだ金をあんなやつらに渡すのは、本意じゃない。チンピラ共を、空手やら柔術やらで華麗に撃退……なんてできたら、最高にカッコイイと思う」
そこまで言って、一は再び缶コーヒーに視線を落とす。
「だけど……現実って、そうもいかない。どんなに頑張っても、人が二人以上の人間を相手にするのは困難だし、たとえ一人でも、素人じゃ暴れる人間を取り押さえるのは難しい。体格差なんかもあれば、尚更だ」
そう言って一は、自嘲ぎみに笑う……。
「揉め事なんて、頭を下げて一度金を渡すだけで済むなら、それに越したことはないんだ。……って、こんなことを言えば情けないやつって思われるだろうけどね」
笑いながらそう言う一に、しかしアニエスは___!
「そんなことありません!!」
そう言って立ち上がったアニエスに、一は思わずビクリとする!
「永野くんは、出会って間もない私のために私とあの人達の間に立って、お金まで差し出して助けようとしてくれました!!それに、あの人達に暴力を振るわれても、最後まであの人達を私に近付けないように庇ってくれました!!」
少しだけ興奮した様子で、アニエスは言う。
「そんな人が……情けないなんてこと、決してありません!!」
呆気にとられる一……突き刺さる周囲の視線!
「お、おぉう………あ、ありがとう……。取り敢えず、落ち着いて……ね?」
図らずもリスペクトされたことと、周囲の視線……気恥ずかしさのダブルパンチ!!
「ご、ごめんなさい……でも」
俯くアニエス……その顔は、仄かに赤みがかっている。
「永野くん……かっこよかった。それだけは、伝えたくて……」
「えっ??」
思わず素っ頓狂な声を上げる一。
アニエスはより一層顔を赤くしながら、一に背を向ける!
「そ、それじゃあもう行くね?また、学校で!!」
アニエスは早足にその場を去った……!
一方、その場に一人残された一は……!
(………ほ…………惚れてまうやろぉぉぉ〜〜〜〜〜……!!)
思わず恋に落ちてしまいそうな自分に、頭を抱えるのであった……!!
___帰りのバスの中で、ぼんやりと窓の外を眺めるアニエス。
国語の参考書と、好きな作家の小説の新刊を買いに駅の近くの書店まで来たところ、今日は思わぬトラブルに見舞われてしまった……。
しかし!今アニエスの頭に浮かぶのは、トラブルに見舞われたモヤモヤでも、購入した新刊のことでもない!
頭に浮かぶのは、自らを助けてくれた一人の少年!
アニエスは、彼のことが頭から離れなかった……!
(これって___)
自らの内に芽生えた感情に、アニエスは頬を赤らめるのであった……!!
―――――――――――――――――――――――――――――
後日___!
本日は快晴!!
夏の茹だるような日差しが、校門前の坂道を登る一を苦しめる……!
「あぢぃ〜〜……」
本日体育の授業がないのは、一にとって唯一の救い……!
なんとか坂を登り切った一は校門をくぐり、昇降口へと辿り着く。
一刻も早く飲み物を飲みたい一。中庭へ行く前に、下駄箱で靴を履き替える。
一が下駄箱を開けたその時……!
ヒラリ……と!
下駄箱の隙間から何かが落ちる!
一が拾い上げると、それは手紙!
(こッッッこれは!?)
下駄箱に手紙……!
よもや果たし状だの、格闘大会の招待状だのは有り得まい!
ともすれば、可能性は一つ!!
一は直ぐ様上履きを履き、近場のトイレの個室へと駆け込む!
便箋を開くと、鼻孔をくすぐるフレグランスな香り……!
おそらくはフレグランスペーパーによるもの。
惜しむらくは、ここがトイレであるため、芳香剤の匂いと混じってしまっていること!迂闊!!
気を取り直して、一は手紙を読む!
便箋には、とても綺麗な字でこう書いてある!
『突然のお手紙、失礼致します。貴方に伝えたいことがあって、手紙を認めました。学校の屋上で、貴方を待っています。』
屋上!
告白の定番スポット!!
手紙の内容から察するに、間違いなくこれはラヴ・レター!!
しかし、一には一抹の不安があった!
そもそも、自分に告白をする女子など本当にいるのだろうか?
一のルックスは下の上か、良くて中の下!
もちろんこれは、一自身が高校での恋愛を諦めているため、身だしなみにそこまで金を掛けていないことも影響しているが、兎にも角にも平凡な顔立ち!
加えて身長も171cmと、別段高くもない。一時期ネットで流行った悪い言い方を敢えてするならば、人権ギリギリ!!
もちろん身長ごときで人間の人権が左右される事など無いが、一般的に高身長のボーダーラインとされる180cm未満の身長は、恋愛面では全くアドバンテージにはならない!
加えて筋肉も無い!ガリガリに痩せ細っているというわけではないが、部活動をやっているわけでもないので、ガッシリしているわけでもない!
見当たらない……惚れる要素が!!
もちろん、恋愛とは理屈ではない!
周りから見れば特段イケメンではなくとも、些細な切っ掛けや独自の好み等で恋愛に発展することは、大いに有り得る!
しかし、一はもう一つの可能性を考える!
イタズラ!!
告白というのはブラフで、本当は浮かれるこちらの様子を数人がかりで撮影し、最後に告白が嘘であることを明かして一気に落胆させる、悪質なドッキリ動画!!
その可能性もある……というかむしろ、その可能性の方が高いかもしれない!
一は取り敢えずその足で中庭へと赴き、自販機でスポーツドリンクを買い、当初の予定通り喉を潤す。
「フゥーー………さて、行くか」
スポーツドリンクを一気に飲み干した一は空のペットボトルを捨て、一旦教室に寄って鞄を置いたのち、屋上へと向かう!
これが撮影であれば、一の取るべきリアクションは決まっている。
まず、告白された時!
『まじすかーー!?やったーーー!!よろしくおなしゃす!!』
そして、ドッキリだと明かされた場合!!
『ええ〜〜!?ちょっともぉ〜〜ちょっと〜〜!!なんすかもぉお〜〜〜!!それは酷いってぇえ〜〜〜!!』
そう言いながら、両手で頭を押さえながら地べたに転がる!
脳内シミュレーションは完璧!!いざ、屋上へ……!!
屋上の扉を開けると、そこで待っていたのは……!!
「あ……永野くん。来てくれたんだね」
そう言いながら一に花が咲いたような笑顔を向けたのは、留学生、アニエス・カスタネール!!
「ッッッ!?」
息を呑む一!
一は直ぐ様、心当たりを思い浮かべる!
真っ先に浮かんだのは、チンピラ二人に土下座しながら媚びへつらい、金銭を明け渡す自分の姿……!!
(こっ………コレは無い!!)
流石にこの姿を見て惚れられたなどと考えるような、おめでたい頭など、一は持ち合わせていない!!
つまりコレは、ドッキリ確定!!
一としては、アニエスがこのようなことに加担したのは些かショックだが、彼女もきっと断りきれなくて仕方なくやっているのだろうと、気持ちを切り替える。
「ごめんね?突然手紙で呼び出したりして……」
「い、いえいえ!!え〜っと、ところで話って何かな?」
一賀訊ねると、アニエスは胸の前で両手の指を合わせつ俯く……。
その顔は、仄かに紅潮している……!
「え、えっと………あの……あのね?こんなことを急に言ったら、永野くんを困らせちゃうかもしれないけど……その……」
アニエスは一瞬目をぎゅっと瞑り、意を決したようにその言葉を言った!!
「私……貴方が好きです!私と……お付き合いして、いただけませんか?」
言われてしまった……!!
(………ヤベ、なんか泣きそ……)
これまででちょっとアニエスのことを好きになりかけていた自分がいたため、アニエスがこのような悪質なドッキリを仕掛けたことが、予想以上にショックな一!!
(イカンイカン。取り乱すな、俺……)
一は改めて気持ちを切り替え、あらかじめ用意していた定型文を口にする!
「まじすかーー!?やったーーー!!よろしくおなしゃす!!」
これ以上ないオーバーリアクションで喜ぶ一。
「……」
しかし、それを見たアニエスはどこか浮かない顔……。
「……永野くん………やっぱり、迷惑だった?」
アニエスのその一言に、ギクリとする一!
「い、いやいやいや!!迷惑だなんて、そんな全然……え?なんでそう思ったの?」
「だって永野くん、本当は喜んでないよね……?」
更にギクリとする一!まさか見抜かれるとは思いもしなかった……!
「い、いや……喜んでないなんてことは……全然……」
「嘘!!永野くんが本当は喜んでないって私分かるよ!」
(おいおいおいおいおい!?)
これを言われたらもはや、撮影陣にも誤魔化しきれない。
一は観念したように言う……。
「……まぁ、そりゃあ……流石に………だってこれ、ドッキリでしょ?」
一のその言葉に、意外や意外!アニエスはぽかんとする。
「……ドッキリって………どういうこと?」
アニエスの言葉に、今度は一が呆けたような顔をする。
「へ??いや………だってこれ……撮影してるんじゃないの??物陰からこっそりと、クラスの誰かしらが、スマホかなんかで……」
一がそう指摘すると、アニエスはびっくりした様子で言う。
「そ、そんなことしないよ!!もう!!」
アニエスは怒った様子で、ぷっくりと頬を膨らませる。
「永野くん、私がそんなことしてると思ってたの!?ひどい!」
「す、すいません……。いや、ていうかその……えっ、じゃあ……告白は………マジ??」
しどろもどろに一が訊ねると、アニエスは頬を膨らませながら答える。
「……マジです!」
その返事を聞いた瞬間、一は分かりやすく緊張する!
「えっ、あの………えっ?じゃあ、その………なんで??」
どもりながら訊ねる一!彼にしてみれば、どこに惚れる要素があったのか、皆目見当もつかない……!
「……初めて声をかけてくれた時……永野くん、私のことを気遣ってくれたんだよね?」
アニエスは頬を赤らめながら、ゆっくりと語る……。
「永野くんは、私のことなんて放っておいても良かったのに……困ってた私を見かねて、あえて助けてくれたんでしょ?」
それに……とアニエスは言う。
「永野くんは弟をお婆ちゃんのお墓まで連れて行ってくれて、その後私にこう言ってくれたよね。お父さんと一度話し合ってみるべきだって……家族だから言葉にしなくても分かり合えるなんて、そんなこと無いって」
そう言うとアニエスは、にこり微笑む。
「私、あの言葉のおかげで、お父さんとちゃんと話し合えたんだ。だから私にとって永野くんは、私に勇気をくれた恩人で……とっても優しい人で……」
気恥ずかしそうに語るアニエスを見て、一の方まで気恥ずかしくなる。
互いに顔を赤くしながら、アニエスは最後にこう告げる。
「永野くんが私を怖い男の人たちから守ってくれた時、思ったんだ。この人は優しくて、とっても勇気のある人なんだって……」
買い被り!
確かに一は悪い奴でもないが、アニエスの評価は、一的には幾分買い被りが過ぎる!!
「だから……その………もしも永野くんがよければ、私と……」
より一層顔を赤くしながら、アニエスは言う!!
「………こ……恋人になってください!!」
アニエスの声が屋上に響き渡る!!
この告白を受け、一は………困惑!!
高嶺の花であるアニエスから告白されるというこの展開……!
もちろん一も嬉しい……嬉しい、が!一にとってはあまりにも唐突な、降って湧いたような急展開!困惑も無理はない……!
それに、もしも付き合ったとして、今後はどうなる!?
その場合、二つの問題が浮上する!!
1つはズバリ、周囲の目!!
フランスから来た美少女留学生の噂は、既に学校中に広まっている。
クラスの1軍陽キャにゴマを擂るしか能のないゴマすり三下クソ野郎が、1日にして学校のマドンナとしての地位を獲得した美少女留学生と恋仲になる!!
学校中に激震が走り、次に一は「何故こいつが?」という視線を向けられるだろう!
当然1軍陽キャ達は面白くない!!彼らから総スカンをくらい、最悪イジメの標的にされる!
常に人様の太鼓を持ち、ゴマを擂って生きてきた一にとって、それはあまりにも受け入れ難い……変な言い方になるが、ゴマすり三下クソ野郎としてのプライドが許さない!!
そもそも、ゴマすり三下クソ野郎などにプライドというものがあるのか?と、読者一同は思うかもしれない。
だが一には、他人に頭を下げ、ゴマを擂り、相手を気持ち良くして他者に取り入るという生き方に、一なりの矜持があるのだ!!
2つ目の問題は、学業!!
一は将来、1流大手のホワイト企業に就職するため、大学は【S.Ke.J.R】という、都内にキャンパスを置く4大難関私立大学のいずれかを目指している。
そのため、学業を疎かにしないためにも高校生活での恋愛は諦めていた。
いざ、高校生活での春を謳歌するとなれば、一のスペックでは学業に支障をきたすことは避けられない!
一にとって、アニエスとお付き合いをするということは、これだけのリスクを伴う行為なのだ!!
___しかし!!
一は考える!
(あるか、今後………俺の人生で……?)
今後の自分の人生において、フランスから来た容姿も性格も良い美人留学生とお付き合いする機会など、巡り会えるものであるか?
否!!!
この機を逃せば、フランスから来た容姿も性格 も大変良い美人留学生とお付き合いする機会など、永久に巡って来ない!!
もしも付き合っていることが周りに知られれば、最悪イジメに遭うし、それを避けられたとしても、学業に支障をきたすことは避けられないだろう!
しかし!
たとえそうであっても!!
それらのリスクを背負ってでも尚、フランスから来た容姿も性格も天使のように良い美人留学生とお付き合いしたい!!!
一の出した答えは……!!!
「…………よ……よろしくお願いします。ただ、その……このことは、学校のみんなには内緒ということで、1つ……」
「……!!うん!!」
一のその答えに、アニエスは顔を綻ばせる!
かくして!
ゴマすり三下クソ野郎と美少女留学生の秘密の交際は、こうして始まったのである!!
今後二人は、はたしてどうなっていくのか!?
__続く!!
ゴマクソ馴れ初め編、いかがでしたでしょうか?
私がゴマクソを書こうと思ったのは、本当に単なる思いつきでした。
偶然現代恋愛モノの話を思いついたタイミングで、偶然スピアノベルズ大賞で恋愛モノのジャンルを募集していて、「よし、作るかぁ……」というノリで書き上げました。
尤もスピアノベルズ大賞は異世界モノ限定であったため、応募は頓挫したのですが、なんだかんだで別の小説大賞の募集に応募できたので、結果オーライです。
というか、なろうのホーム画面のお知らせを見てみると、結構小説大賞の募集ってやってるんですね。しかも、応募方法は作品のキーワード設定で企画キーワードから応募したい小説大賞のキーワードを入れるだけという、お手軽手法。
1年以上なろうで小説書いてるのに、知りませんでした……。(汗)
今後はこうした小説大賞にも、積極的に応募していこうと思います。
次回の更新は未定ですが、プロット自体は出来上がってるので、書き終わり次第更新します。乞うご期待!